穴山信君

穴山信君（梅雪）像

穴山 信君・梅雪（あなやま のぶただ[1]/ばいせつ、 天文10年（1541年） - 天正10年６月２日（1582年６月21日））は、戦国時代の武田氏（甲斐源氏）一門の武将である。幼名は勝千代、法号は梅雪斎/不白入道である。武田二十四将のひとりである。

穴山信友の子で、生母は惣領家の武田信虎（のぶまさ、信直）の娘で、信玄（晴信）の姉で、妻・見性院は信玄の娘で、その間に信治（勝千代）を儲けた。弟に信邦（彦九郎信嘉[2]）がいる。

概要[]

穴山氏は甲斐国守護の武田信重の子の穴山信介が族父の穴山満春（信秋/信元とも、武田信春の子）の婿養子となって、同国巨摩郡穴山（現在の山梨県韮崎市穴山大字）を拠点として、信玄の代以前から武田氏一門として優遇された。代々が惣領家の武田氏と婚姻関係を結ぶ親族衆の重鎮であり、武田姓を許された名門であった。そのために、信君は「武田信君」とも呼ばれた。

同時に穴山氏は、下山城（現在は本国寺）を居城として、河内地方（同国巨摩郡南部地域（現在の山梨県南巨摩郡身延町周辺））・西八代郡の一部（現在の南巨摩郡身延町下部近辺））の他に巨摩郡北部の穴山（現在の韮崎市中田町及び穴山町周辺）などを領地とした。

そのため、穴山氏は巨摩郡南部地域・八代郡には、惣領家の武田氏より独立した勢力を持ち、独自に運営される金山をも所持する特許を持っていた。

信君は永禄4年（1561年）に『川中島の合戦』などで本陣を守護した[3]。引き続き、信玄の主要な戦いに従軍している。永禄10年（1567年）に、族弟かつ外従兄の義信が父・信玄に対して造反を起こした際に、義信の側近であった弟の信邦に切腹を命じて、自ら介錯役をつめていた。

永禄12年（1569年）に、惣領家の武田氏が駿河国を巡って、相模北条氏（北条伊勢家）と対立した際には、信君は武田軍本隊が甲斐国に撤退した後も横山城にとどまり、武田氏が駿河国へ再侵攻する足掛かりとなった。 のちに山県昌景（飯富三郎兵衛）[4]の後任として、同国江尻城の城主となる[5]。

信玄の死後に、従弟で義弟でもある勝頼とは対立が深刻化した。そのため、勝頼側近の跡部勝資・長坂光堅（釣閑斎）[6]の配下による暗殺未遂事変に遭遇した。

天正３年（1575年）の『長篠の戦い』の際には、勝頼の代理として奥平貞昌（信昌）が籠城する三河国長篠城を包囲して、貞昌が岳父の徳川家康に援軍を要請するために、配下の鳥井強右衛門（勝商/勝高）を浜松城に赴かせた。強右衛門が長篠城に帰途の際に信君は、怪しいと勘ぐってこれを捕らえて、強右衛門に対して「援軍は来ない」と述べるように命じた。しかし、強右衛門はこれに背いたために、激怒した信君は強右衛門を磔の刑に処した。

まもなく、『長篠の戦い』の敗戦直前に、独断で戦線を離脱した。信君の独断に怒った武田家臣の高坂昌信（弾正）が勝頼に信君を切腹させるべきだと進言したが、勝頼は親族衆の重鎮である信君を処断することで家中が分裂することを恐れて、その意見を退けたという[7]。

天正10年（1582年）に、織田信長の甲斐国侵攻の事態になると、縁戚関係にある木曾義昌（勝頼の妹婿）が裏切り、信君も犬猿の仲であった外従弟・義弟の勝頼を裏切り、家康を通じて信長に内応した[8]。

このように、武田氏一門の重鎮である信君の裏切りは武田氏諸将に衝撃を与えて、おなじく縁戚関係であった小山田信茂も裏切り、ついに武田氏は滅亡してしまった（『天目山の戦い』）。

最期[]

惣領家が滅亡すると、信君は信長から所領を安堵されたためで、その御礼を言上するため家康とともに上洛して、摂津国・河内国・和泉国に接している堺（現在の大阪府堺市）を遊覧していた際に『本能寺の変』が起こった。これを聞いた信君は家康と袂を分かれて、甲斐国に逃げ戻ろうとしたが、山城国綴喜郡にある木津川河畔（現在の京都府京田辺市の山城大橋付近）で、落ち武者狩りの土民に襲撃されて殺害された[9][10]。享年43。

信君の非業の死後に、家康は信君の嫡子の信治（勝千代）に家督を継承させており、また、妻の見性院も丁重に厚遇している。しかし、1587年に穴山信治が、17歳で夭折急死したため、ついに穴山氏は断絶した。

脚注[]

1. ↑ 通説では「のぶきみ」と呼ばれたが、近年では駿河臨済寺などに住した鉄山宗鈍が記した法語録『鉄山集』に「ノブタヽ」の読みが記されており、信君の偏諱を受けたと思われる重臣万沢君泰・君基もそれぞれ「タヽヤス」「タヽモト」とあることから、信君は「のぶただ」と読まれたことが判明されている。
2. ↑ 読みは「のぶひろ」。
3. ↑ 『甲陽軍鑑』
4. ↑ 飯富虎昌（兵部）の甥。
5. ↑ 駿州探題とも呼ばれ、信君は江尻城に城下町を形成し、輸送ルートを整備して商業政策を進めるなど、内政手腕に優れていた。また、外交にも多く携わった。
6. ↑ 長閑斎あるいは、虎房・頼広（頼弘）・国清とも呼ばれる。
7. ↑ 『甲陽軍鑑』
8. ↑ 一説に、旧領の安堵（河内・江尻領）、および武田家の存続を条件に内応したと伝えられている。
9. ↑ 金品を多く持っていた信君一行は、家康従者に強奪されることを恐れて別行動をとった結果、家康が派遣した刺客に暗殺されたともいう（『三河物語』）
10. ↑ 『信長公記』では、一揆襲撃による自害で、松平家忠の『家忠日記』によると、一揆襲撃によって観念して切腹したと述べている。

関連項目[]

• 武田氏
• 武田勝頼
• 武田信勝

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