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大気循環(たいきじゅんかん)とは、地球の大気の大規模な循環のことである。太陽から地球への熱の供給が原因となって発生する現象。大気大循環、大気の大循環とも呼ばれる。
大気循環は、海洋における風成循環および熱塩循環と並ぶ、地球上の大循環の1つである。
一見、大気の流れは絶えず移り変わっているように見えるが、非常に大きな規模(地球規模)で見ると大気の流れは基本的には一貫しており、大規模な循環の構造を成している。しかし、大量の熱(太陽エネルギー)を受けるために熱帯における循環は不安定であり、十数日単位で流れが変化し、その予測が難しい。熱帯低気圧の発生の予測が難しいのもこのためである。
異なる緯度間での大気循環
より立体的な図(大西洋におけるモデル例)
緯度によって太陽からの熱エネルギーの供給量が異なるため、赤道(0°)付近、中緯度(30°)付近、高緯度(60°)、極(90°)の4つの緯度付近には、それぞれ気圧の異なる地域ができる。この気圧差によって、高圧帯から低圧帯に向かう風の流れが作られる。この循環には、ハドレー循環、フェレル循環、極循環の3つがある。
地球の自転と地軸(赤道傾斜角)の傾きのために、その循環は複雑な構造を成している。
18世紀にイギリスの気象学者ジョージ・ハドレーがその理論を提唱したことからこの名が付いた。赤道付近には地球上で最も多くの太陽熱が供給されるため、暖められた空気が上昇して境界圏まで達し低緯度地域の上空へ流れ込んだところで冷やされて下降し、高気圧(亜熱帯高圧帯または低緯度高圧帯)となる。その高圧帯から赤道付近へは貿易風が吹き込む。地球の自転の影響によって、貿易風は北半球では北東貿易風、南半球では南東貿易風となる。ただし、季節によって太陽が天頂へ来る地域は変わるため、正しくは「赤道」ではなく「熱赤道」となることに注意しなければならない。ハドレー循環は、他の循環に比べて成因が簡単であり、説明も容易だとされる。
ハドレー循環によって、熱赤道周辺では大気が上昇して年間を通して気圧が下がる。この地域を熱帯収束帯または赤道低圧帯と呼ぶ。
19世紀にアメリカの気象学者ウィリアム・フェレルによって理論付けられたため、この名が付いた。フェレル循環は、熱力学的に見るとハドレー循環と極循環の2つの大循環によって引き起こされる2次的な循環だといえる。低緯度側ではハドレー循環によって大気が下降する一方、高緯度側では極循環によって大気が上昇している。この流れに合わせる形で、大気が渦を巻き循環していると考えられている。
フェレル循環によって、極東風や貿易風とは正反対の向きに風が発生する。これは偏西風と呼ばれ、フェレル循環と極循環の境界付近で最も強くなり、強い西風(ジェット気流)となる。ジェット気流は、亜熱帯高圧帯と極高圧帯の境界となっている。
フェレル循環は、亜熱帯高圧帯をつくる熱帯性気団と極高圧帯をつくる寒帯性気団の動きに左右される。2つの気団の境目は気圧が低く温度差も大きいため、常に低気圧(温帯低気圧)が発生しては消滅することを繰り返している。この繰り返しによってこの付近は年間を通して気圧が低い地域となり、高緯度低圧帯ができる。
ハドレー循環や極循環が1つの閉じられた大気の渦であるのに対して、フェレル循環は閉じておらず不完全で、地上付近ではその影響が顕著に現れる。大気の高層で風が西寄りのときにも、地上付近ではそれに関わらずさまざまな向きに風が吹くことが多い。寒冷前線の通過時には、風向が急変することもあるほか、低気圧が北にあるときは何日も東風が吹き続けることが多い。
赤道付近に比べて温度は低いものの、60°付近の大気は極地域に比べて暖かく湿潤である。このため、この付近で温められた空気が上昇する。するとこの付近の大気の下層部は気圧が下がり、高緯度低圧帯が発生する。極地域からはこの高緯度低圧帯に向かって大気が流れ込むが、コリオリの力を受めるため東寄りの極東風となる。極東風の風向は、北半球では北東、南半球では南東となる。
ロスビー波のため、極東風は大気に倍音の波を発生させる。この倍音は、極循環とフェレル循環によって大気が上昇する地域を流れるジェット気流の流路に影響を与えている(偏西風の蛇行)。
極循環は、低緯度地域から運ばれた熱を解消するヒートシンクの役割を果たし、地球上のエネルギー収支のバランスをとっている。
極循環によって寒気と暖気が衝突し、カナダやヨーロッパなど高緯度地域では発達した低気圧による激しい嵐に見舞われることがある。しかし、極地域では大気が下降して高気圧(極高圧帯)となり大気は安定している。そのかわり、気温は非常に低い。
ハドレー循環、フェレル循環、極循環の3つの循環は、熱赤道と極の気温差(緯度の違い)から生じる現象で、これと同じように気温差を生じさせるものはほかにもいくつかあり、そのうち大規模なものは帯状風や帯状反循環などと呼ばれており、3つの大循環を覆すほどのものである。
陸の比熱容量は海より少ないため温まりやすく、陸の熱伝導率は海よりも大きいため冷めやすい。このため、地上付近では日中は海から陸へ海風、夜は陸から海へ陸風が吹き、上空ではこれと逆の向きで風が吹く。この風は総じて海陸風と呼ばれ、日中の循環は海風循環、夜の循環は陸風循環と呼ばれる。また、季節の変化においても同様の現象(季節風)がみられる。この場合、地上付近では夏は海洋から大陸へ、冬は大陸から海洋へと風が吹き、上空では同様に逆の向きで風が吹く。また、数年単位で繰り返される循環もある。
1昼夜の周期で繰り返される循環は規模はあまり大きくないが、季節単位・数年単位で繰り返される循環は規模が大きく、太平洋と周辺の大陸の間で起こる循環はウォーカー循環と呼ばれ、その仕組みが解明されている。
赤道付近の太平洋で温められた大気は西太平洋で上昇し、東と西に分かれて循環している。東に向かった大気は東太平洋で下降し、西へ向かった大気はインド洋や大西洋で下降する。この循環によって、西太平洋と東太平洋の間で大きな海水温の差ができ、冷たい東太平洋から暖かい西太平洋への海水の流れが生じる(西太平洋の海面の高さは東太平洋より平均60cm高い)。
ウォーカー循環は、20世紀前半にインドの天文台の所長を務めたイギリス人気象学者ギルバート・ウォーカーにちなんで名づけられた。ウォーカーは季節風の特性からその変化を調べたものの、最終的には失敗に終わった。しかしこの研究が、後にウォーカーが「南方振動」と呼んだ太平洋・インド洋間の気圧変化の関係性の発見につながることとなった。
南方振動(ENSO)[]詳細は南方振動を参照。海水温がいつもどおりであればウォーカー循環は「正常」に働くが、海水温が変化するとウォーカー循環にも異常が現れる。
何らかの原因で西太平洋での大気の上昇が弱まると、貿易風が弱まって東太平洋の海水温が上昇し、ウォーカー循環が崩れる。
これはエルニーニョと呼ばれ、これが発生すると北米・南米・オーストラリア・南東アフリカでは季節はずれの猛暑や低温となり、干ばつや豪雨が発生する。また、大西洋では偏西風が強まり、ハリケーンの減少や弱体化をもたらす。
エルニーニョとは逆に、西太平洋での大気の上昇が強まると、東太平洋の海水温が異常に低下し、ウォーカー循環は過度に強くなる。こちらはラニーニャと呼ばれ、北アメリカでは寒冬(厳冬)となり、東南アジアや東オーストラリアでは低気圧が発達しやすくなる。また、南米では干ばつが頻繁に起こるようになる。
これらの変動は南方循環またはエルニーニョ・南方振動(ENSO)と呼ばれる。
ちなみに、エルニーニョ・ラニーニャのどちらも発生しておらず、ウォーカー循環が正常になっている状態を、ラナーダ(La Nada)と呼ぶこともある。
WCRP/SCOR Workshop on Intercomparison and Validation of Ocean-Atmosphere Flux Fields[1]pdfファイル
Joe D'Aleo, and Chief WSI/INTELLICAST Meteorologist, "SNOW OUTLOOK - WINTER 2000-2001" Intellicast, October 18, 2000.
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