登録日:2015/08/27 (木) 01:13:05
更新日:2024/01/16 Tue 11:12:04NEW!
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小林泰三 小説 短編 宇宙船 冷凍睡眠 魔法 sf コンピューター 資源 早川書房 キャッシュ ハヤカワsfシリーズ jコレクション ハヤカワ文庫ja 海を見る人 仮想世界 魔点 枯渇
最初から自分の世界が嘘だと分かっていたとしたら?
嘘の世界に住んでいる人は最初から幸せなのかしら?
それとも、やっぱり幸せを探しているのかしら?
それでは、もう一つ話をしてあげる事にしよう。嘘の世界に暮らす男の冒険を。
■概要
『キャッシュ』とはハヤカワSFシリーズ Jコレクションから発売されている単行本『海を見る人』、
およびそれをハヤカワ文庫JAが文庫化したものに収録されている短編小説。
著者:小林泰三
SFのお約束、冷凍睡眠装置と仮想世界の盲点を生かした好編。
■登場人物
- 主人公
住んでいる都市に唯一存在する探偵。
都市……というか世界自体が平和なため事実上唯一の警察要員。
そのため物凄く暇な毎日を過ごしていた。
- アリス
主人公に依頼をしに来た、金髪で胸が強調されているスーツを着た女性。
本来は姿も名前も存在しないブランク状態で過ごしている。
この世界の住民は相手に見せたい名前と姿を作っているが、どんなに理想の自分を作っても、
相手は自分が見たい姿に勝手に置き換えている事に気付き、どうせ相手依存なら自分で頭を捻って考えなくてもよくね?
となり『名無し・形無し』状態に。
このアリスと言う名前、および姿は主人公が依頼人は美人に限ると考え、作った物。
『世界』評議会に所属しており、世界の危機を救うための助手を求め、探偵である主人公に依頼してきた。
■用語
- 仮想世界
住人からは『都市』か、単に『世界』と呼ばれている。
人類の技術が進歩し恒星間飛行、それも有人飛行が可能になっても、まだまだ課題が残っていた。
それは時間が掛かり過ぎる事である。
医療技術も進歩し寿命は延びている……それでも何世紀の旅行に耐えられない。
耐えられても宇宙船での単調な生活の方に参ってしまう。
そこで科学者たちはSFのお馴染みアイテム・冷凍睡眠装置を導入する事にした。
実験は順調に進んでいたが、またしても問題点が浮上した。それは寝ている間に脳が記憶の整理をする事である。
脳は睡眠中に夢と言う形で記憶を整理しているとされているが、その際必要のない記憶を消去していたのだ。
冷凍睡眠で長い間寝ていると言う事は、それだけ知識を使う機会がない……つまり、脳が必要のない知識だと判断してしまうのだ。
何世紀もの長い旅をしようものなら、辿り着いた時には赤子状態なのは目に見えていた。
そこで科学者は睡眠中の脳に電気信号を送り、
任意の夢――仮想世界を体感させる事で、記憶を維持させようと考えた。
さらにコミュニケーション能力を忘れさせない為に乗組員達の仮想世界を共通にし、お互いに交流させることにした。
仮想世界はなるべく現実世界に忠実にしてあるが、
宇宙船に搭載させる事が出来るコンピューターに限度があるため、雑な所は雑な作り。
- 魔点
せっかくの仮想世界なんだからファンタジーな事をさせろよ! という住民からの意見で生まれたシステム。
住民は持っている魔点を使う事で奇跡――魔法を使うことが出来る。
飛行魔法は1分の間1魔点、台風を起こすなら300魔点……といった具合。
使い尽きると何も出来なくなるが、一人毎週1魔点発生する。
なお通貨としても使用が可能。
- ブランク
仮想世界なので外見や性別、声などは自分で自由に登録することが出来る。
何も自分だけを決めるだけではなく、魔点を支払う事で相手の外見も名前も自由に決める事が出来る。
ブランクとは他人と交流する上で必要なこれらの要素を決めていない人の事を指す。
声や口がないため、この状態の時は喋らずとも言いたい事が相手に伝わる。
なお相手がどんな風に認識しているかは、 こちら側からは確認出来ない。
例えば「太郎」と登録し、名乗ったとして、相手は気に入らないと思い「一郎」と登録したとする。
すると相手は「一郎」と呼んでもこちら側では「太郎」と変換される。
- キャッシュ
当然の事だが現実世界とは違い、仮想世界では何かが起きたらコンピューターが計算して世界に反映しなければならない。
誰かがガラスを割ろうとしたら、その人の行動、割った後の派生と周囲にいる人物の反応等……。
宇宙船に搭載されているコンピューターではこういった細かい処理をしていると限界が来てしまう。コンピューター資源が尽きてしまうのだ。
コンピューターを増やせば解決はするのだが、そんなスペースがあるのなら小規模の居住区を作った方が良い。
そこで生まれたシステムが『キャッシュ』である。
『キャッシュ』は住民一人一人所有しており、例えば上記の様にガラスを割ろうとした場合、
それから派生する現象をコンピューターが計算し、キャッシュ内で体感させる。
ここまでは個人だけが体験しているのでコンピューター資源は大して使わない。
次にキャッシュは計算内容を世界に伝え、世界はガラス関連を他の住民のキャッシュ等に反映させる。
そのキャッシュ内で改めて計算され、それが終わった時、周りにいた住民達はガラスが割れたことに気付く。
したがって当事者とその他の人物の認識に数秒の誤差が生じてしまう事になるが、その辺はキャッシュが辻褄合わせをしてくれている。
- クラック
コンピューター資源が尽き、処理が追いつかなくなった場所に生じる亀裂。
亀裂の向こう側には文字通りの無が広がっている。
資源が完全に底を突き亀裂が世界を覆う時、世界は消滅してしまう。
ただしコンピューターが世界を維持出来ないだけで住民は死ぬ訳ではない。
もっとも目的地に着くまでの数世紀の間、恐ろしいくらいに暇になるのだが……。
他人に見せたい自分を装っているのに、他人はそれを見てくれない。他人は自分が知らない自分を見続けている。
そんな世界は息が詰まりそう。
どこの世界でも同じ事なんだ。
他人に見せたい自分は自分にしか見えていない。他人は見たい自分しか見てくれない。
人は自分が見たいものを見る事が出来る。人は自分が見たいものしか見る事が出来ない。
人は不自由で身勝手なんだ。
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▷ コメント欄
- つまりどういうことだってばよ? -- 名無しさん (2016-02-24 16:24:22)
- 生きている人間のふりしたコンピューターを破壊、ヒロインは既に死んでいたってところじゃね -- 名無しさん (2016-05-21 01:28:43)
- 仮想空間上の仮想人格という部分では、キャッシュデータの塊と人間は区別がつかない、という事。電脳ものSFでは王道やね -- 名無しさん (2016-06-21 10:20:59)
- 「(意図的に)人間のふりをしていた」のではなく、「システムの欠陥のせいで人間のふりをせざるを得なかった」のが正解かと。本体の状態(つまり生きてるか死んでるか)を仮想空間に反映させるところに根本的なミスが有った。 -- 名無しさん (2019-07-27 21:35:09)
- これってつまりアリスが「仮想データ空間で死ねば本物の人間は生きてる脳を使って再構成されるけどキャッシュ人間は生き返らない、だからこの場で全員殺すのが一番手っ取り早い」って主人公に促して真っ先に自殺してみせたけど、アリス自身もキャッシュ人間だという自覚がありませんでした…ってオチか -- 名無しさん (2022-02-08 01:30:05)
- 著作権保護のための対応のための編集を行いました -- 名無しさん (2023-08-31 17:57:29)
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