16.緊張の瞬間
2259年、突然ラゲリアン保存国から通信が入ってきた。
銀河南方の探査とアノマリー解析の長い任務を終え、首都ヴァルートの軌道上で研究支援を行っていた調査船エクスプローラーの艦長、クセニア・ソロキナ博士の引き渡しを要求してきたのだ。
前にも述べたが、ラゲリアン保存国は没落帝国であり、その艦隊戦力は現状、銀河の全ての国家が結束して立ち向かったとしても到底勝ち目がない程の戦力とされている。そんな戦力と技術力を背景にしたこの要求。正直「要求」というより「脅迫」に近い。
悲しいかな、今の神聖ヴァルート覇帝国にはこれを断る術がない。
突然の別れに、クセニア博士とその家族は深い悲しみを受けた。
帝国の科学界も震撼したが、過去に例がない程の壮大な送別会が開かれ、多くのヴァルートの科学者や政府関係者に見送られ、クセニア博士はラゲリアン保存国首都「知識の泉」へ旅立っていった。
しかし一か月後、さらに驚きの通信が入った。
なんとラゲリアン保存国は神聖ヴァルート覇帝国に国境を開くとの連絡だった。
専守防衛のため、どこの国に対しても国境を閉ざしてきた没落帝国だが、先の要求を受け入れたことで我々に対する見方を変えたらしい。
クセニア博士が旅立った首都「知識の泉」へ行くことも可能になったのだ。
同時に、ラゲリアン保存国の星系を調査する事も可能になり、強大と噂される艦隊を間近に見るチャンスが巡ってきた。
この任務にはかつてクセニア博士が搭乗していた調査船エクスプローラーが選ばれ、後任である新人のセス・コンプトン博士がこれを指揮する事になった。
そして、国境を越えてラゲリアン保存国の国境アトラバー星系を訪れた調査船エクスプローラーが目にしたのは
第1艦隊の20倍以上もの戦闘力を示す、非常に堅牢な防衛要塞群だった。
未知の素材で構成された装甲と謎の原理で稼働する動力炉、先進的な実体弾砲とレーザー砲などで武装している。
もしこの要塞が動く事ができれば、それだけで我が帝国に引導を渡すことも可能だろう。
だが、これはまだ国境付近の要塞だ。首都星にはもっと強大な星系要塞と、主力艦隊が停泊しているはずである。
巨大で堅牢な要塞にも臆する事無く、調査船エクスプローラーは星系の調査を続け、首都星系フュージェオーに進入した。
↑首都星「知識の泉」をバックに停泊する、ラゲリアン保存国 機動艦隊「ガッドラー」と星系要塞
艦隊戦力だけで戦力値はヴァルート第1艦隊の100倍。到底かなう相手ではない。
一連の分析データと映像を見たヴァルート艦隊司令部と帝国政府は一瞬で理解した。
彼らが......ラゲリアン保存国が国境を開いたのは、我々に安心したからではない。
この圧倒的な戦力差を見せつけ、反逆の芽をそれだけで摘むためだと。
また、首都星「知識の泉」は惑星全土がスプロール化した都市工業区画に完全に覆われた「エキュメノポリス」だった。
「第4級時空特異点」という未知の強力な発電施設や、次元ファブリケータ―と呼ばれる生産施設が建てられ、たった一つの惑星だけで帝国全土を支えうる規模の設備が整っていた。
ラゲリアン保存国......彼らは我々をどう見て、将来どうするつもりなのか。
抗いようのない存在がすぐ近くにいる事は、帝国臣民全てに宇宙の広大と危険さを再認識させる結果となった。
17.銀河動乱
2261年、ウリィ帝国から驚きの通達が入った。
ダギルフォン啓蒙君主国と共に、イデオロギー強要のためにワケゴ連邦に宣戦したのである。
はたしてこの戦争がどのような結果を招くのか、注視しなければならない。
だが、ティラシアン-エリッス戦争、ウリィ・ダギルフォン-ワケゴ戦争と、銀河に広がりだした戦争の波。
それは我々にも押し寄せてきた。
2263年、ジブル連盟がロクスウンガ星王朝と共にラクサナスク共益連邦に宣戦。
防衛協定に基づき、神聖ヴァルート覇帝国はラクサナスク側に付き、ジブル・ロクスウンガに対して戦争に突入する事となった。
神聖ヴァルート覇帝国初の、国家間戦争である。
しかし、艦隊司令部は冷静だった。
この突然の事態はすでに予測されており、南方はウリィ帝国に任せることで艦隊戦力は開戦前から北部国境のボーバゴン星系に集結していた。
加えて、ジブル連盟は十年以上前から艦隊の仮想敵であり、第1艦隊の戦力増強に加え第2艦隊の新設、さらに技術革新による新兵器の搭載が進み、以前のカルト教団討伐から艦隊戦力はさらに強化されているのだ。
↑第1艦隊 戦艦ライテウス、ライケスター級駆逐艦6隻、シュライク級コルベット14隻
↑第2艦隊 ライケスター級駆逐艦4隻、シュライク級コルベット隻15隻
そして、この戦争においてヴァルートには一つの目標があった。
北方への領土拡大である。
第一同盟のアノマリーがあるアードスカー星系を中心に、影響力のあるだけ周辺星系を要求し、これを奪取するのが今回の帝国艦隊司令部の目標である。
同時に防衛に出向くであろうジブルキノコの艦隊を撃滅し、盟友ラクサナスクを助けるのが第二の目標だ。
18.対ジブル戦争 その1
ボーバゴン星系要塞より出撃した第一・第二艦隊はまず、南のカーレンヴァル星系の星系要塞攻略を行った。
相手は防衛に特化した星系要塞だったが、こちらは二艦隊併せて40隻の大艦隊、その旗艦はあの戦艦ライテウスである。
↑カーレンヴァル星系要塞と交戦する第1艦隊。旗艦ライテウスが青色レーザー砲を撃ちながら突撃していく。
↑合流した第2艦隊と共に星系要塞を包囲。
反物質ミサイルと新型のオートキャノンで激しい攻撃を続けるコルベット部隊と戦艦ライテウス。
老衰により死去したミシェル・パッラヴィチーノ提督の後任、アマンダ・ポーマー提督は攻撃的な性格で
知られており、旗艦ライテウスはそんな彼の性格を表すかのようにコルベットに続いて突撃し、至近距離で砲撃
を行う非常に攻撃的な戦い方だ。
全く危なげなく星系要塞を落としてカーレンヴァル星系を制圧。
その後、両艦隊は一度後退してボーバゴン星系で損傷修理を受けた後、今度は北方のアルファルド星系要塞攻略に出撃。
↑アルファルド星系艦隊戦。主星アルファルドは中性子星であり強力な重力波と放射線を放っているため、星系内の
全ての艦の亜光速度が低下する。星系要塞には関係ないが、コルベットにとっては機動力低下は敵の攻撃の回避が
難しくなるため、普段よりもやや厳しい戦いを強いられた。
この戦いでコルベット一隻が撃沈されるも、アルファルド星系要塞は陥落し星系を制圧。
もう一度ボーバゴン星系に戻って損傷修理を行った後、二艦隊は南北に分かれて次々に星系を制圧。
セークスーミア星系まで進撃し、その全てを確保した。
19.政変
2266年、エリッス惑星間連合国はティラシアン連邦に降伏。銀河で最初に始まったであろう戦争が最初に終結する事になった。
イデオロギーを強要されたエリッス政府は解体され、指導者であった大元帥スティリィ・カラドリは政府を去り、国名を「マラッス共和国」に、政治体制もティラシアンと同じ道徳民主制に改められた。
志向も変わってしまったため、今後我々との関係がどうなるのかは不透明になってきた。
一方、ウリィ・ダギルフォン-ワケゴ戦争はまだ終結の兆しはなさそうだった。
(ウリィ-ワケゴ国境では目立った戦闘は起きていないが、ダギルフォンは苦戦しているようだ)
問題はこちらである。
我が精鋭第1・第2艦隊はジブルキノコ星系6つを制圧したが、その間一度もジブルキノコの艦隊に遭遇していない。
なんとジブル連盟は我々ヴァルート側の戦線を防衛要塞に任せ、我々が防衛要塞突破に時間を割いている間にラクサナスクの星系要塞や艦隊を打ち破ってどんどん進撃していたのだ。そして攻められているラクサナスクもさらに西のロクスウンガを攻撃していて本国防衛に手が回っていない。
ジブルは攻撃側のくせに影響力が不足していたのかさほど請求権は出していないようだが、このままではまずい。
この事態に、ヴァルート艦隊司令部は第1・第2艦隊によるジブル本土進撃を決定。
首都星系を含めジブル連盟の領土をぶち抜いて造船基地を一挙に無力化し、後方からラクサナスク領に侵入したジブルキノコの艦隊を叩くのである。
艦隊はただちに進撃を開始。当初の想定にはなかったジブル侵攻作戦となった。
↑オブスカイク星系艦隊戦。オブスカイク以降の星系要塞は紫外線レーザーとレールガンを搭載しており、
火力は高めだ。
↑ジブ星系艦隊戦。星系要塞こそ強固だが、それにかまけてか防衛艦隊は一隻もおらず、ヴァルートの艦隊は安心して
星系要塞に攻撃を集中できた。
なんと首都星系にまで艦隊はおらず、一貫して防衛要塞攻略戦となった。
どうやらジブルキノコ共は我々を半ば無視してラクサナスクを全力で叩くつもりだったらしい。
しかし首都星系が落とされたことに慌てたのか、第1・第2艦隊が進撃しようとしたその時、和平交渉が行われたとの通達が届いた。
2270年、7年続いたヴァルート初の星間戦争は現状追認での和平となった。
我々ヴァルート覇帝国の領土はセークスーミア手前まで拡大できたが、ラクサナスクはキャンドーリーまで後退する事になってしまった。
一方、ウリィ・ダギルフォン-ワケゴ戦争は未だ続いていた。
艦隊配置などは不明だが、泥沼化しているのだろうか...?
↑ワケゴ・ダギルフォン国境。ワケゴ側が国境の星系要塞をすり抜けて後方の星系を幾らか制圧しているようだ。
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