「いいのか、貸しの精算が酒なんて。仕事ひとつぐらい任されるぞ」
それを言い終わるか否か、給仕が二人分の酒をカウンターに配す。
男が二人、席に掛けていた。
「いいから付き合えよ、本命は情報だ」
男たちは互いにエリンディルの出身ではないが、この世界に冒険者として在る。
一人は長い金髪を束ねた、ウェイン・ルークス。
もう一人は、その言葉をかけられた大柄な男、"幻影の"アレス。
「情報?」
アレスは、怪訝な表情をした。
二人は――本来なら――旧知の友だ。
しかし彼らの出身世界は同一ではない。アレスは並行世界のヴァルマースから来ていた。
従い、ウェインはこの場のアレスをよく知らないし、同じくアレスはこの場のウェインを知らない。
その二人が縁を持ったのは、この酒を酌み交わす機会よりも少し前。
仕事で図らずも力を貸したことによる。
「…………」
ウェインは蒸留酒のショットグラスを一息に干す。
喉を焼くアルコールを体内に送り込み、その熱をふうと吐き出して、意を決したように彼の言う”本命"を切り出した。
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