楽園事件

ページ名:楽園事件

ここは図書館の地下室。イエイヌさんのお部屋です。
「イエイヌさん、『じょしりょく』…?を上げたいんですけど…何かいい方法は無いですかね〜?…というか、じょしりょくって何でしょう?」
今日はイエイヌさんからカウンセリングを受ける日です。近況報告を済ませた後、最近の悩み事を聞いてくれたんですが…
「えっ…ドードーさんって、既に結構女子力高いと思うんですけど…何かあったんですか?」
今日持ってきた私の悩み事は、どうやら見当違いだったようです。
「…みんながライブで私を見る目がキーウィちゃんと違うんですよー!」
「あぁ…」
「きっと私の可愛さがキーウィちゃんの可愛さに届いてないんです!キーウィちゃんに聞いてみたら『じょしりょく』を上げれば可愛くなるって言ってました!」
「女子力云々以前に、ライブのパフォーマンスで影から黒い腕みたいなやつ出すのやめた方がいいかと…多分みんなあれを怖がってるんだと思うんですよ」
「…あれ、可愛くないですか?うにょーんってしてて…」
「どこがですか!?怖いですよ!!」
まぁ、好みは人それぞれですからね。どうやらイエイヌさんはあれ苦手みたいですね。
「『楽園』から黒い腕を呼び出してるだけなのに…何がいけないんでしょう…?」
「キュートな曲調とホラーな演出が噛み合ってないからじゃないですかね…というか、『楽園』って何ですか?」
「私の昔の仲間が沢山いる場所です。良いところですよ〜」
「へぇ、現在地と別の場所と自由に行き来出来るんですか?」
「自由に行き来は出来るんですけど、あんまり向こう側に長く居る事は出来ないですね〜…。私は3時間が限界ですかね〜…それ以上向こう側にいるとこっち側に戻って来れなくなっちゃいます」
「…私も楽園に行けたりしますかね?」
「興味あるんですか?新しい本を見つけた時の顔になってますよ」
「はい、凄く興味あります。楽園、見てみたいです。」
さっきまで怖いって言ってたのに…凄い好奇心ですね〜。流石は図書館の司書さんです。
「ん〜他のフレンズさんで試した事は無いんですけど、1時間ぐらいなら大丈夫だと思います」
「なるほど…この影に飛び込めばいいんですか?」
「はい、時間になったら引っ張り出しますね〜」
「行ってきます…よいしょっと」
どぼんっ…という音と共にイエイヌさんは楽園へと向かいました。

〜〜〜〜〜〜
「…そろそろ時間ですね〜、イエイヌさん楽しんでくれましたかね〜」
黒い腕を使って楽園からイエイヌさんを探し当てて、ずるり…と引きずり出します。怪我はしてないみたいですが、イエイヌさんの様子がどこか変です。
「あははー!どこ見ても真っ暗だー!たーのしー!あはははは!!」
なんかこう…イエイヌさんがすっごく可愛くなってます。イエイヌさんもアイドルを目指したくなったんでしょうか?
「あー!あっちにおっきなお星様が見える!綺麗だー!あははー」
まだお昼…というか、ここは図書館の地下室なんですけど…あとなんか、さっきからイエイヌさんと目が合いません…イエイヌさんはどこを見てるんでしょう?
「宇宙って広いね!そういえば、ライカちゃん元気かな?今なら会える気がする〜!」
「うちゅう…ってなんでしょう?」
「あれー?誰かが向こうで手を振ってるー?あれは誰かな?なんだか涼しい気がする?」
「私、手は振ってませんけど〜?」
イエイヌさんと会話が全然噛み合いません。…これ、博士か助手を連れてきた方がいい感じですかね?なんだか私では手に負えない感じがします。
その時、ガチャリと音がして、部屋のドアが開きます。そこには怒り顔の博士が立っていました。
「遅いのです!もうお昼なのですよ!イエイヌ、早く料理を作るので…」
「あはははは!真っ暗なお日様だ〜!あはははははははは!暗いのに明るい!眩しい!」
「イエイヌ…?」
「君もフレンズなの?ぐれーとおーるど?神さま?すっごーい!神さまのフレンズなんて初めて見た!」
「……………………」
博士は引き攣った顔をしてイエイヌさんから目を逸らしました。
「君ともっとお話したいな!君って宇宙に住んでるの?…納骨堂?よく分かんないや!」
「博士〜…なんかよく分かんないんですけど、イエイヌさんが急に可愛くなっちゃって…どうにかなりません?」
「…………イエイヌは…一体何をしてこうなったのですか?」
「1時間ぐらい楽園に行ってました。見たいって言ってたので…」
「楽園?」
「私の昔の仲間が沢山いる所で…」
「楽園…昔の仲間………あっ…!?」
「どうかしましたか〜?」
次の瞬間、博士は後ろを振り返って大きな声で叫びます。
「助手ーーー!ありったけのトウガラシを持ってくるのです!!今すぐ!!!」
「トウガラシ…?って何ですか?」
「説明は後なのです!ドードーはとりあえずイエイヌの口をこじ開けとくのです!」
「…?よく分かんないけど分かりました〜」
「あはは、不思議な本だ〜!日本語じゃないけど、頑張って読…もごもご…」
私がイエイヌさんの口を開けた直後、助手が階段を駆け下りて部屋に入って来ました。抱えているカゴの中には真っ赤な木の実が沢山入っています。
博士はそれを片手いっぱいに握り締めると…
「イエイヌ、正気に戻るのです!そぉい!」
イエイヌさんの口の中にズボッと押し込みました。
「もごもご………あ゛ーーーー!!!がっ!!がはっ!!あ゛ーーー!!あ゛ーーー!!!がら゛っ…な゛に゛ごれ゛っ……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」
イエイヌさんは苦しそうに叫び声を上げながら、赤い木の実を吐き出してのたうち回ります。
「イエイヌさん、大丈夫ですか!?」
「持って来いと言われたから持ってきましたが…博士、これは何の拷問ですか?」
「ふぅ、なんとかなったのです」
「げほっげほっ…あ゛ーーーー!!水!!誰か水を!!!あ゛ーーーーーーー!!!」
「なんとかなってなさそうですけど…」
「あのまま放置しておくよりかはよっぽどマシなのです」
「イエイヌ、すぐに水を持ってくるのでもう少し辛抱するのです」
そう言って、助手は急いで階段を駆け上がって行きます。
「好奇心は猫を殺す…というやつですか」
「イエイヌさんは猫じゃなくて犬ですよ〜?」
「それぐらい分かるのです」
「あ゛ーーー!!あ゛ーーー!!口の中が痛いぃぃぃ…!!」
しばらくして、助手がお水をコップに入れて戻ってきました。イエイヌさんはそれを一気に飲み干すと、とてもぐったりした様子で辺りを見渡します。
「口の中が痛い…あれ?ここは…私はさっきまで…あれ?」
「イエイヌ、思い出してはいけないのです」
「さっきまで宇宙にいて…あれ?なんで私宇宙にいて無事だったんでしょう?確か、神さまのフレンズに本を貰って…あれ?あの本はどこに行ったんでしょう?」
「…ばっちり覚えてるみたいですね〜」
博士は頭を抱えてため息をつきます。
「あれは夢だったんでしょうか…?」
「それよりも…さっきのイエイヌさん、すっごく可愛かったです。素のイエイヌさんってあんな感じなんですね」
「……えっ?……………!!!」
イエイヌさんの顔がみるみるうちに赤くなっていきます。イエイヌさんは顔を両手で覆い隠すと、俯きながら叫びます。
「忘れてください!!!!」
「どうしてですか〜?あんなに可愛かったのに〜」
「どうしてもです!!!!」
「えぇ〜?私も可愛くなりたいので、もっともっと見せてくださいよ。参考にしますから〜」
「やめて!!!ください!!!」
…私だって可愛くなりたいのに、どうしてなんでしょう?その時、叫ぶイエイヌさんに、博士と助手がぷるぷると震えながら話しかけます。
「うるさいのです、可愛いイエイヌ…ふふっ」
「それよりも早く料理を作るのです、可愛いイエイヌ…ぷふっ」
「………う゛わ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」
イエイヌさんは思いっきり叫びながら、地下室を飛び出して図書館の外へと走り出してしまいました。
「…ま、秘密にしておいてやるのです。我々は優しいので」
「仲良しなんですね〜」
「そういえばお腹が空きましたね、博士」
「そうですね、助手。あの様子だとイエイヌはしばらく帰ってこないでしょうし、ドードーと一緒にじゃぱりまんでも食べるのです」
「いいんですか〜?それじゃあご馳走になります〜」

〜〜〜〜〜〜
地下室を出た私達は先ほどの出来事について話をしながら、3人でじゃぱりまんを食べていました。
「もう楽園とやらには他のフレンズを連れて行っちゃダメなのですよ。島の長として命令するのです」
「あ、はーい…」
いつかヒトと出会えたら連れて行ってあげようと思っていたんですが…残念です。
するとその時、顔を真っ赤にして俯いたままのイエイヌさんが帰ってきました。
「すみません、取り乱してしまって…」
「別にいいのです。それより、さっきの話し方の事なのですが…」
「蒸し返さないでくださいよぅ…」
「…別に隠さなくていいと思うのですよ。ありのままで、自然体でいる事が一番なのです」
「それはその…そうなんですけど…」
「何かが引っかかっているのですか?」
「今の話し方するの、パークが閉園する前からなんですよ…ご主人様の隣にいて恥ずかしくないように、パークでお仕事出来るように…敬語を頑張って覚えたんですよ」
「その話し方…ケイゴ、と言うのですか?」
「はい。主にお仕事をするヒトが使う話し方で…最初は必要だと思って覚えたんですが、いつのまにか馴染んでしまいまして。ご主人様以外に素の話し方をするのは…少し恥ずかしいと言いますか…違和感があると言いますか…」
「キタキツネさんが言ってた『呪われた装備』みたいな感じですかね〜?」
「あー…雰囲気的には間違ってないかと」
イエイヌさんは見えない鎧を着てるんですね。なんだか防御力高そうです。
「少しずつでいいのですよ。気が向いた時にでも、本当のお前を見せて欲しいのです」
「そう…ですね。まずは相手を絞って慣れていこうと思います。博士助手とドードーさんには先程バレてしまった訳ですし、まずはお三方しかいない時に…」
「いや、我々は以前から既に知ってたのです」
「………えっ?」
「以前、お前が間違えてお酒を飲んだ時に同じような状態になってたのです」
「…えっ!?ちょっ…それいつの事ですか!?記憶に無いんですけど!?」
「あの時は凄かったですね、博士。PPPのアイドルソングをノリノリで歌って踊って…」
「えっ…えっ…?」
「えっ!?イエイヌさん、歌って踊れるんですかー!?是非見せてください!」
「か…か、勘弁してくださいぃぃぃぃ!!」
イエイヌさんは再び、図書館の外へ走って行ってしまいました。イエイヌさんから可愛さの秘訣を伝授してもらうのは、まだまだ時間がかかりそうです。

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