ギターは辞めたんだ

ページ名:ギターは辞めたんだ

<登場人物>

3人(オス2人・メス0人・不問1人)

<配役>

デイ(オス):猪頭㐂 福禄

ロウ(オス):猫叉まさお

ナレーション(不問):パル

<Youtube>

動画はこちら

<テーマ曲>

あの光を

(作詞:リーヴリ・作曲:suno)



ナレーション:
ここは街の中にある、とあるカフェ。


>ロウはスーツ姿で、カフェの一席でスマホで通話をしながらパソコンを触っている

ロウ:
はい、はい……あ、その件ですが、見積書はご確認いただけましたでしょうか?

デイ:
お?やっぱりいた。ちょっとお邪魔するよ。っと……通話中だったか。失礼。ちょっと待たせてもらおうっと。

>デイは店の中でロウを探していたが、発見して近寄り、向かいの席に座る。

ロウ:
あっ……はい、ありがとうございます。それでは……あ、はい。はい、進めさせていただきます……はい、お任せください。

>ロウは少し驚いた様子で久しぶりに会うデイが向かいに座ってきたことに気付くが、仕事の通話に集中しようとしている。

デイ:
急がなくていいからな~。

>と、デイは独り言のように言った。

ロウ:
はい……はい、それでは失礼します……。ってなんだ、デイじゃないか……どうしたんだ、偶然か?

デイ:
よっ。忙しそうだなロウ。久しぶり。

ロウ:
ああ、久しぶり……大学卒業してからだから、二年くらいか?

デイ:
確かに、それくらい……かな。いや、この前たまたまこのカフェでロウを見かけてさ。たまに来てるのかなって。

ロウ:
なんだ、狙って来たのか。確かに、最近はこのカフェをよく利用させてもらっているよ。仕事に丁度よくてね。

デイ:
聞きたかったことがあってさ。

ロウ:
……なんだ、聞きたかったこと、って?

>ロウは何の話をされるのか、少し察したような様子。

デイ:
二年前に俺ら大学卒業してさ。就職して……俺たちがやってたバンドって解散しただろ。

ロウ:
そうだな。それが?

デイ:
単刀直入に聞くけどさ、ロウって……今もギター続けてんの?

ロウ:
どうしてそんなこと聞くんだ?

デイ:
質問に質問で返す癖、治ってないのな。……いや、俺は今でも、ベース続けてるんだ。

ロウ:
それが……どうしたんだよ。仕事が忙しいんだ、そんな話ならまた別の日に……

デイ:
なあ、もう一回バンド組もうぜ。

>ロウの言葉を遮るようにデイが言う。

ロウ:
……だから、忙しいんだ。失礼するぞ。

デイ:
連絡先も消したんだろ。俺が何を送っても返事してくれねえもんな。

ロウ:
忙しいんだって、何度も言わせるなよ。スーツ姿なんだしお前も仕事中だろ、油売ってる場合なのか?

>ロウは少し苛立っている。

デイ:
スーツ姿だけど、俺今フリーランスでさ。自分のペースで仕事しながら音楽続けてるんだ。

ロウ:
ちょ……おまえ、大学から必死に就活してあの大企業に就職したんじゃ……。

デイ:
まあな。でも音楽続けるには……ちょっと窮屈すぎた。だから一年で辞めて、フリーランスで独立して仕事してるんだ。

ロウ:
……勿体ない。

デイ:
親にも怒られたし、友達にも同じように言われたよ。将来の安定より音楽取るなんて馬鹿だって。

ロウ:
本当にそうだ。

デイ:
なあ、何度でもいう。もう一回、俺とバンド組んでくれよ。ロウのギターじゃないと駄目なんだ。

ロウ:
しつこいぞ。俺は忙しい、今月からうちの営業部は成績競争が激化してるんだ。今後の出世にも関わる、大事な時なんだ。

デイ:
だから音楽してる暇なんてない、って?

ロウ:
そうだ。

デイ:
変わったんだなあ。これがあれか、大人になるってことか?そうか、そうなんだな。バンドマンあるあるじゃん。

ロウ:
何が言いたい?

デイ:
解散はだいたい"方向性の不一致"って言うだろ、でも一回辞めて音楽に戻れないのは"社会人として忙しい"って言う。

ロウ:
……実際に見ただろ、こうして営業と営業の間にも営業の電話を掛けたり、アフターケアしたり、リストチェックをしているんだ。

デイ:
それで?

ロウ:
音楽は大学でやり切った、もうそんな暇はない。あの時はギリギリの単位を取って、ちょっとバイトして、他は全てバンドに賭けることができた。今は違う。

デイ:
ふむ。それで?

ロウ:
お前……馬鹿にしてるのか?!"忙しい"って、これだけで十分な理由だろうが!

デイ:
落ち着けって。…まあ俺は諦めないけどね、ロウのギターじゃないと嫌なんだよ。ひっそりベースの練習続けてるけどさ、やっぱライブしたいんだ。

ロウ:
……俺はもう辞めたんだって。ギター。

デイ:
でもまだ家にある。

ロウ:
そ……そりゃ手放す理由がないだけで、触ってないんだから、辞めたのと同じだろ?

デイ:
いいや、手放す理由がないんじゃないね、手放したくないんだろ。

ロウ:
だから忙しいんだって。手放す暇もないんだ。

デイ:
いきなり訪ねてきて、二年ぶりに再会してすぐ"バンドしよう"って言ってることが、馬鹿げてると思ってるんだろ?

ロウ:
正直そうだな。馬鹿げてる。それに俺はもうギターを弾かないしバンドもしないって言っただろ。理由は仕事が忙しいから、それで十分だ、しつこいぞ。

デイ:
わかった。ロウ、土日は休み?

ロウ:
……あ、ああ。土日は休み、祝日は仕事だが。

デイ:
じゃ、次の土曜、ちょっとだけ付き合ってよ。時間ある?

ロウ:
言っておくがスタジオには入らないぞ。ギターも弾かない、それでもいいなら付き合ってもいい。久しぶりなのは事実だしな。

デイ:
ありがとう、じゃあ土曜の昼頃に会おう。ギター持ってきてね。

ロウ:
待って、俺の話聞いてたか?ギターは絶対に弾かねえっての!!

デイ:
うん、もちろん条件通り、弾かなくていいよ。一緒にギター売りに行こう。いらないんでしょ?

ロウ:
……は?

デイ:
時間が無くて手放してなかったけど、別に二度と弾かないなら要らないでしょ。それともインテリアにしてるとか?

ロウ:
いや……。

デイ:
売るのは、そんなに時間かからないよ。このカフェから近いところに買い取ってくれる店あるし、家からここ遠いならロウの家の近くでも。

ロウ:
ちょ、ちょっと待て。わざわざギターを売る必要があるのか?

デイ:
使わないなら売ればいいじゃん。もう弾かないなら、ギターが可哀想だよ。ギターは押入れの肥やしにしてる人より、弾いてくれる人が持つべき。

ロウ:
……っ、いや、わざわざ、売るつもりも……ないんだが。

デイ:
だって大学でバンドやり切ったんでしょ?いらないんでしょ?

ロウ:
それとこれは、違う。

デイ:
ロウ……本心ではバンドやりたいけど、何か理由作ってやらないことにしてるんじゃないの?

ロウ:
黙れ!……ごほん……すまない、もう俺は行くぞ。本当に今日は忙しいんだ。

>感情的になってしまったが、すぐに冷静さを取り戻す。

デイ:
一カ月に一回、月末の土曜日の夜にスタジオに入る。ライブはワンシーズンに一回でいい。年に…できたら四回。無理なら二回でもいい。

ロウ:
ああそうかい。そっちで勝手にメンバー集めて、勝手にやってくれ。

デイ:
これ、今の俺の連絡先ね。フリーランスになって初めて名刺を活用できるようになったんだ、もらってよ。

ロウ:
せっかくお互いに社会人だし、名刺交換しとくか。……これ、俺の名刺な。

デイ:
ありがとう!……連絡してね。

ロウ:
飲みに行くくらいならいい、だが楽器が関連したことはしない、約束してくれ。

デイ:
約束はできないな。けど飲みにも行きたいね。

ロウ:
……それじゃ、俺は次の営業先に行く。アポイントがある。時間も迫ってるんだ、またな。

>と、ロウは足早にカフェを後にした。

デイ:
……ステージにさ……"立てなくなった"のと、"立たなくなった"のはさ……全然、意味が違うと俺は思うんだよね、俺は。

デイ:
あーー!ちょっと強引すぎたかな。ちょっと悪いことしたかもね。

>と、デイは大きく伸びをしながら、自嘲気味に呟いた。

デイ:
この前、この店から出てきたロウを見た時に思ったんだよね……俺の知ってるロウの顔とは全く違う、って。

デイ:
……また、一緒にやりたいのも本音だしさ。さて、俺も仕事しようかな。その前に、珈琲キメていくかね。すみませーん、コーヒーブラックで!


fin

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