同窓会
登場人物
ナレーション =N
牛頭屋(ごずや) 勝太郎=牛 元生徒
馬頭間(めずま) 泉次郎=馬 元生徒
龍波(たつなみ) 勘三郎=龍 元教師
N 二人の男が小高い丘へ向かう長い坂道を歩いている、
登り切ったその先に古呆け今にも崩れそうな建物が見えて来る。
その建物を眺めながら牛頭屋がつぶやく。
牛 なつかしいな~校舎はまだ何とか残ってたんだな~
N 目を細めながら、独り言のように。隣を歩く馬頭間は
馬 そうだな~俺らが卒業してから、もう30年は超えたんだけどな
牛 なっ?同窓会が始まる前に来て正解だったろ?
馬 そうだな…てかさ、みんな思ったよりちいさくね?
牛 それだけ俺らが大きくなったって事だろ。
N 二人は取り壊し予定の校舎をまわりスマホのカメラで
撮影していたが、やがてバリケードの隙間から中に入り、
校舎の中を撮りながら窓や扉をがたがたと揺らしていく
牛 ううん、やっぱ無理か~中には入れんな~
馬 たりめーだろ、閉校してから何年経ってると思ってんだよ、
校舎が崩れっちまう前にこの冬で取り壊す事になったんだろ?
N そんなことを話していると、後ろからそっと何者かの影が伸びて来た、
そしてその影が大きく息を吸い込むと雷のような怒号を響かせた
龍 こら!そこに入っちゃいかん!崩れてきたら潰されてしまうぞ!
馬 うわっ!
N 二人は驚いて頭を抱えしゃがみこんだ、
そして恐る々々声のした方向に向く
馬 びっくりした~誰だよオッサン!
牛 マジで心臓止まるかと思ったぜ、って…んん?えっ!?龍波センセ?
馬 ええっ!?先生?何でこんな所にいんだよ?
N 二人は見知った懐かしい顔にまた驚いた、
しかしそんな二人に雷は落ち続ける。
龍 こんな所とはなんじゃ!先生が学校にいちゃいかんと言うのか?
N そこまで言うと懐かしい二人だと思い出し、少し落ち着きを取り戻した。
龍 それにお前達は「ごずめず」じゃないか、二人こそ
ここで何をしとるんじゃ?
牛 今夜小学校の同窓会が有るんでその前に久しぶりに学校に寄って中を
撮影して皆に見せようかと思ってたんだけど、、、
龍 だからと言ってバリケードを越えていく奴が有るか!
馬 すんません、でもちょっと位なら良いじゃんよ~
龍 お前たちは何時もそうじゃ!ワシの言う事なんか聞きゃせん。
とにかくこっちに来るんじゃ!
N また雷を落とされ、二人はしぶしぶ柵を越えて出てきた。
龍波は改めて二人を目の前にし、懐かしむように話し始める。
龍 それにしても驚いたのう、学校一暴れん坊だったあの「ごずめず」の二人組が
こんなに立派になって、全く見違えたわい。
龍 それで二人は今、何をしとるんじゃ?
馬 俺は引っ越しして親父の町工場の後次いで、小さいながらも社長してるんだ。
今は何処も厳しいけど皆と必死にやってる。
龍 ほほぅそれは良い親孝行になったな。親父さんは何時もお前を心配して
毎日のようにわしの所に相談に来とったんじゃぞ。
それで牛頭屋は今何をしとる?
牛 俺は…卒業した後親が離婚して、母ちゃんの実家で板前の修業してさ、
今度自分の店を持つんだ、やっと師匠から許しが出たんだ。
龍 ほう、お前もとうとう独り立ちと言う訳じゃな、精一杯頑張るんだぞ
牛 うん、あっそうだ、店を開いたら食べに来てよ、思いっきりもてなすぜ。
龍 おぉそれは今から楽しみじゃのぅ~期待しとるぞ。
N 互いの近況を話した二人は、気になっていた事を聞いた
牛 それで先生は俺達が卒業してからもずっとこの学校?
馬 でも時間が経ってる割には若く見えねぇか?
N 龍波はそんな二人を笑い飛ばすように話をしていく
龍 ほっほっほっ、ワシら龍人はお前達より3倍は長生きする種じゃぞ。
お前達を送り出した後もまだここで子供らを教え、気が付いたらここの
校長になって、そして村の最後の子供が卒業して、学校も閉校してしまった。
N 少し寂しそうに少し下を向き言葉数が減ってくる
しかし、顔を上げ二人を見ながら優しい顔で
龍 今はこの校舎が見える家で一人のんびり暮らしとるよ。
N その言葉に二人は有る事を思いつく
牛 へーそうなんだ、なら今度遊びに行っても良いか?
馬 あ、それ良いな~俺も一緒に行きてぇな、なぁ良い?
龍 おぉおぉ、勿論大歓迎だぞ、だが来るならちゃんと手土産持ってくるんじゃぞ
馬 え~しっかりしてら~、わかったよ一升瓶抱えて行ってやるよ
N 楽しそうに話す二人、ふと牛頭屋がスマホを確認すると慌てだす
牛 っておい!時間が!急がねぇと間に合わんぞ!
馬 マジ?じゃ急ごうぜ、って先生も一緒にいかね?折角小学校の同窓会だからよ
牛 そうだよな、今更一人増えた所で飯が足り無くなる訳じゃねぇし、一緒に行こうぜ
N 二人の提案に首を横へ振り、答えた
龍 いや、今日は遠慮しておく、今夜はお前達生徒だけの集まりなんじゃろ?
そんな所にワシが行っては皆が驚いてしまうだけじゃ、、、
N そう、二人以外の生徒達からは龍波は怖い先生として有名だった
馬 確かにな~、センセのげんこつ喰らった事の無い奴いないんじゃねぇか?
牛 いや、一人いるぜ、あの学級委員だけは、、、ってのんびり話してる場合じゃ
馬 おう、じゃぁまた遊びに行くよセンセまたな~
龍 あぁ、ワシの事は気にせず楽しんできなさい
N 慌ただしくその場を離れる二人に龍波は目を細め優しい笑顔で見送った。
龍 ワシの生意気で可愛い教え子たちよ…
N しかし同窓会の席で二人は事実を聞かされることになる、
同窓会も盛り上がりを見せた頃合いを見計らって牛頭屋が夕方の出来事を披露した。
牛 そう言えばさ、今日龍波先生にあったぜ。
こちとらもういい大人だってのにあの頃みたいに雷落とされちまった
馬 そうそう、まぁ俺たちがバリケード超えて入ったのが悪いんだけどな
N 二人はそう話すと場がどっと盛り上がるのを待った…が、
会場はシンと静まり返ってしまった。
馬 な、何だよ?先生らしい…だろ?
N 顔を見合わせる卒業生達。ざわざわとなる会場から1人が
先生は去年の冬に亡くなっているはずと告げた。
牛 えっ?嘘だろ?
馬 俺達見たん、、、
N 慌ててスマホを確認しても龍波は映っていなかった。
二人は顔を見合わせ、その後話題にすることはしなかった。
N 翌日二人は龍波の墓にお参りに来ていた、一升瓶を置き手を合わせ呟く
牛 ひでぇな、なんであの時俺達の前に来たんだよ、そんなに心配かけたか?
馬 だよな~確かにバカもしたけど俺らよりもっと心配な奴いただろうに…
牛 でもさ、案外俺達が一番心配だったとか?、、
馬 はっ、もしそうなら…あのセンセから一番を取れたんだ、
ここは素直に喜んどくか。
N そう言って振り返ると丘の上に二人の学び舎が日に照らされ、輝いていた。
終
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