<キャスト>
ミレイユ:冷静沈着。規律や軍紀に従い判断する。
カイル:人道的な迷いが生じがち、軍紀や決まりに従いきれない。
ロッツ:今回の作戦からミレイユとカイルと同行することになった隊員。
レイン:レジスタンスチームを率いる女性。大切な家族がひどい目に遭ったとか…?
<本編>
ナレーション(ミレイユ):脱走兵の捜索。それが私たち調査兵に課せられた次の任務だった。
ナレーション(ミレイユ):ターゲットの名前は……レイヴン。
ナレーション(ミレイユ):部隊の仲間だった兵士を意図的に二人殺害、後に軍法会議にかけられ投獄されるも脱獄。現在行方不明。
ナレーション(ミレイユ):この物語は、理不尽な正義がまかりとおる、葛藤(かっとう)のお話。
0:少し間を開ける。軍部会議室にて。
ミレイユ:目撃情報、なし。
ロッツ:んー。
ミレイユ:逃走経路、不明。
ロッツ:あれ?
ミレイユ:……ロッツ、何か発見が?
ロッツ:いや。逃走経路については見張りの兵士の視界を避けていたわけだから、該当の時刻において見張り兵士が配置されていたはずの場所を除けば経路を割り出せるのでは?
ミレイユ:当然、確認しました。ただ、私たちも「わざわざ」警備の穴を作ることはしません。綿密(めんみつ)に計画された逃げ場のない警備を確立しています。
ロッツ:実際に逃げられているようでは、元も子もないけどね。
ミレイユ:私が疑っているのは、見張りをしていた兵士の人為的(じんいてき)ミス。
ロッツ:と、いうと?
ミレイユ:見落とし、居眠り、または……例えば一時的に持ち場を離れた可能性もある。
ロッツ:お手洗い、とかね。
ミレイユ:その隙を狙って、彼は脱獄した。そう考えるのが自然かと。
ロッツ:逃走経路は分からないが、その場その場で警備の目を盗んで脱走したと?
ミレイユ:……または、考えたくないけど警備兵の中に内通者がいた、とか。
ロッツ:逃走経路からどの方向に逃走したか、確認したかったんだけどね。
ミレイユ:潜伏するなら、この本部拠点から南に4キロ、森が最適かと。
ロッツ:森の中に潜伏されちゃ、捜索は困難だね。
ミレイユ:カイルが、一足先に森へと調査に出ています。本部内にいてもこれ以上の情報は得られないでしょうから、私たちも追いましょう。
0:少し間を開ける。
カイル:森の様子がおかしい。
カイル:………空気中の魔力が、いつもよりも強い……。
レイン:止まれ!
カイル:ッ!
レイン:そのまま手を上げて膝を付け。
カイル:何者だ!
レイン:こちらに振り向かず、膝を付け。早く!!
カイル:ちっ……顔も見せてくれないのか。
レイン:そうだ。……所属と名前を教えろ。
カイル:断る。相手の姿も見ていないのに自己紹介はできない。
レイン:私はレジスタンス部隊を率いるレイン、王国の正規軍なら私たちの敵だ。
カイル:……そうか。だったら、私は君たちと敵対する立場ではない。私はカイル、元王国軍人だ。
レイン:元?
カイル:足を怪我し、戦力外通知を受けて除隊された、今は一般人だ。
レイン:その兵装、一般の民間人とは異なると見受けるが?
カイル:元とはいえ軍人、武装せず外を歩く危険性は十分に理解している。
レイン:カイルと言ったな。本当に正規軍の人間ではないのか?
カイル:信じてくれ。何も証明できるものはないが。
レイン:いいだろう。手を挙げたまま振り向け。
カイル:……っ。
レイン:民間人がこのような森に何用だ?
カイル:かつて軍人だった頃、世話になった人を探している。現在どこにいるのかわからない、近辺を捜索していた。
レイン:捜索対象は王国軍人か?一般人か?
カイル:彼も元軍人だ。今は王国軍とは関係がない。それより、君こそここで何を?
レイン:見回りだ。最近、怪しい兵装の軍人がこの森の中に潜伏しているとの噂がある。事実ならレジスタンスチームとしては見過ごせない。
カイル:もしその人物が王国軍の正規兵だったら、殺すのか?
レイン:相手が銃を向ければ殺す。でなければ、話を聞いてから殺す。
カイル:王国軍のやり方が気にくわないのか?なぜ反乱軍を結成した?
レイン:私たちレジスタンスは、全員……王国軍に関わり、大切な人を失った者ばかりだ。
カイル:……っ。
レイン:王国軍は認めないだろうが、勝ち目のない戦場へ駆り出され犠牲となった者の家族や、村ごと焼き払われた者もいる。
カイル:敵兵が潜んでいるかもしれない。もし帝国軍人と遭遇したらどうする?
レイン:それが私たちに敵対するなら、容赦なく銃を撃つ。
カイル:……レジスタンスの拠点が近いのか?
レイン:お前には関係のないことだ。
カイル:こちらの情報は一通り聞くが、そっちの情報は開示してくれない、と。
ロッツ:銃を降ろせ小娘。
カイル:ロッツさん……!
レイン:背後から……ッ!気配を消して忍び寄るとは、貴様……何者だ!
ロッツ:動くなよ?変な動きをしたら、あんたの頭が破裂したスイカみたいになるぞ?
レイン:……私に銃口を突きつけているのか?
ロッツ:ああ。あんたの背後、だいたい10メートルくらいの距離からな。
レイン:……仲間がいたとは。
ロッツ:彼は我々の部隊の…
カイル:(言葉に割って入る)ちょっと待ってロッツさん!
レイン:部隊……やはり嘘をついていたのか!
カイル:くっ……
ロッツ:あ、もしかして、しくじった?
レイン:まあいい。……どちらにせよ、どちらも殺すしかない。
ロッツ:動くなよ。ロッツ様の銃は百発百中さ。
レイン:……もし、あんたが引き金を引くより先に、私がカイルとやらを撃ち殺したら。どうする?私を殺すだけで済ませるか?
ロッツ:まあ、あんたは少なくとも殺すだろうよ。その後のことは後で考える。
カイル:……確かに嘘をついた。私たちは王国軍の軍人だ。しかし冷静に話せばわかりあえるはず。
レイン:笑止(しょうし)!
カイル:えっ……
ロッツ:動くな!
レイン:王国軍は許せない。やはり、私は私の家族を追い詰め、死に追いやった軍人を許すことはできない。
カイル:全ての王国軍人がそういう人ではありません…!
レイン:あの日。私の姉はあなたがた王国軍の軍人によって強姦されました。
レイン:何度も何度も、性欲のはけ口にされ、最後はあまりに抵抗するからと激しい暴力を振るわれ、姉は後に自殺しました。
カイル:なっ…!
ロッツ:そんな話は聞いたことがないが……。
レイン:大人の男が二人かかりで、一人の女を襲った。卑劣(ひれつ)すぎるとは思わない?
カイル:……それで、レジスタンスに。
レイン:一ヵ月ほど前の話だ。戦場の最前線となった村で、姉は自殺した。
レイン:敵兵に殺されたわけでも、爆風に巻き込まれたわけでもない、生きることができたはずなのに死を選択せざるを得なかった!
ロッツ:……っ。
カイル:それは……。
レイン:強姦された時は、同じ軍服を着た別の軍人が助けてくれたらしいけど。
レイン:だからって軍人のことはもう信用できない。
レイン:理解されませんよね。この痛みも苦しみも、あなたがたには理解できないでしょうね!
カイル:落ち着いてください。……そうした一部の暴徒化(ぼうとか)した兵士によって、守るべき国民が深く傷ついた事実を、恥ずかしながら私は最近まで知りませんでした。
ロッツ:……カイル、説得は無茶だ、撃たれるぞ。
カイル:いや続けさせてもらいます。……私はその時、あなたのお姉さんを助けようとした軍人を探しています。
ロッツ:カイル、お前何を…。
ミレイユ:そういうわけだから、銃を降ろしなさいレジスタンスの女。
カイル:ミレイユ!
ロッツ:遅かったな。ヒーローは最後におでまし、ってか?
ミレイユ:ちょっと別件で離れていたけど、話は聞いたわ。
レイン:横目で確認できる限り、あなたも軍人、彼らと同じ部隊の人間ね?
ミレイユ:背後からロッツの銃口が、右側から私の銃口が、それぞれあなたに真っ直ぐ向けられているわ。
レイン:私は、彼への銃口を下げるつもりはない。
ミレイユ:私は無駄な時間が嫌いなの。あなたの左側から私の仲間が銃口を向ける前に、降ろした方が身のためよ。
カイル:もう一人の仲間…
レイン:なっ……どこにいる!
ミレイユ:今だ!
0:レインの銃を持つ手を撃つ。
レイン:きゃあ!
ミレイユ:お前の左側に私たちの仲間などいない。注意をそらすためのブラフだ。
レイン:くっ…!
ロッツ:あの距離でレジスタンスの持つ銃を射抜くなんて、ミレイユの射撃能力は相変わらずすごいなあ。
ミレイユ:ロッツ!感心していないでレジスタンスを拘束!カイル、いつまで地面に膝をついて手を挙げている、周辺を警戒!
カイル:り、了解!
ロッツ:へいへい了解。
ミレイユ:脱走兵の痕跡(こんせき)を発見した。これから追跡する。
レイン:……私の手から銃だけを吹き飛ばすなんて……。
ミレイユ:拘束したら、適当な木に縛っておけ。レジスタンスの他のメンバーが誰か発見するだろう。
レイン:……私の姉を助けた兵士の名を、知っているか?
カイル:……ああ。知っているよ。
レイン:名前だけでも。姉は、一度礼がしたいと、言っていましたから。
ミレイユ:教える義理はない。それに、その当事者たる姉はすでに自らの手でこの世を去っている。礼がしたいなら妹に任せずに自分で探すべきだったと思うが。
レイン:……それも、そうだ。今の質問は、忘れてくれ。
ロッツ:おっかねえ。
ミレイユ:ロッツ、移動準備。
ロッツ:へい。
ミレイユ:カイル……生きていてよかった。
カイル:ミレイユ……。
0:少し間を開ける。
ミレイユ:これより脱走兵レイヴンの追跡を開始する!
カイル:了解!
ロッツ:了解だ。
レイン:……レイ…ヴン……か。
0:間を開ける。
ナレーション(ミレイユ):こうして私たちは脱走兵レイヴンの捜索を開始した。彼は軍法上の違反を理由に処刑される予定だった男だ。
ナレーション(ミレイユ):しかし、軍隊における法律は、国民にとっても平等に正しい決まりとは限らないようだった。
ナレーション(ミレイユ):実際に、今回のように少なくともレイヴンへ感謝の気持ちを抱く者も、また助けられたという事実も、あるのだから。
ナレーション(ミレイユ):私はここに来る前に、レイヴンの私物と思われるものを拾っていた。そして同時に、行方が分かった気がした。
ナレーション(ミレイユ):これからレイヴンを探す。もし発見できたら、私たちは規則に従い……レイヴンを本部に連れ戻さなければならないのだろうか……?
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