<キャスト>
レイヴン:おっさん的な、お兄さん的な、熟練兵的な感じ。
ミレイユ:冷静沈着。規律や軍紀に従い判断する。
カイル:人道的な迷いが生じがち、軍紀や決まりに従いきれない。
<本編>
レイヴン:……それで、本部のニンゲンがこんなクソッタレ前線に、どういったご用で?
カイル:レイヴン中尉、軍部で確認したい事項があります。再三の招集命令も無視されていますね。
ミレイユ:急ぎ、ご同行願います。
レイヴン:待った待った、おいおい落ち着いてくれ。俺は何もしちゃいない。
カイル:はい。別にレイヴン中尉が何かした、とは当方一言も申し上げておりませんが?
ミレイユ:心当たりがおありですか?
レイヴン:だから本部のニンゲンは嫌いなんだ。
ミレイユ:詳しくは本部で伺います。まずはご同行を。
レイヴン:仮にこの命令を拒否した場合、俺に下る処分ってのは相当かい?
カイル:軍法違反は国家反逆と見做(みな)されます、よくお考えを。
ミレイユ:再三の招集命令を無視、後に直接の同行命令も無視、となれば処分は重くなるかと。
レイヴン:俺はこの村を離れるわけにゃ、いかねえんだよ。
カイル:軍事上、この拠点には価値がありません。次の戦略に移行するよう、通達が来ていたと思いますが?
レイヴン:んなこたぁ、わかってる。わかってんだよ。
ミレイユ:最後にもう一度確認します。ご同行、願えますね?レイヴン中尉。
レイヴン:……人の名前を呼ぶ前に、まずは自分から名乗ったらどうだい?若造。
カイル:カイルと申します。
ミレイユ:ミレイユです。さあ、ご同行願います。
レイヴン:断る。
カイル:……命令に反し続ける理由は、何ですか、レイヴン中尉。
レイヴン:あんた、子供に銃を向けたことはあるか?
ミレイユ:話は本部で伺います。さあ、ご同行を……。
カイル:待ってミレイユ。……この村が戦場の最前線だったのはもう四日も前のことです。何があったんですか?
レイヴン:あんたら本部のニンゲンにゃ、話す気になれんね。
ミレイユ:レイヴン中尉、これ以上の命令拒否は軍法に反します。わかっていますね?
レイヴン:あー、おっかねえ。いいか。半月ほど前、この村が戦場の最前線となった。多くの犠牲が出たが、一週間ほど戦ってなんとか俺たちの部隊は勝利することができた。
カイル:報告通りです。
レイヴン:だが、俺の率いる部隊も大きな犠牲が出た。壊滅とまではいかない、数名の尊い命が奪われた。
ミレイユ:報告通りですね。
レイヴン:うちの部隊の死者六人のうち、二人は俺が殺したんだ。それについて裁かれる予定なんだろ?俺は。
カイル:自白されるとは、思いませんでした。ええ、仰る通りです。
ミレイユ:レイヴン中尉、国家反逆罪の現行犯として強制連行します。自白は言い逃れできません。
レイヴン:来るな。……あんたの額に風穴を開けたくなけりゃ、両手を上げて下がれ。
カイル:っ!レイヴン中尉、銃を降ろしてください!
ミレイユ:私の額を打ち抜いても、レイヴン中尉の国家反逆罪の罪が重くなるだけ。何も解決しないわ。
レイヴン:俺はこのままここに残る。
カイル:何があったんですか、レイヴン中尉。
レイヴン:俺たちはこの村を最前線にした、敵兵を撃ち殺すことは許可していたが、罪もない村人を苦しめることは部隊統率責任者たる俺から許可していなかったんだ。
カイル:それは……?
レイヴン:長期化する最前線での交戦、軍部の予定じゃ短期決戦だと聞いていた。予定は数日もずれ込み、結果として一週間の長期戦となったな。違うか?
ミレイユ:報告の通りです。それが何か?
カイル:ミレイユ、挑発してはいけない!……レイヴン中尉、軍部の作戦に大きな差異があったこと、そして負担がかかってしまったことはお詫びします。
レイヴン:詫びられたって、罪は消えない。
ミレイユ:……っ。
カイル:しかし……。
レイヴン:わざわざ若造を寄越した理由がわかったぜ。俺が暴走しても、あんたら若者が一人、二人くらい死んだっていいんだ。あんたらも使い捨てのコマに過ぎん。
ミレイユ:口を慎みなさい反逆者!
カイル:待ってミレイユ!……落ち着いてください。我々は真相を確認したいだけです。本当に味方を殺害したのか、誤射ならそう報告してくれればいいんです。
レイヴン:誤射じゃねえ、俺の射撃は並みの兵士より優れてる。
カイル:だったらなぜ……
レイヴン:緊張と恐怖がピークに達した時、人間がどんな行動を起こすか、知ってるか?予想できない奇行に走るんだ。
カイル:それは……
レイヴン:今の俺が、自分の上官にあたるはずの本部のニンゲンに銃口を向けていることが普通だとは思わない。俺だって極限状態なんだ、奇行に走りたくもなる!
ミレイユ:あなたがた、兵士とはそういう生き物です。
レイヴン:なんだと!
カイル:ミレイユ!
ミレイユ:悔しかったら……本部のニンゲンになればいい。
レイヴン:うるせえ!俺には、こうするしかなかった。目の前で女子供を犯して、自分の欲望だけを満たす仲間を仲間とは呼べなかったんだよ!!
カイル:……村人に手を出していたのですか?
レイヴン:そうだ。女の形をしていれば大人も子供も関係なかった。俺は、村人を助けたい一心で銃を握った。
ミレイユ:だからって軍法上の違反を犯す必要はなかったはずです。
レイヴン:……ここは……俺の生まれ故郷なんだよ……。
カイル:っ!
ミレイユ:だからって、軍法上の違反を犯す必要は……。
レイヴン:今このままトリガーを引けば、お嬢ちゃんを黙らせることはできるなあ?
カイル:落ち着いてください。レイヴン中尉、私からも本部には掛け合います、事情を説明して、きっと処分は軽くなるかと思います!
ミレイユ:なりません。味方を意図的に銃殺したとなれば、いかなる理由であっても棄却されるのがオチでしょう。私をこの場で射殺すれば、あなたの処刑は確定します。
カイル:ミレイユ!!
ミレイユ:撃ちたければどうぞ。私はあなたのようなヤワな決意で戦場にいるわけではないので……どうぞ?
レイヴン:俺だって……ヤワな気持ちでここにいるわけじゃねえ!
カイル:レイヴン中尉お願いです!その銃を……銃を……置いてください。
レイヴン:……カイルって言ったか。お前が俺に向けているそれはなんだ?銃じゃないのか?
カイル:もしレイヴン中尉が銃を置けば、私も置きましょう。しかしトリガーを引けば、私もトリガーを引きましょう。レイヴン中尉の額に、今度は私が風穴を開けます。
ミレイユ:カイル、軍紀を乱すことは避けて。
カイル:ミレイユのことは私が守ります。
レイヴン:その気持ちと同じだ。俺は忠告した。その女子供を今すぐ解放してこちらに来いと。
ミレイユ:カイル!
レイヴン:しかしあいつらは拒否したんだ。だから忠告を通過した時点で、俺はトリガーを引いた。
ミレイユ:いいから、カイル銃を降ろして。
カイル:私は、幸運にも本部に配属となった。友人はみんな、前線で死んだと聞いた。
レイヴン:なに?
カイル:ミレイユだけが、私の唯一の友人なんだ。
ミレイユ:私情を挟むなカイル、ここは戦場、彼は軍法違反の国家反逆者だぞ。
カイル:私情であっても何であっても仲間に銃を向けるなんて許せないんだ!
レイヴン:大きな矛盾を背負って、あんたは今俺に銃口を向けていないかい?俺は仲間じゃないと?
カイル:仲間です。信じています。ミレイユを撃ちさえしなければ、私もトリガーを引くことはない。だから銃を降ろしてくれると。
カイル:……信じています。
レイヴン:村の奴らは俺のことなんて覚えちゃいなかった。銃殺された強姦魔たちの死体に、悲鳴を上げて逃げていった。俺が死神に見えたようだ。
カイル:レイヴン中尉。
レイヴン:助けたって、銃を持っていれば死神に見えるんだよ。救世主さえ。
ミレイユ:自己満足の救世主なら、村人も迷惑でしょうね。
レイヴン:この銃を降ろしたらどうなる?ミレイユとカイルの両方から銃口を突きつけられ、俺は本部に連行されるのか?
カイル:私とミレイユは銃を突きつけない。代わりに、レイヴン中尉の両手を拘束する、それだけです。
レイヴン:縛りプレイは好きじゃない。逆らわないから普通に手足を自由にしておいてもらえないか?
ミレイユ:信用できません。武器は没収しますが体術の心得があるレイヴン中尉に組み伏せられれば危険です。
カイル:わかりました。拘束はしません。
ミレイユ:カイル、危険すぎる。
カイル:いや、いい。この目は信じてもいいと思う。
レイヴン:処刑されるにしろ、牢獄に入れられるにしろ、うまい酒が飲みたいもんだ。
カイル:用意させよう。どちらの運命であっても。
ミレイユ:……銃を降ろして。
カイル:ありがとうございます。さあレイヴン中尉、行きましょう。
レイヴン:俺はこの故郷で、敵兵によって命を奪われる覚悟だったんだよ。
カイル:……行きましょう。
ナレーター(ミレイユ):本部へと連行されたレイヴンは軍法会議において処刑を宣告された。
ナレーター(ミレイユ):仲間を二人、それも意図的に殺したという罪は決して軽くなることはなかった。
ナレーター(ミレイユ):処刑執行の前夜、レイヴンは投獄されていた地下深い牢獄から脱獄。その後、行方は分かっていない。
ナレーター(ミレイユ):狼の遠吠えが、誰もいないはずの戦場にこだましていた……
コメント
最新を表示する
NG表示方式
NGID一覧