これはペンです(小説)

ページ名:これはペンです_小説_

登録日:2012/02/17(金) 04:12:43
更新日:2023/10/20 Fri 12:35:14NEW!
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小説 円城塔 文学 叔父 文字 記憶 新潮 良い夜 これはペンです



叔父は文字だ。文字通り。

         ──姪




『これはペンです』とは円城塔の小説。


2011年9月に単行本が新潮社から刊行されている。


収録作は以下の通り。
「これはペンです」(初出:「新潮」2011年1月号)


「良い夜を持っている」(初出:「新潮」2011年9月号)




概要
中篇小説をふたつを収録。
作者の小説はよくわからない調子でよくわからないことを語る──そのはずだった。


だったのだが、しかし、収められた小説はどちらも俄然読みやすく[要出典]、軽やかで爽やかな/じんわり暖かな読後感をすらりと味わえる。
当時の読者は「どうした」「何があった」とささめき合ったとか合わなかったとか。


……扱う内容に関して言えば、『これペン』以前の物語が「3次元投影された4次元120胞体の切頂の観察」ならば、
本書は「非イオン性ノニオン活面活性剤の分子構造の観察」になったくらいの変化。


そう、よくわからなさを残しつつ読みやすいという離れ業を、これはやってのけている。
「よくわからないのであれば、それは今までと変わらないのでは」と思うかもしれないが、試しに読んで頂きたい。
確かに何かが違うのだ。



ところで、「これペン」と「良い夜」は双子の姉妹のような関係にある。


前者が書くこと/書かれることに、後者が読むこと/読まれることにまつわる物語で、
書くもの/書かれるもの、読むもの/読まれるものを相互に経由する。


一見すると思考実験小説のようだが、読み進めれば叙情や詩情やユーモアが文の端々にぱたりと折り畳まれているのに気付くはず。



そして、忘れてはならぬのは──


可哀いのだ。
登場人物のひとりひとりが。


「これペン」の姪など恋する乙女といった趣で、見ていて大相可哀らしい。
理系の女の子好きには何かぐっと来るものがあるのではないだろうか。



そんなこんなで、本書は文系・理系問わず楽しめるものと相なっている。
円城塔入門書として『これペン』を推す意見もあり、
氏の本を読んでみたいという人へ本書から入る手もあるのだと申し上げたい。


もっとも、その人にとってそれが好手であるか悪手であるか、
わたしに知る術は端からないのだが、こう言う以外にどんな方法があるというのだろうか。




目次
「これはペンです」
叔父について考えている。


四六時中考えているものの、叔父の顔かたちをわたしは知らない。
小さい頃には大相可哀がってもらったらしいのだけれど。


わたしのことを姪と呼ぶ叔父。
どこともわからぬ場所から奇妙な手紙を寄越す叔父。
擬似論文生成プログラムの先駆者としての叔父。
擬似論文自動判定プログラムの開発者としての叔父。


以上を一息にまとめてしまって以下となる。


叔父は文字だ。文字通り。
だからわたしは、叔父を記すための道具を探さなければならない。



わたし
大学生の女の子。二十歳になったばかり。
妙に男らしい性格をしているが、これは男勝りの姐御ではなく考え方が理系っぽいという意味での男らしさ。
得意料理は磁石炒めとアルファベット形パスタのスープ。


叔父
文字。
変てこな人。勝手気ままに海外を渡り歩いては「わたし」宛てに手紙と、手紙の体裁を無視した手紙を送ってくる。
独自に組み上げた文章の自動生成プログラムを用いて財を成し、その道の研究者としてもかなり有名。
最終学歴は南北アメリカ・自由ボランタリティ大学博士課程修了。



「わたし」の母で、叔父の姉。
叔父の身の上を案じ、叔父に似てしまった「わたし」の行く末を心配している。




「良い夜を持っている」
父は不可解な人であった。


見当違いの方を向き喋りだし、真剣な面持ちで奇妙奇怪な質問を投げかける。
仕事に行かず始終家にいることもままあった。
母の葬儀のときなど、どこからか持ってきた黒く大きいタイプライターをかたかた叩き、実の娘に胸倉を掴まれる事件が起きた。


──父の症候群を知ったのは、姉から父が危篤だと知らせる手紙が届き、それに同封された専門書を読んでからだ。


あれから20年が経ち、こうしてわたしは父について話し始めようとしている。
読み解けたと思えるまでにそれだけの時間がかかったのだ。
父の症候群が記された専門書を、父が育った街を、父自身を。



わたし
長男。現在は父が他界した年齢に近い。
高校卒業と同時に家を出、手前勝手に生計を立てていた。
もっとも、姉からすれば「訳のわからないこと」をしてきたようだが。



父親。
幼い頃の「わたし」に真顔で「俺は今喋っているか」と問い、
別の日には「一時間とは何時間か」と訊ねる、そんな種類の人。
晩年は研究対象として教授に協力していた。



母親。
父の妻且つ二子の母として家を切り盛りした、すごい人。
父とはよく二人で川辺のお散歩デートをしたらしい。



長女。「わたし」の姉。
実務的でさっぱりした性格。
父の葬儀後に実家を継ぐと宣言し、今では子を産み母となっている。




余談など
「これペン」は第145回芥川賞候補作(この回の受賞作はなし)。
選考委員会は大絶賛派、全否定派、ディテイルに間違いがあるよ派が互いに意見をぶつけ合い、本作の選考はかなり難航したという。
ディテイル? 間違い? はてさて。
尚、大絶賛派に池澤夏樹氏、島田雅彦氏(五十音順)がいる。



「良い夜をっている」が正しいタイトル。“っている”だと思っていた派多数。






追記・修正等宜しくお願いします。

……


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  • 最後のトマトはなんだ -- 名無しさん (2020-12-18 14:50:35)

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