伝統的に陸軍を持たない(というより、警察力以上の陸軍を持つ必要がない)西方諸島では、軍といえばカザルフェの西方海督府である。
そこでの制式軍装ということで、西方諸島の一般的な軍装とは海軍装に等しい。
もちろん上陸戦を担当する揚陸軍は別個にあったが、ここでは一般的な洋上戦を担当する者の軍装を見ていきたい。
当然、ここでも魔導騎士団に相当する「洋上魔導騎士隊」などでは、魔術処理を施し、核を有する、いわゆる杖の機能を有した洋上剣を携える者も少なくない。
次に弓だが、洋上戦で使われる弓は量産性に優れた、特別な加工の必要がない単弓であることがほとんどである。
それは敵を射倒す目的よりも、火矢を射かけて船を燃やす目的で使われることが多いためで、矢の威力自体は問われない場合が多いためでもある。
矢は多少の工夫があり、油を吸わせた布を巻きつけてある物や、油袋を下げるための金具を備えているものがあったりと、普通の矢ではないことが多い。
また、船上で扱う武器、というくくりからは若干外れるが、斧を武器として使う者もいた。
これは正式に採用された武器というより、船に何かあった時に帆柱や鉤綱を切る目的で備え付けられているものを、そのまま武器として転用している者がいる、ということである。
洋上剣に比べて重く頑丈な斧は、打ち合った際に相手の剣を叩き折ることもできたので、膂力に自信のある者に好まれた。
これは主に「発火」や「爆発」の魔術を込めたものが使用され、単なる火矢の代替品として使われていたが、これを制作者も思わぬ形で活用する者がいた。
「爆発」の魔術を込めた魔導石を水中に打ち込むと、爆音と衝撃が広がり水中のマーフォークや水竜種に非常に効果があることが報告されたのである。
以来、マーフォークの海賊対策として、これを中型船一艘に二~三挺ほどの割合で、制式軍装として採用された。
特にマーフォークによる潜水兵は洋上戦においては非常に厄介で、櫂を出す口から漕ぎ手を殺傷したり、他種族の潜水兵では考えられないほどの洋上で浸水工作を行なったりと、西方海督府でも頭痛の種であった。
この発見から正式採用までは非常に短期間に行われ、いかに首脳部が対マーフォーク戦に頭を悩ませていたかがうかがい知れる。
次に鎧であるが、基本的に洋上兵は鎧を着ない。
というのも、海に落ちれば鎧は重りでしかなく、生存性を極端に下げるためである。
しかし、西方諸島の洋上兵は簡素だが籐甲鎧を着ていることが多い。
籐甲鎧は火に弱いが、それを消す水は余るほどある。
一般的には籠手や具足に限られるが、船上での斬りあいになると、胴まで籐甲鎧を着込んだ兵も姿を見せることから、制式軍装として各船に何領かの準備はあるのだろう。
船上での斬りあいにおいては籐甲鎧を着た兵は滅法強く、王国海軍では過去に幾度も煮え湯を飲まされている。
次に軍馬である。
正式に軍で使われている軍馬は、もちろん騎馬兵用ではなく、伝令用である。
特にカザルフェからは船による洋上通信、光による陸上通信が備えられているが、一方で非常時のために、伝令を走らせる備えも用意されている。
ここで使われる馬は「北領馬」である。
これは西方諸島の環境や使用目的に適した馬、というよりも、最も簡単に軍馬を売ってくれる相手が帝国であった、ということに過ぎない。
ただ、速く駆けなくなった馬は民間に農耕馬として払い下げられることが多いという西方諸島の流儀を見れば、重い荷を曳くのに適しているのは間違いなく、その意味では正しい選択かもしれない。
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