クルディスタン紛争

クルディスタン紛争とは、1947年にトルコ・イラン間で勃発したクルド人蜂起をめぐる紛争である。正確には「1947年トルコ・イラン紛争」であるが、この紛争とその結末におけるクルド人の関わりの大きさから「クルディスタン紛争」との呼称が一般化した。

ムスタファ・バルザーニー指揮下のクルド系武装組織によるトルコ国民議会爆弾テロ事件の発生は、トルコ・イラン国境近辺に住まうクルド人達への激しい排斥運動と、それに対抗する形での反政府運動を引き起こした。トルコ、イラン両国は事態に対処するために治安維持部隊を現地に派遣した。両国の治安維持活動は必然的に国境線で行われる。この結果、一部の治安維持部隊同士による衝突が幾度か発生した。次官級会談による双方の識別と共同掃討作戦方針が打ち出されたものの、協議は遅々として進まなかった。

この状況の中、追い詰められたクルド人達は1947年1月に「クルディスタン共和国」の建国を宣言した。共和国はトルコ、イラン両国に対して即時の撤退と独立承認を要求した。これが受け入れられる筈もなく、掃討作戦はさらに過熱していく。イラン軍は軽戦車連隊を中核としたイラン砂漠機動軍を展開する。この機動軍がクルド人独立旅団を追撃中に誤ってトルコ領内に侵入し、トルコ治安維持部隊と交戦。トルコ側の部隊は28名の死者を出して撤退した。激昂したイスメト・イノニュ大統領は第一軍の投入を指示。ファフレッティン・アルタイ（Fahrettin Altay）将軍は自制を要求したものの聞き入れられることは無かった。やむなく出撃した第一軍はアルタイ将軍の指揮の元、ドゥバズヤット近辺でイラン砂漠機動軍と衝突する。ジェマル・ギュルセル（Cemal Gürsel）将軍指揮下の第11、12歩兵師団は戦線正面より対戦車砲及び火砲を用いてイラン軍の突撃を撃退する。この間に後方に回り込んだ機動部隊が補給路を遮断し、包囲殲滅戦を実行。イラン軍は潰走状態に陥った。タシン・ヤジシ（Tahsin Yazıcı）率いる機甲旅団は敗走する敵軍を猛追、オルーミーイェ湖西岸において2倍近い師団を壊滅に追い込んだ。

一連の戦闘後、ソ連が仲裁を申し出る。イノニュ自身も戦線を拡大する気は更々なかったが、この「介入」によりトルコはその戦果に対してほとんど対価を得ることは適わなかった。両国の国境間には非戦地域としてマハバード・クルディスタン自治区が設置され、ソ連軍と双方の連絡官が駐在することが取り決められた。イランはトルコに対し賠償金を支払ったものの、その額はトルコ国民を納得させ得る額ではなかった。何よりもイノニュの、彼らしからぬ冷静さを欠いた決定が戦闘を長引かせ、ソ連の介入を招いたという批判が繰り広げられるようになったことが、トルコにとって最大の深手となった。以降イノニュは大統領職を2年務めたものの往年の指導力を発揮するには至らず、1950年のトルコ共産党（TKP）追放解除を以て大統領職を辞することとなる。

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