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共和国独立からこっち、共和国の人口は増え続けている。
お洒落独裁国家と言う誹りも何処ゆく風と言う訳である。
国内では鉄道需要が高まり、廃線になった所で復活できそうなものは復活し、またバブル期の計画にあった地下鉄路線は悉く復活となった。
これは住宅難や土地バブルの気配があるからで、それを押さえるべく発展を均す必要があったからだ。
道路も整備されていくが、市内中心部をパークアンドライド化させる計画も進んでおり、そうなった暁には市電まで復活するという。また、市の外縁部には大規模な駐車場と鉄道駅が一体化した施設も建設される。
机上の空論と呼ばれそうな事が強引とも言える力強さで薦められている。
国際空港までのルートは現状あるルート以外にもう一本バイパスルートが建設され。それは地下ルートになる模様だ。
また県営空港も再整備化が進み、先の地下ルートの鉄道と接続されるのだ。
国際空港の滑走路拡張計画も順調に進んでいる。
国際展示場の計画は名古屋港をサブ、名古屋空港をメインとして整備が再計画される。
その他の文化施設も更新や新設が進む。
独立前は統廃合して減った学校も逆に増え始めている。
建物の高層化も著しい。
十階未満の建物は未開発の土地と見なしていいと言われるほどだ。
道路にしても建物にしても、立ち退きや売却を拒む人がいるが、"様々な手で"懐柔されることになる。
大体、不死者に疑いの目を向ける人は、独立時点で共和国から立ち去っている筈だ。少なくとも、そう説明されている。
共和国の建設事業は羽振りがいいため、日本国の事業が遅れがちになっている。その為、日本国の関係者からは嫌な顔をされているだろう。
日本国と言えば、共和国によって東西が半ば分断された。
それ故、副ルートの設定に血眼になっている。
北陸ルートはその一つで、そしてもう一つ、三遠伊勢連絡道路の建設が本格的に進められている。
総事業費一兆円との事だが、共和国で仕事のある土建屋がどれほど乗る気なのか分からず、恐らく事業費は膨らむのだろうと考えられている。
三河半島と伊勢半島は海からにしろ空からにしろ、共和国の入り口に当たる。
そう言う事情から、共和国は建設反対を表明していた。
そして、日本国ではこういう政治的決断が先鋭化していく。
三河半島と伊勢半島に自衛隊を駐屯させるというのだ。
対空ミサイル、対艦ミサイルが常時配備される事態に、話は国連へと飛んでいく事になる。
もう一つ問題と言えば、共和国に流れ込む主な河川が岐阜や長野と言う日本国側に源を発しているという所である。
日本国はこれに関しても圧力を強めている。
共和国独立の一件で、日本国の政治家は"政治家が自らの命惜しさに一方的に譲歩した"と言われ続けており、彼等の妥協という選択肢は、政治的な死を意味していたのだ。
この頃の日本国は、右翼的思想と左翼的思想が両極端に先鋭化していたので、政治的に分断されていたという事もある。
ただ一点、共和国を許さないと言うことが、国をつなぎ止める唯一の共通点だった。それ故、政権が左右どちらに傾こうと、こうした傾向が止まることはなかった。
勿論、日本国の強硬な態度は、表向き共和国の国民を不安にさせる。だが、共和国的には国連で被害者面を出来るいい機会なのだ。
共和国スパイが日本国の態度を硬直化させたと言う噂もある。
これが第二次共和国独立戦争(日本国の言う"不死者による侵略")へと繋がっていく事になり、それが共和国の東海三県及び長野全土の編入に至り、共和国の領土的野心と取り沙汰される事になる。
尤も、経済的な成功が明らかな共和国に対し、緊縮に緊縮を重ねた日本国は没落の一途を辿っている。
自衛隊の一件にしても、駐留に実効的な意味はないとまで言われたぐらいだ。
それ故、一部自治体の長は、共和国に接触を試みる事になる。
そういう自治体への共和国の動きは、統制の崩れた中央に対照的に成功に至る。
勿論、共和国がいいとこどりをしたと言う誹りは正しいのだが。
領土的野心に対して「我々は生存に関わるあらゆる努力を惜しまないが、拡大拡張は己の中で完結している」と表明している。
実際、日本国の何処かを併呑しようと言う動きは、第二次独立戦争後には観察されない。
共和国にとっては需要地があればそれ以上の事はないのだろう。
結局、三遠伊勢連絡道路は共和国の手によって建設されたが、それは開発の波がこの地域に及んだからである。
日本国の"特色ある発展"が聞いて呆れると言う訳である。
地下に鉄道及び自動車道のトンネルが掘られて、これは青函トンネルを越えるプロジェクトとなった。
三河湾口道路に関しても開発が進んでいる。
共和国は"日本国が選ばなかったもう一つの日本"とよく言われる。
だが、彼女達不死者が日本全土を掌握して、そして日本全土を"よりよく"発展させられるかは疑問である。
結局、"都市圏のみ"からスタートした国家なのだから。
彼女達がどこまで考えているか分からない。どこまでの射程で、何処までの善意で……
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