0388
中本夫妻の結婚式と、太山夫妻――というと分かりにくい。油谷一新と御堂ちさと夫妻――の結婚式は、一週間空けて連続で開催された。
中本夫妻は割と顔見知りで固めた結婚式だった。
勇結は内勤が多いと言う都合もあって、仕事上繋がりがある人とか、よく遊ぶ友達で縛れば割と常識的な規模で収る。
結婚式と旧食堂でのパーティーは幸せな気分に包まれて終わった。
なお、式の前日、独身最後の日だと言う事で、黒服の悪友どもが深酒をしたのは言うまでもない。曰く、未成年には飲ませられない分飲んだと言う事らしい。
こういう愚行を行うのは男だけかと思うとそうではなく、女性の黒服も勇結そっちのけで飲んで、そして吐いたのである。
なので、出席してた黒服がグロッキーだったのだ。
如何にグロッキーでも体裁を整える事だけは長けている。
なので、一連の"儀式"はつつがなく終了したし、その雰囲気に新郎新婦は大いに感激していたのである。
さて、問題はちさとの方である。
関係している人間が多すぎて収拾が付かない。
しかも、流石に油谷くんの親類、友人とのバランスが取れないのはマズイと言う事で、最低限の人数にすると発表したのだ――発表が必要と言うのもどうかと思うけれど。
しかし、それで話が落ち着くと言う事はなかった。
ちさとがヴァージンロードを歩く相手として選んだのが兼ヶ渕先生だったのだ。
ちさと的にはお店の常連さんでしかないのだが、しかしまぁ財界の重鎮である。
それに羊子も時間が出来たから参加すると言い出したので、一気に式の"格"が上がってしまった。
唯やネミは存外堂々としているが、ルチルやつばきは大いに緊張していた――って油谷くんもそうか。
さて、呼ばれなかった連中が大人しく指をくわえている訳がなく、有志で金を出し合い「勝手にちさとちゃん一新くんを祝う会」と言う無茶苦茶な企画を隣接ホテルで始めたのだ。
それがまぁ、ちょっとしたイベントである。と言うか、文化祭再びみたいな様相になるのである。
それに例のソリティア同好会だか愛好会だかの連中が加わる。
中高生の身空で「ちさとちゃんは今日から人妻だけど、これからも守っていくぞ」と団結するのはヤバイだろう。一方、「青春よさらば」と泣く者もいたとかなんとか。いや、まだお前らは若いから。
式は土曜だったが、土日ぶっ続けでイベントをやっていたので、場内は惨憺たる有様だ。
ちさとも放っておけばいいものを、少しは顔を出した方が良いだろうと言うので、ドレスを着て参加したら大撮影会に発展した。
これには全国のちさとファンが泣いたという。"みんなのちさとが人のものになるだなんて"と……
当然、「何だかんだ言ってイケメンを選ぶのね」と言う評価も出てくるが、そんな言葉はこちらが黙っているだけで、言っている本人が一番惨めになるから反応しないと言っていた。
「イケメンを選ぶ女はそんな程度だから、俺からは願い下げだ=それよりも自分には価値がある」とか「男を顔で選ばない私はあの子よりも価値がある」とかその手の言い訳は、自分がそれを惨めと知ったときが一番ダメージがある。
人生は、自分で自分の価値を算定し、世界との折り合いを付けていく作業である。
時には自分にはこんな価値があるのだと気づき、そしてある時には自分はこんなに高望みしていたと気付く。その繰り返しだ。
ちさとにしても油谷くんにしても、その作業は死ぬまで続く。
そして、そこで生じる相手の疑心を如何に埋められるか?
それこそが全ての愛する二人に課せられた呪いだ。
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