0382 友達

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 校内では職員から生徒まで、きめ細やかな"眼差し"をもってケアしているのだけど、お節介と言う意味では相互監視である。
 もっとお節介と言えば、SNSの動向などをAIで分析してアラートが出ると言う機能まである。
 スクールカウンセラーが出ずっぱりになるのはしょうがないが、別にそういう資格を持っている訳でもない私まで駆り出される事になる。
 それで今回お話しをするのは、交友関係に悩んでいる男の子である。
 情報で上がっている限り友達もいるし、普段から遊んでいるようなのだけど。

 彼は「本当の友達が誰か分からない」と言うような事を言うのだ。
「遊んでくれる人がいるなら、その人が友達でいいんじゃない? それに本当とか嘘とかある?」
「だって、友達だと思ってても、相手がそう思うとは限らないし」
 面倒くさい事を考えるなぁ。
「相手が何を思っているかなんて絶対に分からないじゃない。
 自分が相手に友達だって言ったのに、違うって言われたら、それで終わりでいいんじゃない?
 それとも、違うって言われるのが怖い?」
「そうじゃないけど……」
「そう? でも、君を友達と思ってくれる人が居て、君が本当の友達なんていないって言ったら、その人はショックだと思うよ」
「そうだけど……」
「君、本当の友達とか親友だとか言うものに拘ってるでしょ?
 人間、そんな簡単にウェットな関係にはならないよ。程よい距離感で遊んでいるのが一番楽しいまであるんだからね。
 相手との距離を詰めればそれで仲良しって言うのも幻想だよ。
 だって、仲の悪い家族ってあるでしょ? 距離が近いからと言って仲がいいとは限らない。
 仲の良さとは、自分と相手の距離感をお互いに大切にすることだよ」
「そういうものでしょうか?」
「それとも、自分が言う前に意を汲んでくれる人を探していたりする? それはもう友達じゃなくって奴隷でしょう? 先ず君に大切なのは、自分と遊んでくれる人を大切にする事。そして、大切にしてくれない人を見分けて縁を切ることかな」
「それで友達がいなくなったら?」
「それならそれでいいんじゃないの? 自分を雑に扱う人なんかと一緒にいても消耗するだけだよ?
 それとも、君が求めているのは友達なんかじゃなくて、自分が誰かと遊べていると言う状況だけ?」
 流石に核心を突きすぎたのかも知れない。
「居場所って言うけどさ、あんなの幻想なんだよ。
 みんな自分の居場所の確保に必死になるけど、別にそんなもの必要ないよ。
 定年退職した人とかでも時々悩んでるけどさ、詰まるところはそれって寂しさなんだよね。
 そういう所をきっちりできてないと、カルトとかそういうのに付け込まれるし、逆に自分の居場所がゼロサムゲームだとか思って、人を追い出して満足するとか言う事になりかねない。
 一人の時は一人でもいいし、自分が楽しそうにしてたら、自然に遊んでくれる人は見つかるよ。
 重要なのは、自分は寂しい人間だと言う所に自分を追い込んで、一人で悲劇の主人公にならない事だよ。
 自分がいくら変わった人だって言っても、それに合う人は必ずいるし、ストライクゾーンが広い人もいる。
 そう言う人は、別段君を強いて友達だとか親友だとかは言わないけど、お互い丁度良いところで遊べていれば満足でしょ?
 そういうのが友達だと思うし、君も多分、そういう風に思われていると思うよ。
 友達って言葉にそんなに重い意味はない。重い意味はないけど、価値は君が願えば幾らでも大きくなる。
 重要なのは、自分が人の事をどれだけ思えるかであって、人が自分の事をどう思うかなんて副次的な問題でしかないんだよ」
「でも、それは御堂さんが人気者だからじゃないですか?」
「人によくして貰わないと自分も人によく出来ない? そういう損得勘定も悪くないけど、それって例えば挨拶一つにもコストを考えるようになっちゃうよ?
 挨拶って元々お互い気持ちよくなる為にするものでしょ?
 私が人気者じゃなかったら、挨拶無視する?
 うーん、あんまり男の人はって話するのもどうかと思うけど、男の人って割と年月が空いても友達なら一緒に遊べるんだよ。
 それって単純に相手の状況がどうとか関係ないでしょ?
 勿論、そういう君の善意を悪用する人も出てくるかも知れないけど、悪い事を考える人はその人が惨めになるだけじゃない。
 自分が人によくするのは、自分の誇りにもなるんだよ。
 自分だって人の事を思えるって言う経験は、必ず君を良い方向に導いてくれる。
 それが人気者だろうが、人気者じゃなかろうが、自分を大切にしてくれる人を大切にする。たったこれだけのシンプルな事なんだよ」
「そんな簡単じゃないですよ」
「複雑にしているのは君の世界の見方でしょ?
 必要以上に複雑な条件を組み込むものじゃないよ。
 相手が君に失礼なことをするのは、君が悪い人間だからじゃなくて、相手が失礼な人間なだけ。
 君が人にいい事をするのは、君がいい人だと言うだけの事。
 そこに損得だとか、人気がどうとか、派手に遊んでいるかどうかとか、そんなものは殆ど何の価値もない。
 確かにお金を持っている人にくっついていればおこぼれが貰えるかも知れないし、人気者にくっついていれば色んな人に会えるかも知れない。でもそれって君の価値ではないでしょ?
 そんなものは君がいい人になるだけで簡単に吹き飛んでしまう。
 君が唯一の何者かになりたい時、重要なのは自分にとって大切な人にとっての誰かになる事であって、たかだか狭い範囲で有名になるとか、狭い範囲でゲームスコアが多いとか、そんなことは君を満足させないんだよ。
 いや、満足したとしても、そこで納得は出来ないんだよ」
「何も知らないで」
「知らないよ! 君の事なんて誰も分からないよ! それを分かっているのは君の筈だよ?
 自分が本当にしたい事は何なの?
 その為に本当の友達ってものが必要? その本当の友達って言うのは君に何をしてくれるの? その人から何を欲しているの?
 その欲しいモノが多分、君の問題を複雑にしているんだよ。
 もっと言えば、その欲しいモノを口にしないために、態々本当の友達とか、その為の条件とかを風呂敷に広げてるんだ。
 もう少し素直に考えた方がいいよ。
 君の不幸は、答えを出さない為に考える事が多いと言うだけの事だよ」
「少し考えます」

 それから何度かやり取りしたけど、納得してくれる様子はなかった。
 ただ、友達とは仲良く遊んでいるようだ。
 周囲の評判は上々だという。
 素直じゃないなぁ。
 

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