0377 共和国への移民3

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 日本国で言われるのは、共和国では言論の自由がないと言う――エログロ系の出版を一切禁止しておきながらよく言えるなと思えるのだが。
 確かに、共和国では迂闊な発言はかなり重大な結果を招くのは間違いない。例えば何かの説を大々的に伝えようとすると、その論の学術的妥当性について、かなり積極的に批判される。そして、そういう指摘に対してきちんと対応できない人は、社会的な信用度がかなり下がる。
 そういう情報はデータベース化され、誰でも検索する事が出来て一生消えない。
 このデータベースはかなり権威的で、国民的な議論を"正しい"方向へと導いている。
 勿論、その"正しい"が不死者を中心にした政府の都合に大きく左右されるのは間違いないが。

 一方、フィクションはかなり自由である。
 政府の認めたゾーニングの中では、かなり活発にやりとりされていて、発表の場は保護までされている。
 モザイク関係の規制もないし、カード会社による圧力も国発行の電子通貨のお陰で回避できている。
 売春も指定された健康チェック、管理売春でないこと、決められた地区で行われるなどの条件を満たせば認められる状態だ。
 尤も、国民が金に困ると言う状況を作り出さない統治に於いて、売春を行うのはかなり特殊な状態ではあるのだが――具体的には出稼ぎ労働者として登録された人達か、そこから国籍を変えた人達だ。
 性風俗が地下に潜った日本国では、危険で搾取されるばかりであるから、共和国はかなり魅力的なのだ。
 尤も、入国したらしたで、なるべく"マトモ"な仕事の就職を求められるのだが。
 このマトモと言うのは、日本国のように"搾取される側に回れ"と言う意味ではないが、しかし賃金レベルは、共和国の水準としては低いと言わざるを得ない。
 共和国民は、なんだかんだで教育システムに於いて落ちこぼれを作らないので、こういう形の"セーフティネット"がいらないのだ。
 勿論、性風俗の類をセーフティネットとする世界が正しいとは言えないのだが。

 性風俗や売春の類でかなり言葉を選ぶのは、"天使"の存在だ。
 天使は準不死者のような扱いで保護されているが、特に何かの才能に恵まれていると言う訳ではないので、自ら求めて身体を売る者が少なくない。
 政府としてはいい顔をしていないが、これが目当てで共和国旅行をする変態ガイジンが多いのは否めない。
 逆を言えば、共和国旅行をする余裕のある人間は、母国で児童性愛に関する犯罪を犯さなくて済む。
 それを指して批判する人が多いのは確かな事だ――政府見解として「見た目に拘わらず事実上、成人している人間の就労の自由は奪えない」としている。

 出版に於いても実際の性サービスに於いても、共和国は自由なので、性犯罪の発生率は低い。
 それこそ国による監視システムが行き届いている証拠でもあるのだが。
 しかし、日本国に於いては"届け出を受けなければカウントしない"と言う方式で、犯罪率を低下させているので、表現規制派は数字を誇っている。
 何故こんな事になったかと言えば、純粋に予算が足りないからである。
 不死者が出ていった後の日本国は、緊縮財政に後戻りし、プライマリーバランスの黒字化に邁進している。しかし、相変わらずの中抜き体制で末端に金が行かなくなったのだ。
 そうもなると、警察も役所も人員を減らし、サービスを縮小しなくてはならない。サービスの質の低下は不満を呼ぶので、サービスそのものを削減することになる。
 そこで例えば警察などは、犯罪率に"計画経済"を導入したと言う訳である。予定にない犯罪は存在を認めない。と、言う訳である。
 これは単純に腐敗と言えるだろうが、合理化と言い換えている。

 ここで出てくるジョークは、共和国も日本国も犯罪の発生を認めないのだから同じじゃないかと言うのだ。
 "人が犯罪を犯す自由"と言うのを人権として認めるかと言う時、日本国はかなり自由だろう。
 そういう意味で、共和国は自由がない国である。
 

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