0352
一新くんの両親に挨拶してきた。
気分のよい人だ。実際一新くんがそのように成長したように、彼等もそのように教育したのだ。
世界に対して物怖じしないし、かといって世間に対して一通りの常識を持っている。
そう言えば、この世界で"人の家"と言うのに上がったのは、数えるほどしかない。転生者と天使、一般生徒を除けば、俊子ちゃんの家、何かの手伝いの時に凛ちゃんの家、店長の家、勿論一新くんの家、あとはあとは……あの"懐かしい家"だ。
あの夫婦のことを思い出さないでは居られない。
今はどうしているだろうか? 話を持ってきてくれた記者に連絡を入れれば分からないことはないだろうけど……
態々黒服にお願いする事もない。あるなら彼等は積極的に動いていてくれるから。
そうなのだ、何もないから今まで忘れたような顔が出来るのだ。
だけどふと思ってしまう。もしこちら側の世界に、自分の親と呼べるような存在がいたのなら。
よもやあの夫婦にもう一度会いたいなどとは思うまい。それは今もそうだしこれからもそうだ。
だが、自分のこの感情の正体は明らかにしたかった。
楓さんは偶然だと言っていたけど、偶然に郷愁に襲われるなんてあるだろうか?
確か……確か前の世界での親は、ああ言うタイプの人だっただろうか? 彼等も一新くんの両親と同じく善良だった。そして、それは自分の記憶の中にある両親も同じような人だった。
そんなものに全て引っ張られているのだろうか?
じゃぁ、何故娘の部屋であんな気持ちになったのだろうか?
転生が原因か? では何故私が転生した?
疑いだしたらキリがない。それこそ独我論にまで行き着いてしまう。
楓さんが教えてくれるとは思えないし、学校の資料は学校の中の資料ばかりだ。
転生の理由は? 何故、ここに? いつから?
疑問の後ろ二つは学校の歴史を紐解けば分かる。
広大な学校の敷地は、元々東谷山家の持ち物だった。
東谷山家はこの地の地主であり、そして神職であったと言う。お祓いを欠かさずにいた事が、転生者を生まなかった事に繋がったのだろうか?
1877年の秋、楓さんと姫ちゃん、菜瑠ちゃん、千桜ちゃんの四人が――どういう訳か――転生した。恐らく最初の転生者だ。
そして、その四人がその呪われた土地を管理する為に学校を建てたと言う。
四人ともそうだというのだから、もうそうだとしか言えない。
それから様々な手を使って政治や経済に根茎を巡らした。
恐らく最初は暴力的な方法で情報を集め、それを武器に政治に取り入っていったのだろう。地方から中央に、日本から世界に。
気になるのは呪いと言う奴である。
何もしないと良くない事が起こると説明してくれたけど、それが何かは言えないそうだ。そして、その呪いと転生も関係はあるようだけど、細かい事は教えてくれない。
そして、転生と自分に似た子の話もそうだ。
決定的な問題を隠していそうな気がするけれど、では、それを聞いて何が出来ると言う事もなさそうだ。或いは、今まで通りみんな仲良くやれないような気もしてくる。
知るべきだろうか? そして、そうであるならどうやって?
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