0332 姫と星の話

ページ名:0332 姫と星の話

0332

 星ちゃんはかなり真っ直ぐな子なので、話をするのが癒やしになると思うのは私だけじゃないはず。勿論、それ故に苛立つという人もいるのだろうけど。

「この前テレビを見ていたら、芸能人が正義なんて人の数だけあるから、何が正しいか分からないだろうと言って、話を混ぜっ返してたんですよね。
 それは違うなって思うけど、上手いこと反論できないなって」
「それは一面的には正しいよ。それでも人を殺しちゃいけないとか、人のものを盗んじゃいけないって言うのが正義なのは間違いないでしょ? ただ、サイコキラーとか息を吸うように人の傘を盗む人とか、そうじゃない人もいる。
 だから、正義が人の数あるのは嘘じゃない。
 でも、一般的にはそれは正義だし、法律にまでなっている。それはそう思う人が多いからと言うのがあるけど、じゃぁ何でそう思う人が多いかっていうと、人を統治するのにそれが便利だからなんだよ。
 多分、その芸能人が言いたいのは、権力が正義を決めると言う事なんだよね。
 そこまでは正しい。私達もその為に何でも使って自分の正義を追求しているよ」
「姫様までそう言うのですか?」
「私達は権力を持たなきゃいけないからね。
 ただ、自分の正義をどうやって決めるのかをきちんとしないと、何も優しさのない人間になってしまうんだよね。
 自分の力こそが全てで、それを如何に増大させるか。
 私達って、そういう力があるから、そういう風に考える傾向が強いのは確かだね。でも、そんなことをやっていて国や組織がまとまるかな?」
「無理ですね」
「例えば、障害者は生産性がない人間だから殺してしまえと言う思想がある。それはダメだよと言うのは、自分がいざ障害者になった時に、"潔く"死を選ぶなんてあり得ない話だし、自分の身内がそうなった時、なんとかして守ろうとするでしょ? そういう人間性って、かなり普遍的に近い思想じゃない?
 そういう、多くの人間の本性に反する事をしていたら、そんな権力倒されてしまうでしょ?
 或いは、貧乏人は税金を少額しか納めていないので、権利を制約すべきと言う考え方が実行されたら、食うに困った人達は何をしてでも生きようとするでしょ? それとも死なば諸共と拡大自殺をするかもしれない。そうなると当然治安は悪くなっていくでしょ?
 そういう人それぞれの正義の中でも、これは踏んではいけないと言う地雷が沢山あるんだよ。
 "合理的に考えて、人に優しくしなければならない"と言う思想もあれば、"情動的に人に優しくするのは当然のこと"と言う思想もある。どっちも違うけど、それが大多数である限り、そういう思想が優位になっていくんだよ」
「権力を持つプロセスと、権力を行使する事は別の話ということですか?」
「そういうことかな。
 権力というものが複雑な構造になっているし、権力が一番で人の事はどうでもいいって思想の人が世の中にいる以上、それを認めて立ち振る舞いを考えないといけない。
 そうしなければ、"人に優しくするのは弱い思想"だって言うことになっちゃう。
 でも、それじゃぁダメなんだよ」
「そうなると、戦争がダメだと言う思想は弱い思想ですか?」
「戦争は複雑だからねぇ。
 A国がB国を攻め込んだとしよう。戦争が長引きA国では厭戦機運が高まり、遂にA国の反戦運動が頂点に達し、大統領が変わり、戦争から手を引くことを決断した。
 これは反戦の思想が強かったからだろうか?」
「そうだと思います」
「表向きにはそうだよ。ただ反戦運動がB国の作戦の一つだったらどうだろう? 意図的に誘導された報道がされていたりしたら?」
「うーん。それでも、戦争はない方がいいし……」
「この件は、攻められた側の話だけど、逆も当然あり得るわけでしょ? もっと言えば、世論の誘導がもっと好戦的と言う事もあり得る」
「じゃぁ、民衆の思いってそんなものだって言う話になるんですか? それはちょっと……」
「みんなが平和を希求しているのは本当の事だと思うんだ。
 でも、人の心は自分が思うよりも人に影響される。
 そういう時、人が自分を失わないようにするのは、指導者のあり方として大事だと思うんだよ。
 勿論、そこで平和のためなら奴隷になってもいいって考え方は許されないんだけど、如何に人の命を救うかを考える時、そういう人の心って最後の最後に必要なことだと思うよ」
「そう言えば、戦争が起きたとき、降伏すればいいって人はどう思いますか?」
「それこそが平和ボケなのかなと思うよ。
 例えば我々が平和を求める精神を維持し続けたとして、相手がそれを持っているとは限らないからね。
 それこそそのように誘導された思想だったらどうする?
 我々の真摯な態度が奇跡を起こすと思う?
 戦争で人が死ななければ、それ以外のところで人が殺され死に追いやられてもそれはノーカウントだって言える?」
「国際社会がそれを許さないって言うけど」
「どうなんだろうね。現実、世界の彼方此方で戦争や戦争と定義されない紛争で沢山の人が死んでいるけど、国際社会がそれを止められている? その意志があるかないかは別として、止まってはいないよね?
 大体、自分で自分を守る意思のない人が、国際社会に解決を求めても、それはフリーライダーにしか見えないよ。
 なんで自分たちの血を流すことを厭う人の為に、自分たちの国の兵隊が血を流さなきゃいけないの?
 まるで自分たちは高貴な人間だからと言ってるようなものじゃない。自分の命は他の国の人の命よりも価値があると。
 人類は戦争をなくすほど賢くなってないんだ。
 でも、その最悪の中から少しでもマシな状況に持って行こうとする。それこそが国際社会のすることなんだよ。
 それに助けて貰うことばかり考えるより、自分でも助ける為にどうしたらいいかも考えなきゃいけないでしょ?」
「つまり自分でも力を持たなきゃいけないってことですか?」
「端的にはそういう事になるね。
 だって、お金を沢山寄付したいって思っても、収入以上には寄付できないでしょ? じゃぁ、善行する前に働けってことになる。
 意識ばかりが高くて、実効性のない活動は簡単に人に悪用されちゃう。
 自分が強くならないと。そしてその時にも優しさを持っていないとね」
 

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