0326
赤の場合の時、国の命令に素直に従っておけばいいのにと言う社説が出たのを覚えている。
既視感を感じる。
私の転生前の世界で、そういう国があったからだ。
大昔、豊かな大地と勤勉な国民の国であったという。
それを仮にA国としよう。
ある日、その国に神が遣わしたという一人の人間が現われた。
"彼"は、火薬と紙をこの世界にもたらした為、国王は彼を重用した。
隣国の強国は、彼を手に入れる為に様々な工作をしていた。その国をB国としよう。
B国は自国の国民が、A国で虐待に遭っているとか、B国の商人が盗賊に襲われているのはA国がワザと盗賊を見逃しているからだと様々な言いがかりを付けてきたのだ。
B国は"彼"の身柄の譲渡と、王家の解体。A国の武装解除――火薬をいち早く手に入れたので、軍事的に優位と思われたからだが――を要求した。
"彼"は、戦争になって人が死ぬぐらいなら、要求をのむべきだと進言し、(彼に陶酔していた)国王はそれを承認した。
しかし、冷静に考えてみよう。自国の商人や移住者をマッチポンプのために殺せるような国が、武装解除して投降すれば、無事元通りになると思っているのだろうか?
結果を言えば、王家の血筋は女性子供を含む全員が処刑され、B国から派遣された人間が国を統治した。
B国の国民が優遇され、A国の国民は離散してB国の未開拓地に送られた。虐殺も幾つかあったという。
諸外国はそんな非道をどう見ていたか? 自分の国を守るのに必死にならない国を支援する道義がどこにあるのかと。
その後、何百年以上もA国の国民は流浪の民となったのだ。世界各国で厄介者とされ、差別されることになる。
"彼"はどうなっただろう? 責任を取ったと言う話を聞かない。B国から優遇されたと言う話もある。なんならB国のハニトラに引っかかっていたという伝説もあるぐらいだ。
戦争は確かに忌むべきものだが、自らの運命の為に戦わない人間に何が言えるだろうか? 責任を負わずに隷従を受け入れろと言う人間より高貴な概念だろうか?
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