0318
ここに来て脚本が大幅に変更されることになった。
あまり部外者に脚本を見せるべきではないが、流石に閉口したのでメンバーや不二子、宙に見て貰った。
元々存在しなかった恋愛要素や、お涙頂戴の要素が追加され、クサイ政治批判まで載っかってきた。
原因はプロデューサーが変わったからである。
ついでを言うなら、そのプロデューサーが引っ張って来たスポンサーの口出しもあったらしい。
私は早速監督や他の主演の役者さんに連絡を入れ、「コレはナシでしょ?」と尋ねた。
反応は鈍いが、確かに肯定していた。
とは言え、そのプロデューサー、金集めの才はあるので、スポンサーの為だと言えば、誰も逆らえないまでのことはあった。
この映画、志は高くて"日本映画でもここまでやれるぞ"と言う事を証明しようとしているのは間違いない。
そうもなると、制作費はどんどん膨れあがる――プロデューサーの交代はそれが間接的な原因らしい。
とは言え、この人、出資者のウケを狙って、資金が集まれば映画の出来はそんなに気にしないと言う事なのが透けて見える。
昨今の映画界の流れからしたら、この先は予想できる。
完璧にスベってしまい、挙げ句「観客に、この風刺やドラマ構造が伝わらなかった」と。
映像を通して人に感動を与え、または何か大切なモノを伝えるというのが映画の使命ではないか? それをしくじったのを観客の所為にするのは、自分がスベっているのを認めたくないだけだろうと。
言ってみれば、不味いラーメンを出した挙げ句に客の舌を馬鹿にするような店だろう。
そんな店に二度と行くだろうか? 私は行かない。
そう、そんな風に日本映画に煮え湯を飲まされた人間が"日本映画なんてどうでもいい"と言ってきたから、今の日本映画界があるのだ。
挙げ句、売れているアニメ作品をガラパゴス化だと馬鹿にする。
映画のようなものはガラパゴス化して結構だ。自分の国で自分の国の作品が売れるのはいい事だ。国内で文化が循環している証拠なのだから。ボリウッドもノリウッドも国の中で好循環が起きているじゃないか。それを否定したら何も残らない。
ハリウッドに負けない? 違う、日本映画は日本映画の良さを追求すれば良い。だが、それが独り善がりになっているのが今の日本映画だ。もっと観客の反応を見なくてはならない。
そんな感じで、私が意見すると、「新人は黙っていろ」と言う反応になった。
これには色んな人から慰められたけど、私的には闘志が湧いてきた。
「そんなに言うなら、私がお金を集めてこればいいのでは?」
思い立ったが吉日、映画の辞退を仄めかしつつ、資金調達を始めた。
自己資金もそこそこある。大丈夫、何とかなるだろう。
「で、真っ先にウチに来たの?」
どうせラスボスになるんだからと、私は綾夏の前に座っていた。
「私のプランで行ったら絶対に黒字になるから!」
そうは言っても、表情が厳しい。
「根拠がないよね? 確かに、前の脚本と今の脚本を見たら、前の方が断然いいと思うよ。でも私、そんなに簡単にお金出さないよ」
「同じ転生者のよしみって言っても無駄だよね?」
「わかってるじゃない。私はこの手の"文化的に為になるから"って言って、口八丁手八丁でやって来る連中が嫌いなんだよ」
やや憎しみが込められた嫌みだ。
「それじゃぁ、黒字にならなかったらその分、私がただ働きでCMでもイベントでも出るよ」
この提案にも首を縦に振らない。
「それならもうちょっと成長期待できる企業に投資するかな?」
「じゃぁ、今年、紅白に出るって言ったら?」
「確証はあるの?」
「今やっている曲が頗る出来が良い。それをCMに使ってもいい」
「大した自信じゃない」
「映画が思い通りの出来なら、その主題歌を私達が歌う。そしたら来年も出られるよ」
綾夏は片眉を上げる。
「まぁいいんじゃない?
どーせこれから心音のところ行くんでしょ?」
にやりとしたり顔をする。
「バレちゃった?」
「言付けを頼むわ。もしヒットしなかったらアンタも同罪だってね」
「ありがとう」
「他のメンバーにも言っておくんだよ。これは連帯責任だよ」
資金は、剣菱銀行や剣菱商事、剣菱重工などから手広く手に入る事になった。
この資金を背景に、私は前のプロデューサーを呼び戻し、脚本も元通りにした。
勿論、主題歌はH.A.R.M.S.が歌うことになる。
ああ、その前に今年の紅白に出場できるようなヒットを飛ばさないと……
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