0316 藤田が義憤に駆られる

ページ名:0316 藤田が義憤に駆られる

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 最近ちょこちょこ藤田が顔を出す。
 当然"アレ"の件なのだけど、私と言うか学校としてコメントを差し控えている。行動党の邪魔をすることもないからだ。
「あのねぇ、何度来てもスクープは手に入らないよ。実際、秘密作戦らしい作戦は一つも実行してないからなぁ。
 情報収集はしているけど、イチ週刊誌に言えるような情報じゃないし、肝心な部分は全部行動党が握ってるから、私に聞いても無駄なんだよ」
 今日も追い返そうとするが、藤田も少しは肝が据わってきたようである。
「じゃぁ、瀧さんの考える部分で良いです」
 と言うのだ。
「大人の世界の事情って奴だよ」
 そう言うと、彼はため息を吐いて、そしてまた食い下がろうとした。
「戦争回避のために作戦はしなかったと言うなら、なんでしなかったんですか? これでもリベラル名乗ってるんでしょ? 自由主義のためにあの国の手助けをすればいいじゃないですか?」
 やや義憤に駆られる所があるなと思った。
「第一に、世界の"見方"は必ず一つとは限らないって事だよ。
 勿論、"自由主義陣営"としての世界感に乗っかって、それを第一に行動をしているのだけど、かといって、"世界をそういう見方しない世界"がある訳でしょ。そういう世界にも配慮はしなきゃいけないんだよ。
 もし私達が行動して、何か大きい成果を出したとしたら、何も証拠を残さなかったとしても"ああ転生者が手を出したな"と分かってしまう。
 本件は証拠が残らなければ何でもいいと言う場合じゃないんだよ」
 私がそう言うと、納得がいかないようだった。
「でも、万事解決すればいいじゃないですか?」
「前にも言ったかも知れないけど、私達って世界に対してあんまり積極的に行動しちゃいけない事になってるんだよね。
 少なくとも、当事者同士の約束事に縛られてるんだよ。
 それって、一つ上のレイヤーで決まってる事だから、本件に対して中立を守れと言われたら、それに従うしかないんだ。戦争のアクターが当事者の全てじゃないんだよ。
 最低限の約束を守らないと、私達って残りの世界を全て敵に回すことになる。
 私達が仮に一人で一万人程度相手に戦う事が出来たとして、精々数百万人が限界でしょ? 勿論、私達は死なないけどかといって無限に復活するのなんて御免だよ。
 私達は、私達が食っていける程度の仕事を貰いつつ、世界に対して意欲的になっちゃいけない事になってる。
 まぁ、黄色の場合でその約束が若干緩和されたけど、でも、いいとこ国内だけだよ。
 調停役ぐらいにはなれるかも知れないけど、国際紛争の主役として登場しちゃいけない事になってるんだ。
 後生だから聞き分けてくれ……」
 そう言うと、藤田は不満顔だった。
「例えばね、この事実に憤って、君がネットか何処かで書いたとしよう。そうしたら、直ちに我々や我々の上の人達が、"この藤田という人間は精神に不調を来している"と言う事実を練り上げ、もうものの数日で、君が語った真実は"可愛そうな人の陰謀論"って事になっちゃうんだ。
 それはいつぞの赤狩りよりももっと洗練された形で実行されるよ。
 それに君は抗えない。
 私が私達を取り巻くルールに抗えないようにね」
 そう言うと、「そんなことしませんよ」と拗ねたように呟いた。
「聞き分けが良くて嬉しいわ」

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