0298 勇結とカズマの子

ページ名:0298 勇結とカズマの子

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 勇結ちゃんの子供が生まれた。
 女の子だ。
 明けの明星がひときわ明るい早朝の出産だった。
 あの金星のように気高い人間になって欲しい。そう願って、暁星(あきせ)と言う名前を付けたという。

 特例とか色々あってカズマくんと勇結ちゃんは婚姻届を出せるところまでになった。
 尤も学校では通称の方を重視するから、役所や役所的な書類上だけは中本カズマになっているが、これからも中貝カズマである。
 さて、出産から暫くは特に仲のいい友達がひっきりなしに挨拶に来ていて、いくら体力に余裕のある転生者でも、しんどくなってきたのだ。
 そうもなれば、みんな遠慮するようになり、その件は一件落着した。
 そう思えたのだが……カズマくんのご両親がいつになったら挨拶に来るのかと催促したのだ。

 こうした接触は、今までも何度もあった。
 カズマくんが勇気を見せた記者会見以降、両親からの接触があり、校内で一度挨拶をした事がある。
 その時の勇結ちゃんの印象は、多少過保護感はあるけど、いい両親じゃないかと思っていた。
 PCが好きだった彼にパソコンを買い与えたのは両親だったはずだ。こう言っては悪いが、彼は一方的に両親を嫌う中二病なのではと。
 少なくとも、両親は二人の事を讃えていて、学校にも二人にも悪い印象を持っている雰囲気はなかったのだ。

 その印象が覆されたのは、出産まで続く「こちらにおいでよ」と言う言葉であった。
 それがあまりにもしつこいので、裏があるのではないかと調査をしたぐらいだ。
 両親は周囲や親戚に自慢話を大いにしていたようだ。
 そういう事から、ただの見栄なのだろうと言う結論に至った。
 出産は実家でした方がいいとか、一旦家においでよとか、実家だと思っていつでも来ていいとか言う言葉が、手を替え品を替え繰り出されたのだ。
 それに一々真面目に答えていたのだが、近頃はそれも面倒くさくなって来た。
 二人とも学校を離れるつもりはないのだと強く言わざるを得ない。

 面白くないのは両親である。
 カズマくんを中学生まで育てたのは誰だとか、"誘拐事件"の時、何故自分たちに連絡がなかったのかと、態度は急変した。
 勿論、それは騒ぎ立てている訳ではなく、ちくちくと言う程度である。それ以外はなるべく平穏な態度を決めていた。しかし、不満は強いだろう。

 カズマくんが言うには、最初のPC以外は自分で働いて――ハッキングツールやらチートツールで金を稼いでいたらしい――手に入れたらしく、そういう金の動きを、両親は悪し様に貶していたと言う。
「ああ言う人だから、気にしないで」
 カズマくんは常に勇結ちゃんの味方であった。

 カズマくん的には縁の切りたい存在であるが、具体的にぶち切れるようなイベントも起きていない。
 人間、何処かで腹を立てて破局的な事が起こるとき、原因の何かだけが問題である事は少ない。
 様々な事象の積み重ねが人に不信感と怒りを与えるのである。
 逆に、人から怒りを買ったときに、アレが原因だとかコレが原因だという言葉は、精々切っ掛けでしかなく、それを取り除く事が怒りを抑える有効な方法である事は少ない。
 人の怒りは怒りのために怒ることもあり、そうなった時、合理的な対策などは存在しないのだ。
 斯くして、問題の解決などあり得ない。
 その為に、人はルールを整備し、法を作り、裁判所を建てたのである。

 それはそれとして、暁星を両親に見せないと言う選択肢も取り辛かった。本格的に破局していないのだから、相手が誠意を見せている以上、こちらも誠意で答えるのが大人の対応であるからだ。
 そして、チクチク言った事も謝られたとなると、またこっちに来いと言うのはしんどい事である。
 首が据わるまで待ってと言って、三ヶ月四ヶ月の猶予を得たのだ。
 

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