0297 (少し先の話)赤の場合の準備

ページ名:0297 (少し先の話)赤の場合の準備

0297

「大体、官僚の無謬性は誰が保証するんですか? 政策が上手く行かないとき、相互に言い訳をするために存在してるわけじゃないでしょ。
 官僚の顔色を窺って、国民の生活に一切目を向けない政治家が、何で代議士なんて言葉で呼ばれてるんですか?
 あと、そこいらで中立って顔してる連中も連中ですよ。
 目の前で不当なことが起きているのに、俺は中立だと言うのは、不当なことに荷担しているだけでしょ。そういう日和見主義な政治家も、真面目に仕事をする事を覚えた方が良い。
 あと、新しい資本主義ですか? 随分とふわっとした事いうんですね。
 それはまるで古い資本主義で苦しんだ人を助ける為に存在してるように言ってるじゃないですか。
 でも、やってる事は勝ち組が確定した人の地位の固定化じゃないですか。
 弱者救済に関して"本当に困っている人"って二言目にいいますけどね、本当かどうかと言うのは自分の心証で決めてる訳でしょ? つまり、自分が可愛がっていいって思ってる人だけ助けるって言ってる訳ですよね。これが本当に平等な社会を作るって言うんですか?
 これ、差別問題に繋がる話なんですけど、平等にするとか差別をなくすって言葉を、自分の嫌いな人間をこの世からなくす事だと思ってる人、政治家の中にも沢山いるのですが、その辺もどうか考えて戴かないと困りますよ。
 それでよく、グローバルな倫理規範なんて言う人いますが、世界で統一した規定でこれは倫理的、これは非倫理的って区分けするのは、果たして何処を中心とした倫理観なんですかね?
 そういう時に出羽守が現われて、世界の全てを知っているような顔をされると困るんですよ。
 先ずは国民の生活を向上させる、その為には平等に富を配らなければならないわけで、それを資本主義の中で実現させる方法を見つけるのが、本邦政治家の仕事でしょう。
 官僚の方々には大変苦労をして戴いている訳ですが、明らかに間違っている事に関して、間違いだと言うのが政治家の責任ではないですか? 三権分立は小学校で習うでしょう。なんでそんなことが理解出来てないんですか?
 野党も野党で、与党に反対することだけが仕事だと思ってる人いますよね? なんでも対論を出せとは言いませんが、もう少し建設的に物事を考えないと、この国は良くなりませんよ。
 自分の望んだ結果以外は認めないなんて我が儘がいつまでも立つと思ったら大間違いですよ!」

 私はこの国の様々な面に苛立っていた。
 勿論、その苛立ちに対して、方々と折衝して答えを導いていくのがこの仕事の楽しさであり醍醐味だ。
 だが、余りにもレベルの低い話が多い。
 何処かの地方議員が、交通事故を起こしたと言うのに、それを伏せて当選するわ、発覚すると逃げ回るわ、挙げ句議会にも出てこないわなんて事がある。
 碌に勉強もしないで感想だけで物事を決める馬鹿な議員がいる。
 自分の贔屓にしている団体への利益誘導こそが政治家の仕事と考えて、戦略もプランも目先の数年、よくて自分が生きている間のことしか考えていない。
 根拠を求めても"理解"しか出さない連中。ダブルチェックのない情報を恥ずかしげもなしに出す連中。専門性に欠いている上に網羅性もない連中。
 政治ごっこか。党も国も腐っている。

 ああ、国民が可哀想だ。
 国民の自尊心というのは大切だ。
 独裁政権下でも国勢は強いと信じれば我慢できる。文化的に立ち後れていても金があれば威張れる。国の有様が酷くても歴史があると胸を張れる。
 だが、国勢は衰え、文化に対する愛がなく、歴史に関しては方々からケチを付けられる。金はなく、投資もなく、科学も技術も衰えていく。諸外国から愛される性質は捨てられ、嫌われる様な事ばかりしている。
 国民から金を搾り取って、黒字になれば国が富むと信じている。国民が貧しくて何が一等国だ。
 一部の金持ち以外が薄い粥を啜っている有様で誰が国を愛する? 自分が政治家でなかったら、こんな国は捨てるに限る。
 では私の選択肢はなんだろう? 国を変えるのが無理なら、国を乗っ取るか、割譲するかしかない。そんな思い切った事が出来るだろうか?

 そんな時に、藍莉からメモが回ってくる。
 一部議員が水面下で我々の諸権利を奪う法案を準備していると。最速の成立を目指しているそうで、来年の通常国会で成立の見込みだという。
 リークして国民の信を問うとしても、我々が敗退した後で行動党も何もないだろう。
 我々を敵に回すのだから相手も命懸けだ。本当に頭が落ちるかも知れないのに……

「赤の場合じゃな……」
 会議でいの一番に口を開いたのは楓だ。
「目算では百日ほど余裕がある。クーデターを起こすしかないと思うけど、準備できそう?」
 姫が物騒な――そして唯一の道について尋ねる。
「動員に三日、準備に二日ってところかな?」
 涼子が答えると、寧子がごねる。
「全部で三日じゃできない? 少しでも気配を知られたくない」
「予備役を使えるなら……」
「どうせこの国からオサラバするなら、それでもいいと思えるけど」
 ひとみが言うけれど、涼子は反論する。
「予備役って、浸透している黒服も全部だよ! 今までどれだけ準備してきたと思うの?」
「今がその時じゃないの?」
「分かった。予備役を使って計画を立てる」
 涼子が納得した所で、あと気になるのは国際社会だ。
「みんなで手分けするしかないだろうな」
「では、三時間後に」

 殆どの生徒が慌ただしくなる。様々なツテに連絡を入れる。それも十分信頼に値する人間に。
 逆に、この場で連絡が入らない人間は、その程度の人間だ。
 国内の政界、財界、防衛、マスコミ関係は勿論、各国の官邸へと電話は繋がる。

「ハロー、大統領? これから新しいレポート送るけど……そうそう、あの件なんだけど、来年春頃に国を樹てるつもり――えー、だってそれ以外道がないでしょう?」
 アメリカの諜報機関が本件、議員どもの動きを知らない筈がない。そして、対策を我々が持たない筈がないのも知っている。
「困る? 困ってるのはこっちの方だよ。重武装中立で行くつもりだから! 日米同盟そのまんまでいいから! ――そんなタマ持ってる議員なんて一人もいないよ! 議会工作もこっちの方で頑張るからねっ!」
 他の国との関係について色々と疑念を持っているようだ。
「今まで上手くやってきたでしょ? 他にも同じ説明しかしてないから――何言ってるの? 稜邦中学は中南海もクレムリンも手は出せない聖域だよ? 誰が邪魔するって言うの? そんな奴、三日と生存できると思う? お願い、いい子だからね?」

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧