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日本国から共和国が分かれてから暫く経った頃だ。
ネットからマスコミまで大きな論争になった出来事がある。
切っ掛けは、さる飲食店が、大家との会話を録音しネットにぶちまけたことだ。
事の始まりは、その飲食店が貰い事故で一ヶ月お店を開けなくなったのだ。困った彼は賃料の支払いの猶予を申し出た。契約では支払いの遅延は即時退去となっていたので、確かに不法ではある。だが、その発言があまりにも相手を馬鹿にしていて、「お前が出て行っても次はあるし、お前がいなくなった程度の賃料なんて俺の小遣い程度だ」と言い張ったのだ。
それから罵倒が続き、反社に襲わせると脅し、それに反論すると、警察や司法に友達がいるから無駄だと高笑いしたのだ。
日本国の労働者はさぞかし怒っただろうか? 実は半々である。服従を是とし、"彼等に阿る思想を持てば、自分の暮らしぶりは何れ良くなるだろう"と言う人間は想像以上に多いのだ。そういう人間は、自己啓発本とか金持ちの単なる自慢話を有り難がり、仕舞いに詐欺師ペテン師の養分になるのである。
それはまた別の話として、この怒りを利用しようとしたのがRFである。
彼等のネット工作員は、共和国の支援により様々な情報をネットに放流した。その大家の詳細を暴き出し、使うと言った反社や、友達だという警察関係者を曝した。
当然、警察は動く。だが共和国の技術に予算の限られている彼等が追いつける筈もなく、捜査は進まなかった。
問題の大家は強気の態度を崩さず、政府寄りのメディアにさえ、憎まれ口を叩いていた。
最初に標的にされたのはペットの犬だ。
大家が散歩しているところで催涙スプレーを噴射されたのだ。犬にそれが掛かり、あっさりと死んでしまった。
大家は激怒し、犯行を非難する記者会見を開いた。
そして、貧乏人と自分は質的に異なる人間なので、全貧乏人を許さないとまで発言した。
次に彼が遊びに出掛けている間に、家族が誘拐された。
そこで泣き落としでもすれば良かったが、「全員を死刑にさせる」とまで言ったので、家族が処刑される映像が送りつけられる事になる。
家族も強気だった。
こんなこと何でもないと。脅していても、所詮何も出来ないだろう。犬を殺す程度が精々だ。
そんな憎まれ口を叩いていた。
そこで拳銃が持ち込まれて、先ずは一番喚いていた母親が殺される。
次に「絶対殺す」と叫んだ長男。
二女、長女と処刑は進んだ。
「我々は快楽殺人を好まない。言い分は聞いたが許せるだろうか?」
目出し帽の男が演説していた。
この方法は、誰もが非難するものとなる。
本当に誰もがだろうか? 犯罪を正面から賞賛する人間なんていないだろう。
この頃の日本国は、労働環境が最悪になり、ジニ係数は日に日に上昇していた。物価は上昇し、賃金は"下げられないだけ有難く思え"の世界である。
一方、大家は代々の地主である。派手な生活をしていたが、話題になってからその生活を誇示するようになった。鬱屈した思いをRFに反映させる庶民も少なくないであろう。
さて、そんな事件ともなると、背景に共和国がいるのだと言う言説が、愛国者や政治家の間からも聞かれるようになる。
共和国は「証拠がないようでしたら裁判で決着させますが……我々がテロリストを支援していると信じてなさるなら、そのような発言も出来ませんしね」と、際どい反論をするぐらいだった。
気勢を殺がれた彼等は、文句を言い続けるが、恒例行事となってしまい、世間的には「ポジショントーク」と笑われる事になる。
大家の身柄は厳重保護される事になる。
友達と呼ばれた人は、関わり合いを避けるようになり、更には彼の悪口まで漏れるほどになったのだ。
それから数回襲撃があり、命からがら助かった。
本気の襲撃ではない。警備員が違法な武器を持っている事を明らかにした。
いよいよ"上級国民論"が増していく。そして、彼は孤独になる。
最終的に、海外に逃げることになるのだが、その国で警備員に裏切られ嬲り殺しにされる映像が流れた。
全くの違法行為だが、犯行声明を出した組織(正式にはRFとは無関係となっている)のコメントはこちらだ。
「国を革命する権利は誰しも持っている」
RFによる"革命"への活動は、金持ちや権力者が貧乏人を貶し腐した人間を襲撃する事が主となっていった。
当然そういう人間は警備が厳重にするが、そこで敢えて無差別テロを選ばないのが彼等の戦略であった。
今日もブラック企業の社長が誘拐され、惨殺された。
こうもなると、貧乏人については触れず、責任は他の誰かにと言う経営者や政治家が増えてくる。
そして、誰かを引きずり下ろす為にワザとそういう発言をリークするような事も始まった。
ただ、RFの背後に誰がいるかを知っている者はそんなことをしない。利用しようとする人間は、キッチリ証拠を世に曝され、そして殺されるからである。
為政者や経営者は、それがリベラルを表明していても、愛国を表明していても、特に変わらない。やっている事が、国民からの搾取なのか、それとも共同的反映なのか。
ラディカルな共産主義思想がRFの特徴とされた。実態も知らないで。
さて、赤の場合以降、外国人技能実習制度と労働派遣法は様々な規制が撤廃され、奴隷をどこから持ってくるかの違いでしかなくなりつつあった。
脱走した技能実習生が犯罪者となることは多く、その為、警察の技能実習生に対する扱いは、三等国民のようなものとなった。当然、それは事態を悪化させる。
脱走実習生を束ねたのも共和国である。
怒りの水牛、JDDCなどが発生した。そして、彼等の略奪、破壊行為も烈度を高めていく。
彼等をコキ使った農園は、収穫前に作物が奪われ、縫製工場では一斉にミシンが盗まれ、機械部品工場では火を付けられた。
用意周到に、証拠を残さないように。
警察が証拠もなく彼等を逮捕したりすれば、すぐさま人権派の弁護士がすっ飛んでくる。なのでRFやその他の"反日団体"は、積極的に捜査される事はなくなった。
勿論、警察内部も複雑なので、捜査をしているところもある。だが、成果は芳しくない。予算が少ないからである。
日本国は手をこまぬいている訳ではなく、扶桑会議の連中に襲わせるようにしている。
そう言う事情から、日本国の治安は更に悪化していくこととなった。
扶桑会議が爆破テロをやり、RFに罪をなすりつけようとする。しかし、証拠が提示されて、話が有耶無耶になる。
警察は彼等に優しい。
テロの実行犯を処罰しない警察に見切りを付ける者が現われるのはそれほど遠くない未来であった。
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