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公には出来ないけれど、転生者には元神様だの元宗教指導者だのがいる。とは言え、クリスマスだなんだに関して文句を言う人はいない。
例年の通り、みんな浮き足立っているのだけど、今年は贔屓にしている生徒だの天使だのがいる所為で、若干複雑な様相を呈している。
部活や同好会の面々を率いている転生者は、何処かのお店貸し切りでパーティーをやるとか、自分の家に呼ぶとか、ホテルのホールを借りるとか色々やっている。
この地に居を構えた先生方も、気前がいい人は自宅に呼んでいると言う。
生徒同士で恋仲になっている子は、それぞれで過ごすし、忙しかったり、転生者同士で過ごす場合も多い。
だが、そうもなると独りぼっちと言う可能性を配慮しなくてはならなくなった。
転生者のアプリで誰もあぶれないようにしようと情報共有される。
勿論、大きなお世話だと言うのはあるかも知れない。否、大きなお世話はこの場合大切だ。本当に一人が好きと言う子は、前々から付き合いで分かっている。だが、そうだとしても最初から誘わない訳にはいくまい。
私は山水亭の面々とお店で過ごすことになったのだけど……直後に、真生ちゃんとルイちゃんから「配信やろうよ」と誘われた。
「クリスマスに配信しないと彼氏と寝てるって言われちゃうぞ」
「そう言う話はやめなさい」と叱ったが、「じゃぁ、お店で配信する」と言うのだ。
「お店の営業は二十三日までですけど?」
「開けちゃおうよ、お店にあぶれてる子もいるんだよ」
それはそうかも知れないけど、お金に余裕がある子は街にでも出ればいいじゃないか。そんな苦情を言いつつも二人に関しては押し切られた。
そういえば、つばきちゃんはどうだろう? そう思って尋ねてみたら、全く考えていなかったらしい。
「周りも少しは気を使えよ、代表だろう」
と思ったが、つばきちゃんを傷つけそうなのでやめておいた。
私が面子に追加したよと言うと、真生ルイの二人はぶーぶーいう。
「店長権限でいいんですよ」
そういう訳で、クリスマスイブだ。
昼のうちから色々仕込んでおいた。真生ちゃんとルイちゃんからは"秘蔵"を出して貰ったのでよしとしよう。
タンシチューにローストビーフ、可愛く盛り付けたサラダ、半年掛けた自家製ラルド、大きなターキーレッグ、人気ケーキ屋さんのシュトレンとクリスマスケーキ……まぁ何というか、写真向けである。
真生ルイコンビは生身配信を初めてしまう。
レールに載せたフルサイズ4Kハンディーカムで、料理を撮影し始めた時には閉口した。
「二人は放っておいて始めましょう
私が言うと、真生ちゃんは「まってー」と急いで戻ってきた。
シャンパンを開け、ネミちゃんとつばきちゃんはシャンメリーで乾杯だ。
「そう言えば、唯ちゃんは?」
と真生ちゃんに尋ねられるが、ルイちゃんが即時に「水主ちゃんと一緒に決まってるでしょ」と突っ込んだ。
会話中、さっきの映像がエンドレスで流れている。
「完成された飯テロ配信」とか「推しが配信しないより辛いクリスマス配信を見るとは思わなかった」などとコメントが続く。
私がコメントに反応していると、「元々配信はなかったんだし、気にするのはあの二人でよくない?」と雪ちゃんに窘められる。
確かにそうだなぁ……
学校あるあるな話をすると、コメントは「それっぽい」とか言われ、それを二人は拾っていた。
こっちは構わずに、秘匿でない範囲で話す。
雰囲気に酔ったネミちゃんが「ちさとさん、ハグしてもいいですか!?」と鼻息荒く近寄ってきた。
しょうがないからハグしてよしよししていたら、私側から映像を撮られてしまった。
「こらこら」
ネミちゃんにしても雪ちゃんにしてもOKは貰ってるし、つばきちゃんも記者会見で顔を曝しているから、特に気にしないという。
ネミちゃんの頭を撫でている向こうで、つばきちゃんがちょっと落ち着かない雰囲気である。
「つばきちゃんもおいで」
コメントは「百合たすかる」とかそんなものばかりが画面に流れていた。
全く!
雪ちゃんはそんな様子を静かに眺めながらワインを飲んでいた。真生ちゃんの秘蔵の方である。
二人は配信が楽しそうだし、ショバ代と言う事にしておこう。
カメラは校舎の上から見える街の夜景を映し出している。
「稜邦の街も捨てたものじゃないよね」
この半年ばかりで次々に建った建築物群は、この街を田舎だけど都会と言う分かりにくい状況にしていた。
「一年前はこんなことになるだなんて思ってもみなかったね」
「あの配信から一年だもんね……」
そう言えばそうだったなぁ。
「みんな忙しくなっちゃったね」
「もっと楽にしたかったなぁ」
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