0288 俊子の悩み

ページ名:0288 俊子の悩み

0288

 今年は勉強ばかりの年だったと思う。否、違ったかも……勉強はしっかりしたつもりだ。
 結論を言えば、よほど下手な事をしない限り、私達三人は志望校に入れる。それは推薦を獲得できたからだ。
 勿論、筆記テストはあるし、万が一落ちた場合とか、そういう想定で動く都合上、勉強は欠かせない。
 でも一つだけ思うのは、惰性で勉強をしているのだなと言うことだ。言ってみれば調子に乗っていても、私の運命は変わらないだろう。でも、人の目を見ると、そういうこともしていられない。

 もう来年から「家の名前で選ばれた」と言われるだろう。
 カナちゃんと凛ちゃんが選んだから自分もそこへ……そんな風に決めたから、今になって自己嫌悪をしている。
 本当にこんなことでよかったのだろうか?

 学校の雰囲気は良かったと思うし、学校のレベルは曾祖父や祖母を納得させる事が出来ている。両親は「としちゃんがいいと思うなら反対しないよ」とまで。
 でも、でも、それだけで許されるだろうか? 自分のこのあやふやな立ち位置は、未だに自分を納得させられないでいた。
 両親や楓ちゃんからは、もっと実家を頼れと言われてしまった。
 うーん、そういうのじゃないんだけどなぁ。

 私は本当は何になりたいのだろうか?

 凛ちゃんは本当のお父さんに認められるようになると息巻いている。黒服の人との縁もあって、防衛大を目指すと言っていた。
 普段緩い子だけど、柄物持たせると目つきが鋭くなるしなぁ……
 カナちゃんはどうやら本気でプロ雀士を目指しているようだった。
 当初は女子高生プロ雀士になりたいと薄らぼんやりしていた事を言ってたが、現役高校生はプロになれないと知るやプランを変更した。"麻雀以外にも魅力を持たないと、本当に魅せられる人にならない"と考えて、真栄田さんのところで勉強をさせてくれと頼み込んだみたいだ。

 ちさとちゃんからは、「無理に悩む事を見つける必要はない」と言われた事がある。
 でも、いい歳したおじさんおばさんが、ある時急に「人生はなんだったんだ」と言い出して、結果詐欺師に引っかかると言う事は良くある話だ。
「朝に道を聞かば夕べに死すとも可なりかぁ……」
 独りごちると、陽気な友達に「なにそれぇ」と聞かれてしまった。
「孔子だよ」
 疲れた顔をして答えると、「ああ、三国志の!」とキャッキャしている。
 言い返す元気もない。
 周りの子らは、それなりに現実的に考えるか、まだ夢見がちなのか、それとも「高校行ったら変わるでしょ」と先延ばしにする子と分かれていた。
「でもトシはいいよね。周りに相談できる人がいてさ」
 相談ぐらいなら別に他の子でも、いくらでもしてるだろう。そう言いかけたところで、私の周りの事を考えると、そういう風に見られているかと口を噤んだ。

 私の家は、世間的にはちょっとヤバイ家系ではあるが、実は資産絡みは楓ちゃんと学校のものだから、経済的にはちょっとした小金持ち程度である。
 私はどう足掻いても凡人だ。確かに"努力さえすれば"どんな仕事にでも就けるだろう。でも、それは"経済的に断念した"という言い訳が利かない事の裏返しである。
 「資産家ですよ、何もしなくても生活出来ますよ」と言うのは、誰しも憧れるだろうけど、それ故に妬まれる。
 人の妬みの力の怖さに関しては、親や祖母に口を酸っぱくして言われた。

 以前、どういう仕事をしたいかという話をしたとき、「普通の会社員でいいよ」と言ってしまい、ちょっと嫌な顔をされた事がある。
 「コネ入社で新政地所には入れるだろう。一定のポストも用意されるだろうさ」と言う事なのだろう。
 そう考えると、もう、この家のことを隠して生活したいと言う気もしなくもない。
 とは言え、それはそれとして楓ちゃんや親戚を冒涜することにもなる。
 そう言う話をしても、金持ちの贅沢な悩みとして言われるのだろう。

 どんだけ勉強を頑張ったところで、コネ入学って言われるんだよなぁ。悔しいなぁ。

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