0276 つばきとちさと

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0276

「ちさとさん、どうかしました?」
 案の定つばきちゃんに突っ込まれた。
 どうしよう? なんて答えようか?
 どう答えるべきだろうか?
「この前、昔は何も出来ない人だったって言ってたでしょ? それが引っかかっててね」
 そう言うと、彼女は顔を真っ赤にした。
「ごめんね、なんか詮索するようなこと言っちゃって」
「私こそ、ご心配掛けて申し訳ないです」
 その言葉に引っかかりつつ、何を言うことも出来ずにいた。
 沈黙の数秒後、ふと思いついたように――自分の事なのに、その心理的プロセスが分からなかったけど――不意に言葉を発する。
「つばきちゃん、私のこと"さん付け"で呼ぶのやめない? 私もつばきちゃんのこと"ちゃん付け"で呼んでいるのに悪いよ」
 そう言うと、慌てた顔をして「滅相もない!」と答えるのだ。
「つばきちゃん、私達と天使との間で隔たりを感じてない?」
 私の問いかけに、彼女は固まってしまう。
 もう一度言葉を掛けるタイミングはあったが、それは彼女の負担になろう。
「そ……その……私、今でも十分恵まれていると思っているので……何というか、皆さんがいてくれるから、自分があると言うか……」
 言葉に詰まりながら、それでも紡いでいく。
「それに……他の人も同じようには見てくれないでしょう?
 それなのに自分が同じように振る舞うのは、滑稽というか悪く見られてしまいます」
 彼女の目には、世間の視線を恐れる色が見えた。
 自分がそういうものを気にしなくなったのはいつからだろうか? そして、何故だろうか?
 何故? 答えは知っている。自分が転生者だからだ。
 そう、転生者と着衣者は違う。
 天使という仮面を被された彼女と、悪魔と言う仮面を嬉々として被る私達とでは立場が違う。

「ごめんね。本当に」
 私は掛ける言葉がなくなってしまった。
「私、ちさとさんの事が大好きだけど、やっぱり立場が違うから……」
 人は平等ではない。しかも、自分はかなり恵まれた国のなかで、最も恵まれた水準の立場にある。
「じゃぁ、二人の時だけでもちゃんづけで呼ばない? 二人の時は普通に友達として付き合わない?」
「そこまで言うなら……」


「そこから懐くようになったんだ」
 雪ちゃんが窘めるような顔をする。
「頭を撫でて欲しいって……」
 二人の時だけつばきちゃんと私の"接触"は多くなった。
「でも、転生者同士のことを知ったらどういう顔するだろう?」
 薄い笑いを忍ばせていた。
 私は――他の転生者も殆ど――転生者同士のことは別だと思っていた。それも極めてナチュラルにだ。
 だが、それこそが転生者と他との"壁"なのかもしれない。
「べ、別に求められてないから!}
 私が言い訳すると、「それでいいの?」と彼女は頬杖をつき、そして片手を伸ばしてくる。
 私は指を絡めながら答えることが出来ない。

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