0269 ちさと配信行動党出張編

ページ名:0269 ちさと配信行動党出張編

0269

 今日は、姫ちゃんと羊子ちゃんと一緒にネットでライブ配信を行う回だ。久し振りの生身配信で、しかも行動党の党本部に出張である。

「鐵池先生、鏡島先生と呼んだ方がいい?」
 開始早々尋ねると、「いいよ普段通りで」と言うので、下の名前呼びで話を始める。

「先ず最初のお便りですが――行動党はリベラルなのは分かりますが、自衛隊の防衛軍化に対する勉強会や、固めの外交政策などを見ると、それも違って見えます。
 悪い印象はありませんが、ちぐはぐしているように見えます」
「うーん。敢えて分類するならリベラル右派だからじゃないかな?
 日本でリベラルと呼ばれる人って、マルクス主義と不可分って考え方が根強いからね。
 それにそれを担っている政党って、制度的に硬直していて保守的とさえいえるじゃない。
 日本のリベラルの悲劇って、多分、そういう本来的じゃないところに凝り固まってるからじゃないかな?
 私達はそれを変えられたらなって思ってる」
「日本って、思ったよりもリベラルな国なんだよ。だから、それよりもリベラルってなると、過激なことを言わないと目立てない。だから、今すぐ実現可能な事よりも、現実と摺り合わせの出来てない理想ばかり語るんじゃないかな。
 重要なのは、いま出来る事を確実にこなしていくことだと思いますよ」

「では、次のお便り――国民の権利を叫ぶ人が多いですが、義務をちゃんと果たしていない人ほど声が大きいように思えます。こういうフリーライドに対してはどういう意見をお持ちでしょうか?」
「うーん、自然権は義務の達成とは関係なく存在していますよ? 権利は義務とバーターって考えは、義務を好きなだけ重たくする事ができるから危険な考え方です。
 最終的に管理社会にでも出来ちゃいますよ?」
「国民が国に奉仕するかどうかを語るのであれば、国が今まで国民に何をしてきたかを問うべきじゃない?
 自然権は自ずと与えられる権利であり、義務は国が課すもの。国が国民の自然権を守れないと言うのに、何故国民に義務を課せると言うのだろう?
 フリーライダー対策はするけれど、その為に国民に負担を増やすようなことは考えていないですね。実際、そういうやり方は効率が悪いですし。
 フリーライダーを一人減らすのに、本来救われる二人が救われないなら、フリーライダー一人を無視する方が多くの人を救えますからね」

「似たような話で、次のお便りは――税金の支払いに不平等があるように思えます。納税額に対して行政サービスに差をつける案はいかがでしょうか?」
「それこそディストピアですね。上級国民って言葉が取り沙汰されて久しいですけど、そういう立場を望むと、今度はその立場にしがみつきたくなる。
 そう言う人が国の仕組みを決めてしまうと、一言で言えば身分を固定化させるための施策を望むようになる。
 貧乏人は一生貧乏人の、貧乏人の子供も一生貧乏人の人生を歩まなきゃいけなくなる。
 それを努力だっていう人はいるけれど、当世に於いても良い大学の進学者の親の収入は、明らかに日本の平均の水準を超えている。これは親の収入によって差が出ている事を意味している。
 平等は同じチャンスを与えるだけだけど、公正とは同じチャンスに手を届かせる必要がある。運に左右されずにね。
 そして、実際、公正な社会の方が不平等の大きい社会よりも、より豊かに発展する事が分かっています。
 私達が作りたいのは、金持ちの国ではなくて豊かな国なんですよ」
「社会福祉に力を入れる理由って、食べるに困った人が、死なば諸共と暴れ回るのを阻止する為にあるんだよね。
 負け組の事なんて知らない、野垂れ死ねって言うと一周回ってそこに戻ってくるわけで、歴史は繰り返す。
 お金があると言う事で威張り散らしていたら、何かスキが出来た時に、一斉にたたみ掛けられる。
 もし革命が起きたときに吊されたくないでしょ?」

「それに繋がるようなお便りも届いてます――教育と努力に関して難しい関係だと思いますがいかがお考えでしょうか?」
「世の中、運に左右される事が多いので、努力しても成果が出ない人がいる。そういう人の努力をエンパワーできるような社会になると、もっとみんな努力するようになるかな。
 成果が出ない努力は努力じゃないと言うと、努力を諦めちゃう人が出てきますからね。
 テレビを見ていても分かるでしょ? 身体障害者が人並みの仕事したら、みんなむっちゃ褒めるけど、鬱とか発達障害の人間が人並みの仕事をしても"当然でしょ"って言われる。そういう苦労を、努力が足りないとか方向性が違うといって笑うのは危険だと思いますよ」
「カードが配られた以上、そのカードをどうにかやりくりするしかない。
 ポーカーのテーブルで配られたカードが悪ければ、それを持って大富豪に行けばいいじゃないですか。
 日本の教育制度の問題点は、平等と言ってポーカーのテーブル以外のテーブルを全部破壊するところから始まる。
 それに執心した結果、ポーカーのテクニックすら教えられぬままじゃないですか?
 努力を無駄にしないためには、色んなゲームを用意して、一番力の出せるゲームで活躍させる事じゃないかな?
 社会をゼロサムゲームと見てしまうと、差し引きゼロの経済になっちゃう。でも、必要なのは足したらプラスになる経済でしょ?」
「私からも言うと、努力って言葉を中心にしちゃうと、努力を評価する人間の権力を最大化させちゃうんだよね。
 努力を認める為に、その人の都合が一番って事になっちゃう。
 そうなると自分を捨てさせることばかりが努力になってしまう。
 実際、ブラック企業や詐欺師はそうやって人を縛り上げるでしょ? 努力は大切だけど、何か決められた価値があってそれを目指すのが努力と言うのは危険じゃないかな。
 拝金主義にもなっちゃうしね」

「次のお便りは――個人主義的な時代になって、多くの分野で問題も細分化してきておりますが、これからの時代どういう舵取りをしていきますか?」
「うーん。難しい問題だけど、社会の問題を個人の運用で解決しろと言うやりかたは、確かに時代に合わなくなってきている。セクハラがあっても、私さえ我慢すればいいとか、そんな時代じゃないからね。問題の社会化は政治家の仕事の一つだと思う。
 でも、個人の問題を社会に解決しろと言うのは間違いでしょ? 明確な個人攻撃でもないのに、個人的に不快な表現と言うだけで、表現を規制していいのかと言うと、それは違う。多分、そこを勘違いしている活動家って多いかなと思います。
 他にも一本電話を掛けるだけで回避できる問題を、電話を掛けるのが嫌だというだけで騒ぎ立てるのも問題でしょ?
 問題解決が政治家の仕事だけど、問題を無限大に広げていくと、全員がその負担を強いられる。
 個人個人がちょっとずつの問題を出し合って、そのちょっとずつを譲歩するのが政治だと思うけど、そのちょっとずつを好きなだけ出していいってなると、積もり積もって膨大な譲歩をしなくちゃならなくなるし、なんの自由もなくなっちゃう。
 どの分野は社会に負担を掛けて、コストを掛けてと言う事をして、どの分野は個人的に解決して貰うか、特別に扱って貰うかと言うのを判断するのが政治だと思うし、その為に投票して貰ったと思うんですよ。
 勿論、信任に胡座を掻いてはいけないので、きちんとやりますけどね」
「姫ちゃんからはどうですか?」
「言いたい事言われちゃったからなぁ。
 複雑系の議論みたいだけど、規制を増やせば秩序に近付くけど発達への熱量が下がり、規制を減らせばカオスに近付くけど不正も増える。政治とはその調整に他ならないんじゃないかな?
 どの辺に調整すべきか、虚心坦懐に決めていかなくちゃいけない。
 何かを確信する人は、常に賢くない側の方だっていうけど、やっぱりみんな断言する人を信じやすいじゃないですか。
 政治って、正しさの前には断言を控えるべきなんだけど、何か決めるには責任を持った上で断言しなくちゃいけない場面がある。
 そういう部分をちゃんと考えられているかどうかが、政治家の資質なのかなって思う。
 その為に、私達は勉強と情報収集の時間を凄く取っているし、色んな人に質問する。
 決断したら、その根拠をちゃんと提示しなくちゃいけない。
 思っていたところと違う所からの影響には、拘泥せずに素直に対応する。
 政治に必要な事ってそういう事だと思います」

「では次のご質問です。
 かなり強気な外交政策が目立ちます。その中で、自衛隊の再軍備化などのアイデアは過激すぎて、外交的な反発はありませんか?」
「よく、話し合いで解決しましょうと言う人と出会います。でも、人間と言うのは悲しいことに、力のある相手と、何の責任もない相手では、耳を貸すと言う事が違ってくるんですよね。
 これは何処の世界に行っても同じですよ。
 誠意や情熱があっても、実行可能性がないなら誰も耳を貸しません、どんなに高い理想を掲げていても、いえ、高い理想を掲げるならば、強い実行可能性が必要です。
 ことに国際社会に警察力はありません。アメリカもその立場を降りているこの時代に、国際社会の目があると言うのは全く意味がありません。
 実際に、ルワンダで、ウィグルで、クリミアで何が起きたのかと。
 国際社会があらゆる事に、正義を第一として取り組んでいると信じているとしたら、それはかなりナイーブな考えです。
 そして、日本が自衛隊を用いて外交的に何かを行う時、いつもその法的根拠について紛糾します。
 我々は防衛力の暴走の可能性よりも、防衛力を国際的に使える自由を国に与える為の提言を行っております。
 これは経済や文化で国際競争力を得ようと言う動きと両輪の働きをします。
 我々の動きに関しては、周辺国や主要各国との協調の上、前進させているところです。そこで発生する反発を吸収することこそが、話し合いの価値なのではないでしょうか?」
「姫の言う事で大体出揃っているから、あんまり言う事がないけど……
 ある国の国民が好きと言う事と、ある国の政府が好きと言う事は違うし、ある国の政府が嫌いだからと言って、その国の国民を嫌わなければならない事にはならない。
 自国の政府が嫌いだと言う事と、他国の政府が好きだという事も違う。
 日本に限らず、こういう違いを分けられない人が多い。
 もっと言えば、自国の政府が最悪でも、他国が嫌いだから自国の政府を愛せよと言うのも違うし、自国の政府が好きだと言うだけの理由で、他国に敵対しなくちゃならない理由にもならないでしょ?
 防衛力というのは、自国を守る力を自分のために手に入れる事であって、それを他国と敵対する力とするのは、国民の意思に左右されます。
 私は、日本人が自由と平和を愛すると信じていますし、戦後から今に掛けてその素地は十分に醸成されたと考えております。
 日本の力を国際的に使う時が来たのではないでしょうか?」

「次のお便りはこちら。
 我が国は幸福度指数や報道の自由度が低いですが、いかがお考えでしょうか」
「これは色々な見方が出来るけど、先ず指数がどういう数値なのかというのを評価しないと、数字が出たから有り難がると言う事になる。
 数字は扱いを正しくしなければ、平然と嘘を吐くのです。
 幸福度指数はよく出来ていると思いますが、幸福度指数の高い国が国内の問題を抱えていないという事を意味しません。それらの問題が、幸福度指数に盛り込まれていないと言うだけです。
 報道の自由度に関しても、報道関係者を逮捕する国や、ジャーナリストが殺害される国が日本より上位に来ているのを見ると、正確な評価が成されているとは思えないですね。
 数字を比較する事は、誰にでも出来る事ですが、数字の中身を評価しなければ、比較する事の意味はなくなります。
 特に、こういう数値は欧米の団体が出していて、誤解を招く言い方をすれば、出羽守の誹りを受けるでしょう。
 欧米が上手く国を統治できていることを否定はしませんが、失敗しているところは失敗しています。
 欧米がやっているというだけで評価するのは間違いで、その先を考えないと、同じ失敗を繰り返すことになります。
 また、このような数値を有り難がる人にとっての世界とは、どの範囲になるでしょうか?
 アメリカとカナダ、あと西ヨーロッパや北欧の国々でしょうか?
 世界は広く、国によって様々な事情もあり、そしてそれぞれに敬愛する内容があります。
 どこが正しいではなく、正しい選択を一つずつ精査する必要があるのです」
「私、喋ってもいいですか?」
 二人に許可を得て話し出す。
「思うのですけど、幸福も相対的である事が多いので、そこに絶対的な価値を求めてしまうのは、心の奥底で幸福を感じていないからなんじゃないですか?
 口で幸福だと言う事も出来るし、それらしい理由を並べ立てる事は幾らでも出来るけど、自分自身が幸福と思っているかどうかは別なんですよね。
 傍から見て幸せそうな人が、突然自殺したとか、そういうお話しもあるでしょ?
 だから、幸福ってそんな簡単に推し量れないと思うんですよ。
 勿論、人を屈服させる事が幸福って人の幸福を実現するのは問題がありますけど、人が幸福を拡大させるほど、人の幸福と衝突する可能性はある。
 そこを画一的にこれが幸福だというのは危険な思想だなと。
 気付かない幸福とか、気付かない不幸とかもあって、それをどう評価するかというのもあります。その時に、国が何処まで知るべきかを制御していいと言う事にはならないでしょ?
 指数を出すのはある程度の意味がありますが、そこに現れない不幸を隠す事にも繋がるのかなと」
「それはね、最大多数の最大幸福と言う話になっちゃうんじゃないかな?
 この言葉、社会福祉政策で何を採用するのかって話だけれど、自分の生き方にも繋がると思っている。例えば、議論をするとき人を罵倒しないとか、羨ましいと思った感情を正しく処理するとか、他人を軽く見積もらないとか、簡単に腹を立てないとか。自分の感情を全部相手にぶつけて、自分の幸福の為に相手に譲歩を迫るよりも、鷹揚に構えて自分から譲歩する分を決める方が、自分の精神安定に繋がる。
 何が幸福か、何処まで主張していいかって言うのは、国が先行して決める事はできないけど、何処かで線を引かなきゃいけない事で、それをするのが法なんじゃないかなと。
 だから裁判所があって、政治があるんだよ」

 勿論、政治の話ばかりではなかった。
 "どんな男の人がタイプか?"と言う質問には、ガールズトーク全開だった。
 羊子ちゃんは、信頼できる人と言っていたが、彼女は独裁者で暗殺された過去があるから、そのハードルは高そうだ。
 私が、その前提を口にせずに「理想は高そう」と言うと、「政治家は理想家じゃなきゃ」と笑う。それでも食い下がると、「確かに求めるところは大きいかも。でも、顔とかお金とかじゃないかな」と言うのだ。
 姫ちゃんは「何でも受け入れてくれる人」と言うのだが、彼女の過去から考えると、人身御供まで受け入れる度量が必要だろう。そんなことを濁しつつ言うと、「私も理想家だから」と笑う。
 「二人とも、顔とかお金とかじゃないって言うけど、何だかんだでイケメン好きそう」と笑ってやると、「そんなことを言うならちさとはどうなの?」と振られる。
「私は男の人の事とかどうでもいいかな? あんまり考えられない」
 私の答えに羊子ちゃんは「えー、そういうのが一番イケメン好きになるんだよ」と突っ込まれる。
「そんなことないですよ!」
「今分からないと言うことは、将来そうなる可能性はフィフティフィフティでしょ?」
「うわぁ、これが政治家かぁ」
「そうだよ、そうだよぉ」
 コメント欄が騒がしくなってきたなぁ。

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