0259 木宿ネミがちさとの店に来た

ページ名:0259 木宿ネミがちさとの店に来た

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 稜邦南中学校は絶賛夏休みなのだけど、とは言え、学校自体は動いているし、週一の定例会見もやっている。
 校内で働いている人、はたまた外のマスコミやギャラリーを嫌って校内で遊ぶ生徒は不死者、普通の子に限らずいる。そんなわけで、夏休みとは思えぬ賑わいがある。
 当然、お店の方もやるわけで、私達の休みはお盆休みぐらいになりそうなのだ。
 天気がいい日は、屋外も開放して似非ビアガーデンなどもやるから尚更忙しい。

 そんな時に、嬉しいと言えるのか、言えないのか、手伝いが増えた。
 木宿ネミと言う、五年の編入生だ。
 この子も熱烈な私のファンで……と言うよりも例のソリティア同好会の発起人だ。
 明るく器量の良い子なので、同好会の一部は彼女のファンなのではないかと言う疑いもある。
 いずれにしても、未成年を働かせるのは不味いと断っていたが、「楓さんから許可を得ました!」と言われて「それじゃぁ」と言う事になった。
 個人的にはお店は小さくほどほどでいいと思っていたが、そうも言っていられなくなったのだ。

 同好会側から見れば裏切り行為みたいなものだが、先に述べたように会員の多くは、彼女に頭が上がらないと考えられた。
 とは言え、これはなし崩し的に編入生も入店してもいいと言う事になった。
 中高生が飲み屋に入店するのはどうかと思うが、あくまで保養施設扱いなのでOKと言う理屈になった。
 ネミちゃんは策謀家なのか、楓ちゃんも「高校生になったら良いじゃろう」と不承不承に認める事となった。

「そういう訳で、普通の生徒も来るようになったからメニューをちょっと考えなくちゃね」
 そう言うと、唯ちゃんが「やっぱり育ち盛りだからお腹一杯になるものが欲しいね。角煮の汁は捨てるばっかりだし、まかないの炒飯出してもいいんじゃない? 角煮丼とかも作れるし」と言う。
「ご飯一杯炊かなくちゃならないね。綾夏ちゃんに大きい炊飯器手配するよ」
 ネミちゃんは「ソフトドリンクも増やさないと。コーラって、コカコーラとペプシで分かれるから二種類とも出したらどうかな?」と恐る恐る提案する。
 雪ちゃんが「それならクラフトコーラとかローカルサイダーとかあるといいかもね」と話を広げると、少し微笑んでいるようだった。
「中田さんにお願いしてみよう」

 実際お店が始まると、気後れしつつネミちゃんにお酒のことを教える。
「先ず何か入れる前に、グラスを冷やします」
 グラスに氷を上まで入れて、バースプーンでくるくると回す。
「そして、溶けた水を捨てて……ウィスキーを注ぎます。
 メジャーで1オンス計って入れます。濃いのは二杯入れてね」
 氷がカラリと鳴る。
「ここで希釈熱が出て氷が溶けるから、氷を足して……炭酸水を注ぐのね。
 急いで入れると泡が立って炭酸が飛んじゃうし、時間も掛かっちゃうから、ゆっくり入れてね。
 それでかき混ぜるのは軽く上下にするの。
 ハイボールの場合は、密度の差で自然と上に上がってくるぐらいだからね」
 と、完成したハイボールに「いただきまーす」と口をつける。
 ネミちゃんは少し不思議そうな顔をして「美味しそうに呑みますね」と笑う。
「お酒美味しいよ。
 このお店は、酔うためにお酒呑ませるんじゃなくて、美味しいお酒を呑ませるのが目的だよ」
 私が説明すると、「哲学ですね」と笑われてしまった。

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