0258 俊子の盆休み

ページ名:0258 俊子の盆休み

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 私は、中学に上がった辺りからお盆や正月と言うのが嫌いになっていた。
 我が家は本家なので……それ以上に、楓ちゃんのこともあって、兎に角、節目節目に人が集まる。
 楓ちゃんもそれを嫌ってか、あまり家に顔を出さない年が続いていた。
 来てしまうものは歓迎せざるを得ない。我が家は家が広い癖にお手伝いさんの類がいないから――これも楓ちゃんのことを気にしてなんだけど――来る者来る者、若者が料理やら何やらの世話をして、大人は大人の仕事をすると言う分業制になっている。
 私達のような、中途半端に子供の身分となると、何やら話題に上がる時だけ呼び出される。それもそこそこウザイ話なのだけど、これが高校、大学になると少しずつ、大人の"仕事"をさせられるのだろう。
 何処何処のおじさんは県会議員で、何処何処のおじさんは国会議員、はたまた何処何処のおじさんは警察署長、あのおばさんは校長先生。はー! こんなのを一々把握しなくちゃいけない。
 それでなんだかんだとおべっかを使うのである。

「俊子ちゃん、このビールを奥の部屋に持っていって!」
 従姉妹のお姉ちゃんに指示されて大瓶を二本抱えて座敷に向かう。
 そうすると決まって、「おお、俊子ちゃん! 大きくなった? 来年高校か。受験頑張れよ」と言うような事を言われて、「ありがとうございます」と頭を下げる儀式が執り行われる。
 これもちょっとウザイ。

 今年に限ってと言うか、今年からと言うか、楓ちゃんも顔を出すので、人の出入りは尚更激しくなる。
 声はしたので、いるのには違いないが姿が見えない。
 少し探すと、取次の間でお客さんの対応をしていた。
「玄関なんかにいて……」
 私が言うと、「ここなら不審者の進入も防げるじゃろ」と笑った。
 そう思ったら、スーツを着た男が酒瓶を持ってやってきた。
「お主は誰じゃ?」
「堀口です。あのー、忘れたかなぁ君らが小さい頃に……」
 驚いた。あんなにも白々しい嘘を、何の迷いもなく言える人間がいるのかと。
「口から出任せを言うでない。この家から堀口姓に嫁いだ者はおらぬぞ。それに、儂の若い頃とはいつの話をしておるのじゃ!」
 ジリジリとした空気の中、男の中では必死に嘘の上塗りをしようと頭がフル回転しているようだった。
 そして、「ああ、家を間違えました」と去っていった。
「間違いようがあるような家じゃないでしょう」
 去りゆく背中に嫌みを言ってやった。

 台所に戻るところで、小さな子供に絡まれたので、「玄関に行って、楓ちゃんと遊んでらっしゃい」とけしかけた。
 奥から、「尻尾を引っ張るな!」とか「耳に触るでない!」とか叫び声が聞こえる。

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