0257
「そろそろ雨が来そうだし、校舎に戻りましょう?」
夕焼けを背景に、聳える金床雲がじりじりと雷雨を連れてきている。
光と闇の狭間に彼女が立っている。
僕には気になる人がいる。
御堂ちさとさんだ。
この学校には不死者がいる。彼女もその一人だ。
不死者は皆、独特な雰囲気を持っている。確かに、同じ姿で何十年も死なないでいるのだから、そうもなるだろう。
彼女はその中で格別に話しやすい。
転生者の中でも特別な一人だ。
校内で見掛けては話しかける。そんなお付き合いをしていたら、ある生徒に突然話しかけられた。
「御堂さん、いいよね」
「は、はぁ」
話を聞くと、御堂さんに対する同盟を結んでいるグループがあるらしい。
「彼女は立場上、間違いを犯しちゃいけない。だから、我々で守らなければならないのだ」
やや不純な動機を感じながら、その不純な人間が相互監視すれば安心だという思想らしい。
確かに誰か抜け駆けして、或いは襲ったりして何かあったら大変である。
この学校に来て日が浅く、友達も少ないという状況だったので、「登録ぐらいなら」と了解してしまった。
"ソリティア同好会"
カバーの名前にしてももう少し考えられなかったのか。
しかし、組織率が存外高い。
非不死者の生徒だけなのにもう五十人を超えている。そして、まだ生徒は増えて行く予定だ。彼女と接触する生徒も増えるだろう。
思ったより大変な組織に入ってしまったぞ。
「ちさとよ、普通の生徒達がなにぞストーカーめいた事をしているぞ。よいのか?」
楓さんからソリティア同好会の話を聞かされる。
「あぁ、知ってますよ。いいんじゃないですか? 相互監視」
そう言うと、「儂らも似たようなもんじゃしな」と笑った。
「そうなんですか?」
楓さんは怖い顔半分、笑い顔半分で説明した。
「そうじゃろ。お主だって勇結やつかさ、雪のことを見てやっておるじゃろ。お互いを気遣うことはお互いを監視する事に通じる。
国民を思う心はパターナリズムと地続きじゃ」
私も、こういう調子に慣れてきている。
「質的に違うと思いますけどね」
「最初はみんな人間的なんじゃよ。手段は容易に目的になる」
それは行動党の事も含めての話だろう。
「じゃぁ、楓さんも私を監視してるんですか?」
「そうじゃよ。お主がいつ暴れるかわからんしの」
最初の頃に聞かされた話を思い出す。
「なんですか、それ?」
分かった上で尋ねてみる。
「誰だって爆発したくなるときぐらいあるじゃろ」
「まぁ、分からない事はないですが」
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