0254
呼び出しが多くて、家にいたら寛げないだろうと思って、楓さんの家に顔を出していた時だ。
「最近、飲み会とかめっきりですねぇ」
私のぼやきに楓さんは「そりゃぁ、どいつもこいつも忙しいからのぉ」と笑った。
「大体、お主の店に行けば、飲み会しているようなものじゃろ。それでバランスが取れているのじゃろう?」
「そうですけど……」
中学生の身体になって暫くは、お酒を飲むことに後ろめたさがあったけれど、このごろは飲み会がないことを寂しく思う程度には酒飲みになってしまった。
「でも、こんなに連日お酒飲んでいるのに、肝臓とか悪くなってないんですかね?」
私のふとした疑問に楓さんが答える。
「まぁ、儂らは自動回復するからの。頭吹き飛ばされてもなんとかなる」
「なにそれ、グロい……」
「まぁ、儂らがやられる事は万に一つもないじゃろうがな」
楓さんは得意気な顔をしている。
転生者の恒常性は呪いみたいなものだ。髪の毛をバッサリ切っても一晩で伸びてくるし、逆に伸ばそうとしても全く伸びない。病気と言える病気にもならない。妊娠できる事が奇蹟と思える程だ。
聞く話では、着衣者もある程度はこの再生能力があるらしい。尤も、器官が失われると再生しないそうだ。
勿論、転生者もまるごと灰になるような事があれば死ねるのだが、死ぬと二十四時間以内に校庭に復活する。だた、死後のあの苦しみは味わう必要があるそうだが。
「そんなこと、どうやって知ったんですか?」
私の好奇心が要らない事を聞いてしまった。
「そんなの、そういう目に遭った奴がおるからに決まっておるではないか」
そこで言葉を失い、そして、それが誰かと言う話はできなかった。
「ななみ辺りは、その仕組みが知りたいようじゃが、採血しても構造が壊れるらしくてのぉ。解明には至らぬ。
まぁ、もし、そんなことが出来たら、誰も死ななくなるから大変なことが起こるじゃろなぁ」
楓さんがニコニコしている。
「上手く行かないモノですね……」
そう言って、ジンのロックを一息に呷る。
こういう飲み方をしても、多少酔ったところ――それも気持ちのいいレベルで止まり、一晩寝れば二日酔いも起こらないと言うのは本当に助かる。
そのお陰で転生者が酒を飲み出すと止まらない。これは流石に、人様には見せられない姿だと言う訳だ。
そうは言っても、自分の配信で散々酒を飲んでいるのだけど。
「ま、深く考えるではない。今大切なのは、美味い酒が沢山飲める。ただ、それが幸せと言うだけじゃな。それだけでよかろう」
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