0252
私の人生は逃避ばかりだった。
学校が嫌でアイドルになり、アイドルが嫌で失踪した。
風俗や水商売を点々として、そして年齢的に限界を感じたとき、私の元に一着の制服が届いた。
あれは本当に届いたのだろうか? 記憶があやふやだ。
気が付いたときには、私は13歳の少女になっていた。
色々な記憶が渾然一体になる。
妄想なのか、本当にそういう経験をしたのかあやふやな、前世の記憶やら、この身体の持っていそうな記憶やらが、おぼろげながら頭に入っている。
ただ、自分が自分である意識は一番根底にしがみついている。だが、それは口に出せないだろう。全て失敗した人間だから。この身体で再起できるのだから。
私がこの着衣者と呼ばれる立場になったのは、まだもう一つの不死者が世の中にそれを公表する前だった。
私は彼女たちの学校に近付き、捉えられ、収容所に入れられた。
面接というか尋問を受け、部屋を宛がわれ、施設内は割と自由に過ごす事が出来た。
私は大井チカと名乗った。
施設の他の着衣者は、良い子もいれば性格の悪い子もいる。いじめはあったし、病んでいる子も多かった。
メンタルヘルス的なものはあったが、病んでいる事をアイデンティティとしているような子もいたから、職員は大変だっただろう。
私自身は、施設の中で上手くやれた方だと思う。つばきと言う友達もできた。
限定的な自由はあったし、お小遣いも多少はあった。
その事態が崩れたのは、もう一つの不死者が始めた自分たちの存在の公表してからである。
そのお陰で、この施設の管理も別へと移っていく事になる。
今までは税金で運営されてなかったらしい。そして、それからは税金で運営されるので、少しでもお国のために役立てと言う事になった訳だ。
その結果として、娼婦として、或いは老人や障害者のお世話としてこき使われるようになった。
重労働か身体を売るかの二択という、中学生の身体にやらせるには究極の選択を強いたのだ。
当然、今まででも病み気味だった子達がどんどん病んでいく。
一部、それを楽しんでいる子達がいたし、上手く取り入って貰われていった子もいた。だが、基本的には喜びなどなかった。
時を同じくして、もう一つの不死者の方は、次々に顔を出していた。
そこで懐かしい顔を見る。磨美と桃だ。
今は真生とルイと名乗っている――確か、当時もその名前を聞いた気がする。
懐かしさと同時に、嫉妬心も湧いてくる。何故彼女たちは上手くやれているのだろうか?
様々な感情が心の中で出てきては消える。つらい。逃げ出してしまいたい! でも、ここでない他などあるだろうか?
当時とは顔が違う。私が名乗り出て何があると言うのだろう。
死んでしまいたいと思ったその日、ある着衣者が首を吊った。
私は、何故かほっとした気持ちになった。そうか、その手はあるのだろう。
他の子もそんなことを考えていたかも知れない。
妙に安堵した空気が流れていたのは確かだ。
だが、一人、そういう気分ではない子がいた。
つばきだ。
彼女は憤怒し、みんなに「私が直談判するから早まったマネはしないで」と触れ回り、そして、一人施設を脱走した。
その結果は、皆が知るとおりである。
だが、私は結局、何も変わらずじまいで、新しい環境を受け入れるしかない。
そう、何も変われないのだ。
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