0250 鐘園先生の小屋に行く

ページ名:0250 鐘園先生の小屋に行く

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 校内で酒を飲もうと思うなら、私の店か鐘園先生の小屋かと言われるようになったのは、先生にとって幸運だろうか不幸だろうか?
 一応、休肝日は設けているようだけど。

 今日は水曜日。先生のところの常連である康奈ちゃんに連れられて小屋に向かう。ついでに夕星ちゃんも引っ張り込まれた。
 購買で大きいソーセージや焼肉用の肉、例の挽肉とチーズを買ったりとした。
「あれ、本当に好評なんだよ」
 アレとか例のとかで申し訳ないけど、正式名称のない料理だ。ヤバイ肉とか呼ばれているけど。
 以前私に「ホットサンドメーカーで何か作れるモノ」と聞かれて、「挽肉とピザ用のチーズ、塩、胡椒を混ぜてタバスコで食べてみたら?」言ったら、それが想像以上にビールに合ったらしい。
「まぁ、見た目は最悪だけどね」
 写真を見たけど、単なる茶色い塊なので、食欲をそそるような物には見えない。

 自分で言い出した料理のくせに、まだ一度も作っていなかった。
 と、言う事で早速クッキング!
 の前に火を起こす。
 こんな時にも文明の利器が役に立つ。何やら色々と便利道具を出してきて、あっという間にいい感じの火が起こる。
 そうしている間に、袋に挽肉とチーズ、塩胡椒を放り込んで外からぐちゃぐちゃと混ぜる。それをホットサンドメーカーに載せて挟んで両面しっかり焼けば出来上がりだ。

 匂いなのか私の動向なのか、何かを嗅ぎ取った明澄ちゃんと霞ちゃんの二人がやってきた。
「君たち、美味そうなもの食べてるじゃない」
「お酒持って来た?」
 夕星ちゃんが尋ねると、ウィスキーと氷を持って来ていた。
「許す」
 康奈ちゃんが喜ぶ。
「余ったら先生とこに置いておくね」
「おお、ありがとうな」
 そのやり取りの後、霞ちゃんが先生の小屋に入って、グラスを物色している。
「余るなんてあり得るの?」
 明澄ちゃんが核心を突いてしまう。

「ま、それはそれとして焼いていこう!」
 肉と酒を前に全員テンションが上がっている。
 ビールを乾杯して焼けた肉を突く。
「外で食べると美味しいよねぇ」
 私も嬉しくなってくる。

 日は徐々に暮れていく。
 茜色の雲がたなびいている。
 見慣れた風景に思えるのに、虫の音や鳥の声が支配していて、小屋の背景は一面の森である。

「先生、いいところに小屋を建てましたね」
「そうだろう? 朝靄の中で飲むコーヒーとか最高だよ」
 年老いた教師が、湿り気を帯びた森を前に朝食の準備をしているのは絵になる。

 はしゃぎながらも移り変わる風景を楽しむ。
 空は青みを増して明るい紫から深い紫、そして紺碧とグラデーションを広げていく。
 炭が弾ける音が哀愁を響かせる。
「あー、キャンプいいなぁ」
 私が呟くと、康奈ちゃんが「そんなに良いものじゃないよ」と笑う。それを聞いた夕星ちゃんは「康奈のは、キャンプじゃなくて野営じゃん」とツッコミを入れた。
「蛇とか食べるんでしょ?」
 霞ちゃんも調子に乗って聞いてくる。
「流石にレーションがあるよ」
「レーションって美味しいの?」
 私が尋ねる。
「国それぞれだね……」
 康奈ちゃんがいい顔をしないので、「試食会をしよう!」と言う気が起こらない。
「レーションなら備蓄の期限迫ってる奴貰えるよ? 自衛隊のだけど」
「そんなにあっさり手に入るんだ」
 私が驚いていると、「ネットでも買えるぐらいだからね」と微笑む。
「まぁ、保存食としては優秀だよ」
「保存食を食べなくて済むのは、康奈たちのお陰だよ」
 明澄ちゃんが美味く締めてくれた。

 先生が焚き火台に焚き火を作ってくれた。
「火って落ち着くよね。これぐらいの大きさなら」
「コントロールが大切だよ」
 持って来たウィスキーをロックにしてちびちびと飲む。
 少し離れた所で先生も飲んでいる。

 老人が赤い光に照らされて、陰影を強くしていた。

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