0241 着衣者の運命

ページ名:0241 着衣者の運命

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 我々の目標は、着衣者の売春を止めさせることだ。告発だなんだは必要はない。
 漆谷さんを呼び出して、学校はあれを止めさせる意志があること。そして、それを拒否するなら我々は徹底抗戦の構えである。と伝えた。
 漆谷さんは苦虫を噛み潰したような表情をして「困ったことになるぞ」と頭を掻いた。
「最初から困ったことじゃないですか」
 私が嫌みを言うと、去り際に片手を上げて振っていた。
 任せろと言う意味だと受け取っておこう。

 それからは情報戦だ。
 我々には積み上げてきた証拠がある。名前が挙がると世間がどよめくような人や、国に影響力がある人、またはその子息が行為に及んでいる姿を盗撮盗聴している。犯罪者どもがガタガタ抜かすようなら、そこから手を伸ばしていくしかない。
 それにこちらには証人が一人いる。

 何も知らなければ、証人を取り戻そうと必死になるだろうが、そういう愚かな挑戦はしなかったようだ。
 しかし、法務省は沈黙を保っていた。結論の出ない会議を続けているのだろう。

 そんなわけで、我々は揺さぶりを掛ける。
 証拠の一部を使って人を動かし、彼等に圧力を掛けるのだ。
 これには彼等も腰を抜かす。
 それで、交渉の場に引き出せたのだ。

 売上は没収。そして、稜邦中学校近くに宿舎を建設し、彼女らを移動させる。
 売春に関わらない着衣者に関しても、全部一律で引き上げである。
 これは、安い労働力として身内の介護に使い倒すつもりの人間が多数いたからである。
 どう考えても奴隷なのだ。有償ボランティアとはよく言ったものである。
 彼女らの管理は我々の手に戻し、準備できるまでは、法務省がきちんと面倒を見ると言うことになった。

 面倒を見ると言っても何をさせればいいだろうか?
 そんな時に、我々の厚い人材層が効いてくる。
 工芸品、手芸関係、イラスト、漫画、小説、音楽。
 彼女らは歳を取らないのだから、時間はたっぷりあるだろう。素質がある分野なら何かしら食べていける技術は手に入れられるだろう。
 或いは、自分たちの管理を自分たちでやれるようにしていける。
 長く生きていなければならないのだから。

 でも不安になる。私があそこで彼女を拒否していたら、学校はこんなコストとリスクを抱える必要はなかったはずだ。
 姫川さんは私に「ありがとう。これで、私達は自分の運命を自分で左右できる」と言った。そして、楓さんは「あやつがああ言うのだから、お主は胸を張ればいいじゃろう」と言う。
 そんな楽観的に考えていいのだろうか? 目の前の口辺りのよさの為に、現実的な問題を解決しないどころか、間違った方法で解決していやしないだろうか?
 楓さんは言う。
「心配する必要はない。お主が自信満々になって妄言を吐くようになったら、皆が止めてくれるじゃろう。でなかったら、儂が叱ってやるぞ。儂らは、そうやってお互いを叱ってやるから上手く統治できるのじゃ。
 人間は歳を取る。歳を取ると誰も叱ってくれぬようになるのじゃ。小さくても大きくても権力を持つと、自分を叱る人間を遠ざける。そうやって、高慢になっていくのじゃな。
 人間はいつまで経っても未熟じゃ。その未熟さを気付かせるには仲間が必要なんじゃ。
 だから、お主は、いつまでも今のままでいておれ。
 そうしてくれると儂らも安心していられる。
 お主も儂らを叱ってくれるからのぉ」
 私にそんな重大な事ができるだろうか?

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