0235
瑛梨奈と夏が言い争いをしている。発端は政策絡みの行き違いなのだけど、どちらからともなく前の世界の事を持ち出してキーキー騒いでいるのである。
ここは学校ではなく、行動党の党本部だから、周りのスタッフは息を飲むばかりだ。
「不戦条約の時のあんたのあの不満げな顔を思い出すわ!」
「その条約破棄したのはあんたの方でしょう!」
そこに報告者として登壇していた藍莉が「あらあら、今日も仲がよろしくって!」と笑ったのであった。
「それにしても、よくその調子で二人暮らせますわね」
藍莉は向こうが黙っているのをいい事に追撃していく。
静かになった所で私が話を引き戻す。
「それで、この法案どうするつもり? 総理の方を持ってやった方がいい? 藍莉の情報ではウラは業界団体のささやかな利益ぐらいだって話だけど」
議員や政治関係の転生者から異論は出なかった。
「ふーやれやれ」
私がわざとらしく息を吐くと、姫が二人に注意する。
「仲がいいのもほどほどにしてね」
この喧嘩ばかりしている二人が、上手く二人暮らしを出来ていると言うのは信じられない。だが、誰も見ていないところでは実はベタベタしていると言う話もあるので、然もありなんである。
あまり言いたくない事ではあるが、一緒に暮らしている転生者はそれなりの仲なのである。それなりとは、それなりに突っ込んだ意味のそれなりである。
一方、転生者は一度死んでいる事情から基本的にドライである。
そう言った諸々があって、学校内の交友関係は乱脈になり、そして複雑怪奇となる。
尤も、嫌い合って面倒くさい事になっていないのは、楓の尽力によるのだ。こんなにも個性豊富な連中が集まっていて、今まで一度も学校は分裂していない。お互い死なないので、気まずい関係というのは忌避されるのだ。
瑛梨奈にしても夏にしても、そういう意味を含んでもいい仲なので平和的だ。かつての世界でお互いを征服せんとしていた二人だとしても。否、そうであるから尚更であろうか。
「羊子も疲れているでしょうし、偶には学校に戻ったら?」
姫が気遣ってくれる。
「戻ってなさでいえば牡丹の方が大変でしょう?」
私が牡丹の名前を挙げると、本人が「呼んだ?」と遠くで声を上げる。
姫は、その声の方に、「牡丹には百合がいるからいいよね?」と声を上げると、「よく分かんないけど、そうだよ!」と返答がきた。
百合は政治関係の護衛を主任務にしているので、牡丹とスケジュールが一致しやすい。
「リリは"実家"で楽しくやってるし、佳穂と惠三も上手くやってる。私も陽もこの前学校に戻ったし、休み取ってないの貴方ぐらいよ?」
そこまで詰められるとどうしようもない……
姫はスマホでスケジュールを眺めると、「これとこれは瑛梨奈と夏に振ればいいし、これは私がやる。こっちはリリに行って貰えばいいでしょ?」と勝手に決め始めた。
「少しは休まないと」
私は、姫の好意に甘える事にした。
「楓、ななみただいまー」
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