0226 赤の場合から数年後

ページ名:0226 赤の場合から数年後

0226

 赤の場合から数年後の話である。
 色々な意味で日本と我が国とは真逆の世界になっていた。
 一つ目は表現規制である。
 我が国は凡そ規制らしい規制を撤廃したが、日本は未成年と見られるキャラクターは二次元だろうと規制という事になったのだ。
 日本から我が国へのネットのアクセスを規制する動きまで出ていて、なかなかの地獄が形成されつつあった。
 日本側から様々な批判が来るが、我々は一蹴する。

「現実の児童が際どい水着の写真や映像を撮られて、合法的に流通している方がよっぽど児童虐待じゃないですかね?
 現実の児童売春に対してかなり手ぬるい態度の国に、仮想の児童についてとやかく言われる必要はない。
 そうやって現実から目を逸らすことこそが児童虐待を助長するのではないか?」
 こういった宣言のお陰で、"表現亡命"と呼ばれる漫画家、イラストレーターや映像作家、音楽家、芸術家などの亡命が増えて行く。

 国際的な批難は他にあるのかと言うと、実はない。
 それは我々の開発、実用化した核融合発電の輸出による。
 我が国は、核融合発電を国際政治の具にしたわけだ。これについて批判的であった国も、最終的に我々の軍門に下った。それほどまでに核融合発電は魅力的であるからだ。

 環境問題の多くはエネルギー問題である。エネルギーを取り出すために環境負荷を強いる事になり、或いはなるべく高い効率を要求するために、工業製品は複雑になると言える。
 太陽光発電一つを見れば分かる。林野を切り拓き、沢山のCO2を出して太陽電池を作り、発電施設を設置する。その挙げ句、寿命が来れば廃棄物が山ほど出るのだ。こんなものが環境に良い筈がない。
 電力が無尽蔵にあれば、多少効率が悪くても二次電池に充電することも出来るし、ガススタンドで水素を作る事も出来る。
 核融合発電前にこれを実現しようとすると、石油を燃やして発電した電気を遠くまで運び、そこで一々個別の電池に詰めるという非常に非効率なことをする事になる。勿論、個別の内燃機関を燃やすのとどちらがいいのか? と言う話になるので一概に悪いとは言えないが、効率は良くない。
 水素自動車やFCVにしたって、石油から作った水素を産油国から運んできてそれを各々のスタンドへと運ぶ必要があるのだ。
 輸送コスト、送電コストの無駄を吸収するには、もっと沢山の電気が必要になるのである。
 なので、核融合発電は革新的であり、世界を変える技術であったのだ。

 外交的には大体上手く行っている。幸いなことに我が国に領土問題はないし、今後生まれる可能性もない。
 日本国を継承しないので、国際的しがらみは我々の嘗ての仕事のみとなる。
 そうなると、我々は世界で一番ニュートラルな国だと言える。
 自由惑星連盟のパクリである事は横に置いていて、自由、自主、自律、自尊をモットーにした国作りは順調に進んでいるのだ。

 一方、日本国は外交的失敗を重ねている。
 それもこれも、経済的失敗から来ている。
 そんな事態にもかかわらず、PB黒字化を一直線に目指している。

 我が国は、ソブリンマネー・イニシアチブを段階的に導入している。
 そのお陰で、我が国は高い水準の成長をしているものの、直近のインフレ率は2.0%±1.0ポイントにコントロール出来ている。
 これは、実験的だし野心的だが、我が国はこれでも小国だ。新しい事はなんでもやってやれないことはない。

 日本国は我々が先鞭をつけた労働派遣法を巻き戻させた。
 その代わり、解雇規制はあっさりと撤廃させてしまう。
 そのお陰で、日本の労働環境は世界最低水準へと落ちていく。
 我が国は、解雇規制の緩和と派遣業規制を同時に進めていく。
 また、BIを導入し職業訓練への予算を増額、起業の支援を強めていく。
「挑戦した人は、挑戦したと言うだけで報われる必要があり、またどのような人にも平等に文化的生活を保証しなければならない」
 勿論、労働基準に関しては厳密に運用して、ブラック企業はその経済的価値によらず退場して貰うことにした。

 人が人の為に仕事をするのは、あくまで自分に余裕がある時だ。
 人を動かす二つのてこ。国民にはなるべく利益で動いて貰いたいし、敵には恐怖を与え続ければよい。

 国民に利益が出てくると、それを狙って移民が増える。
 移民には言語のテストと、この国の価値観に対する理解テストを行う。
 これはあらゆる国からの移民に対して、平等に日本語で行う。(その為、なるべく優しい日本語で行うが)
 思想統制的だと言う意見も当然出てくるが、「文化的価値観を共有できない人々の増大は、多くの問題を引き起こすことは他国の状況を見ても明らかであります。我々の要求するのは寛容と非暴力であります。他者に不寛容で暴力的な人間は、最低限言葉での対応が出来ません。そのような人は、如何なる人種、宗教であっても人類に対する悪ですので、移民を認めないのです」と返事をしている。
 事実、入国を拒否された人々の反応を見れば、それが正解であることが分かる。
 不法移民――我が国と日本国との国境に検問はないが、居住、労働実績があれば、それらを逮捕し強制送還を行う。また、これらを承知の上で雇っている雇用者は、例外なく資産の差し押さえと逮捕を行う。
 我が国に何かダメージを与えたいと思っている組織が、病人のいる家族を送り込んだり、不法移民による出産などの問題を針小棒大に取り上げ、ニュースにしているが、そもそもそういう問題は、母国が担うべき問題であり、我々のリソースを食い潰そうとする人間に掛ける情けはないのである。
「我々は核融合発電を始め、多くの分野で国際協力をしている。我々に助けを求めるのであれば、国際的な協調の中で救われるべきであり、自分一人が助かればいいのだと言う発想の人間を移民として認めるわけにはいかない」

 水面下ではあるが、日本の地方自治体から、我が国への割譲を求める動きもある。地方財界の実力者や地元の政治家達である。
 勿論、理由なき実力行使は出来ない。
 こうした動きは、日本国に知られると非常にマズイのではあるが、求めて来る以上、助ける必要もでてくる。
 一番難しい相手が日本国だ。隣国とはそういうものだ。

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