0219 紺屋の転職

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0219

 友達からコンビニバイトなんてやめて、稜邦中学校の工事現場で働いた方がいいぞと誘われた。
 稜邦中学校の絡む工事は、元請会社が全員雇用して、中抜きを一切排除しているらしい。その上、三交代制とのこともあって、こんな田舎だと言うのに給与水準が非常に高いのだ。
 そうもなると他の現場でも同様のことが起こり、当然人が集まってくるのだ。
 僕の住んでいる隣町にも、空き地を使って労働者用の宿泊所が作られている。そこからバスが定期運行しているようだ。よく似たバスを何回も見掛ける。
 住宅地と学校は多少離れているので騒音はないが、夜中に見ても空へと照明が漏れている。
 友達は元々街でフリーターをやっていたが、降って湧いたバブルに乗っかってこっちの方に出てきているのである。
「いや、でも、工事終わったら仕事ないし、また引っ越しするの大変だし」
 僕は断ったが、友達は「人ではいくらあっても足りないぐらいだから、気が変わってら教えてくれ」と言う。
 こっちも客が増えていて割と忙しいのだから、今の事を考えていても辞められない。そんな話をすると、「自分の事なんだから、自分の都合を考えろよ。逆の状況だったら相手は自由にクビにできるんだぜ」と煽ってくる。
 まぁ、そういうのもあるけれど。

 そもそもの話をするなら、僕はこの町に正社員の口があったから来たのだ。それがご破算になり、仕方なしにコンビニバイトをしている。ここで期限付きの仕事をすると遂に行くところまで行ってしまうような気がしているのだ。
 友達と分かれて一人になると、そういう諸々を思い出す。
 あれから一年ぐらいだ。落ち着いたらちゃんと探そうと思っていたのに、だらだらとここまで来てしまった。
 本気を出して仕事を探さなければならない。
 求人誌を買ってきて、ぼんやりと眺めてみる。
「山の学校で人を募集しているのか……」

 焦燥感に襲われる。これを逃したら次はないのではないか?
 そして、客としてきている不死者の面々に悪い人がいないと言うのもある。
 ダメモトで受けてみるかと、すぐに電話を入れていた。

 面接の日取りは、向こうも忙しいのか一ヶ月後となった。
 この町でバイトを始めてから、漸く校内に足を踏み入れる事になる。
 守衛さんにアポの確認をしスマホを預ける。身体検査と持ち物検査をして校内である。
 想像以上に建物が沢山あり、そして、あちこちで工事をしている。
 守衛さんに教えて貰ったルートで面談室のある建屋に向かう。手渡されたカードキーは、目的の場所以外開かないようになっているそうだ。

 面接に現われたのは小野田さんだった。
「あなたはコンビニの……」
 顔を覚えてくれていたらしい。
 幾つかの基本的な事に答えていく。面接としてはそんなに突飛なことは起こらなかった。
 彼女は淡々と説明を続ける。

 仕事内容は事務仕事と購買の手伝い。場合によっては食堂も手伝うと言う。
「当面は雑用になると思ってください。
 秋頃に購買が移転するので、恐らくそちらのお仕事がメインになるかと思いますが、働き方と希望次第で別の仕事をお願いするかも知れません。
 あと、入浴施設も作る予定ですので、そちらになる可能性もあります。
 あまり内容がはっきりしなくて申し訳ないのですが、それでもよければサインを戴けますか?」
 話が急展開過ぎた。
「働き始めるのはいつですか? 今のバイトを急に辞めるのは、流石に悪いので、せめてシフトの分ぐらいは消化したいのですが」
「勿論、その分も考えますので、都合のいい日からの出勤で大丈夫です」

 それで、僕は数々の書類にサインをしていく。雇用契約書や機密情報に関するものだったり保険だの福利厚生に関わる書類だったりする。
 あっさりと正社員の仕事が決まった訳なのだ。

 バイトは今月の分が決まっているので、来月頭からと取り決めた。
 お客さんが多くなったこの時期に辞めるのは、流石に店長に嫌がられるだろうと思ったけど、学校に勤めると聞いて、「それなら仕方ない」とすんなり諦めてくれた。
 やっぱりこの町は学校ファーストなのだ。

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