0202 生徒編入のお話し

ページ名:0202 生徒編入のお話し

0202

 稜邦中学校に於ける生徒受け入れに関する特措法の件で、教員の採用が進んでいった。
 教員の半分は、具体的な研究職で、教員としての仕事を請けるのを条件に自由に研究できる環境を提供するというものだ。
 研究の内容は、所謂理系の分野に限らず、哲学や歴史学のような文系の分野や音楽、芸術、スポーツにまで広がっている。
 残りの半分は、慎重に選んだ教育のプロフェッショナルである。それぞれに強みがある専門家集団だ。
 教員に求められたのは、子供は支配するものではなく、自分を押し付けてはいけないと言うこと、人格を大切にし自主性を育てる。マイクロマネジメントは決してしないことであった。
 授業は基本的にホームルーム以外の固定はなく、本人が必要と思う内容を自ら選んで教えを請うようにする。(但し、最低限の試験はあるので、好き嫌いはできないし、選ぶカリキュラムも面談を行う)
 定期的な面談と日々の観察により、主専攻と副専攻の二つを選び、研究職の元に付く。
 期間は、中学一年生で入ってきた場合は十年だ。特措法のお陰で、学士号は得られる。リッチな中卒と言う訳である。
 編入可能な年齢は中学一年から高校二年までの間。
 余りにも高コストな教育体制だが、羊子ちゃんが言うには「教育はそもそもコストが掛かるものです。子供にコストを掛けるのが人間と言う種の筈です。人の人生を安上がりに済ませようとした挙げ句に、国民一人当たりのGDPが下がっていると言うのは、自業自得でしょう」と答えた。
 また、費用自体は学校から出すし、返済推奨の奨学金を設定すると言う。
 「好きな事をするのに、国民に負担は掛けません」まで言われて何の攻撃ができよう。

 自主性に任せろ、マイクロマネジメントをするなと言うと、サボる子が出てくると言う話が出てくるが、「それがない子を選んで我々は受け入れます。それがある子は、従来型の教育で回るのではないですか?
 我々が成そうとしているのは、現在の教育システムの中ですくい上げられない子のポテンシャルを最大まで上げる事なのです」と説明する。

 そんな理由で、子供集めは大変なことになった。
 他薦は基本的に受け付けないが、教師が手に負えないと言う子も、本人次第で受け入れると言う。
 親の問題で応募できないと言う子供に関しては、特措法の"文科大臣の定めた場合"として、拉致同然な方法で連れて来る事も出来る。
 そういう子供がどうやって応募するかと言えば、紙切れに自分の個人情報と稜邦中学編入希望の文字を書いて、ポストに投函するだけでいい。切手代は学校持ちである。
 黒服による素行調査と、楓さんが信任した教師の路上での面談、そして、そのまま連行となる。
 逆に金銭に余裕のある家庭は、"道が選べる"と言う理由で、成績がいいと言うだけでは編入は認められない。
 再度言うが、現在の教育システムに縛られずに子供を育てるのが目的である。現在の教育システムで上手く行く、そして自力救済が出来る人に我々は必要ないのである。

「これから人口が減るのだから、使える人材を無駄なく使えるようにするのは、国策で対処すべきであり、国を豊かにするためには、減る人口以上に個人のポテンシャルを上げなければならないのです。
 国民に安価な労働を強いてよい時期はとうに過ぎているのですよ」

 親が捨てた子から親を捨てた子、学校が見捨てた子から、学校を見捨てた子までと言うのが、募集要項ではある。
 勿論、勉強がしたくないと言う理由は認められない。
 逃げることが目的である子は否定しないが、その為に必死になる覚悟があるかどうかを見定めている。

 学校の裏山がまた一つ消えて、生徒の寮と教員の寮。新しい校舎が建っていく。あきらちゃんが過労気味だ……
 応募総数は、五百人。
 生徒の数が、一気に三倍になるわけだ。
 難事業が始まる。

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