0186 行動党

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 国会は稜邦中学の思い通りに事が運んでいるようだった。
 半可通の人間は、この不老不死の人間を可哀想な子供と言う顔で見ていた。野党はそれを援用して、転生者の自由を制限していた政府を大いに批判したのだ。
 転生者の有能さは既に示されていたので、才能を無駄にしたと言う批判も両立する。
 野党が政府を批判すればするほど転生者は有利に立てると言う筋書きであった。
 そして、内閣も遠からず解散総選挙を行わなければならない時期が来ているのを悟っていた。
 去年から続く政権の不安定さは、ここに来て最後の一手にまで迫っていたのである。

 黄色の場合発動からこっち、学校関係者は政治の中枢に踏み込むための算段を巡らしていた。勿論、現状でも十二分に踏み込んでいるわけだが、我々の姿が明らかになった以上、同じやり方は難しくなって来たわけである。

 鐵池政治塾は、"勉強会"と言う名目での表出を画策していた。
 これによって有力政治家が、稜邦中学の"政治家"の面々の軍門に下っていることが明確となる。
 問題はタイミングである。
 解散が確定した時点で行う必要がある。
 勿論、そんなやり方に反発はあるだろう。
 その為に、様々な根回しや工作を行う必要があるわけだ。
 超党派の鐵池政治勉強会設立と、稜邦中学発の政党である行動党発足を宣言、既に様々な団体、企業の弱みを握っているので、支持を取り付けるのは容易い。
 対立候補への揺さぶりも黒服や諜報畑の生徒が行っており、生徒である八名の当選は確実となるように事を運ぶのだ。

 行動党のマニフェスト第一項は、マニフェストの実行であると言う程自信満々であった。
 その内容は、今まで"無駄"とされていた"平時の余裕"を取り戻し、国土強靱化とは即ち冗長性である事を示した。一方、財源としては多重下請けや派遣業によるピンハネを徹底的に排除することにより確立するとした。
 長期的にベーシックインカムの導入を検討するが、その下地として社会保障の健全化と適正化、公正化を行う事を宣言した。
 基礎研究の拡充と、教育に於ける"勉強嫌い"を終わらせる為に、教育改革を行う。カリキュラムや学校制度の根幹をドラスティックに見直す。同時に教員の過重労働の是正や残業代支払いの徹底を行う。
 派遣の徹底排除により、公務員の社会的地位の向上を図り、同時に冗長性とは見なせない無駄、だぶついたポストを排除。
 外交的中立を達成堅持するために、外交力の醸成と、各国へのパイプを作り突発的な危機を回避する能力を高める。
 (古い言葉だと理解しつつ)内需拡大を志向し、労働者が積極的消費に向かうマインドを養う。
 財務省の改革を促し、達成度によって税務年金の歳入庁への再編を断行する事を明言。同時に投資庁の設立も目指す。
 中小企業を支援し、大企業の機動力を補う構想を提示。
 政策の効果に検証を要求する。
 科学的に有意な環境政策、保健衛生政策の実現。

 実のところ、国民受けの悪そうな構想は取り敢えず伏せた状態で、実績を積み上げようとしている。それが独裁者のやり方である事は百も承知である。

 それにつけても、敵を作るばかりの政策である。
 だが、行動党設立に関して、これほど如才なくやれたところを見ると、その実現は疑いない。
 実際に、反対勢力が誰も明確に反対できないのは、明らかに彼等の情報優位によるのだ。
 当然他の党からの造反が出てくる。
 勝ち馬に乗りたい奴がいるからだ。だが、単に政局を見ているだけの連中はお断りして、能力のあるものだけを受け入れた。
 勿論、裏切った議員に対する風当たりより強くなる。
 だが、「人が間違いを正そうとしている時に、変節するなって言う人は、間違いを是認する故に害悪である」と擁護し、「感情的なしこりにより合意できない」のような意見には、「個人の感情の問題の方が国民の利益よりも大とする人は政治を行ってはならない」などと批判した。
 ここまで言うと特に無党派層は大いに支持をすることになる。
「今まで無力感に苛まれていた選挙を、意味あるものに出来る」
 と言うかけ声は、解散総選挙へと向かう人々を鼓舞するには余りあるものである。
 極めつけは、「寿命のある人々は、定年まで自分の利益を確定するように仕事をすれば十分でしょうが、我々は歳を取らない以上、永遠に国民に向き合い続けなければならないのです」と言うコメントである。

 懇意の政治家や官僚が、行動党に立候補者や秘書として合流。公示、告示までにいっぱしの政党としての体を成してきている。
 妨害工作は、物理的なものであれば荒事担当が排除したし、情報的なものであれば、諜報担当が処理したのだ。
 相手が妨害工作を行うほど、こちらは攻撃されていると言う証拠を国民に示す事が出来、そして、それらが同情票へと向かうのは必至であったのだ。

 さて、政治的なものに対して、不快感不信感を持つ人間は当然出てくる。だが、彼等が投票行動に出るか? と言えば、それは歴史が証明している。
 独裁者が如何にして成立したかを考えれば、それは疑いもない。

 斯くして、選挙へと突入したのである。

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