0177
私が東条さんの父親を怒らせた後、彼女の沙汰は下ったらしい。
勘当されて二度と顔を見せるなと言うことだと言う。
彼女が親に何を言ったか知らないが、その顔はすっきりしていた。
法務省の事は、暫く休職となり省内の調整が済み次第依願退職となるらしい。
彼女は冗談だと前もって言いながら割と真剣な顔で「ちさとちゃんのマネジメントしたい」と言うのだ。
変な空気になると、すかさず「コンビニ店員でもなんでもやるつもり」と笑って誤魔化した。
真生ちゃんやルイちゃんにその事を言うと、「ちさとちゃんは私達がプロデューズ中なんだけどなぁ」と頭を掻いた。
だが、それ以外も何か考えているような風であった。
変なことを企まなければいいけど……などと思っていたら、案の定、面倒くさい案件を持ってきた。
「私とルイ、ルチルちゃんで事務所立ち上げて、あと峰ちゃんの個人事務所と合併するってやりたいんだけど」
「何でそれを私に聞くんですか?」
言いたい事は分かっていたが、念のために聞いてみる。
「そりゃぁ、ちさとちゃんも合流しようって話じゃない」
思った通りでした……とは流石に口には出せない。
「私、収益化考えてないけど?」
「それでも色々大変じゃない? 今、事務所に入ると機械のレンタル料タダにするよ?」
真生ちゃんは会心の笑顔を作って持ちかける。
「何ですか、そのウォーターサーバーみたいな勧誘。
そんなんじゃ乗りませんよ」
私がやんわり断ると、拗ねたような顔をして言った。
「アイリちゃんをマネージャーとして雇おうと思うんだよねぇ……」
「うわ、ずるい! そういうのずるい!」
私が抗議の声を上げてみたところで、「気が変わったでしょ?」と言われる。なので、これはどうにもならない。
「別にちさとちゃん釣る為に雇うわけじゃないからね。あれでも元国家公務員、仕事やらせたらちゃんとやるでしょう」
そのちゃんとした仕事が身につかないってんであの子悩んでるんだけどなぁ……と思いつつ、真生ちゃんの企みにまんまと乗る事になったのだ。
真生ちゃんとルイちゃんは、しっかりと根回しをしていたらしく、キャラクターの使用権やら何やらをごっそり移転させる事が出来た。
事務所としては、転生者による有形無形の圧力から解放されると言う意味で良かったのだろうと思う。
勿論、ある程度のお金を積んだことは想像に難くないが。
さて、問題なのは東条さんの事だ。
いつ飛びついてくるかビクビクしてたら、次の週には話が行っていたのだ。
目を輝かせながら夢を語るので、「いや、知ってると思うけど、私、お金儲けのためにVやる訳じゃないから、収益化も案件もやらないよ?」と引き気味に答えた。
「そ、そうだよねぇ」
東条さんは残念そうに答えた。
これから五人分のマネジメントやるのに大丈夫かしら? と心配になる。
そして、その心配は想像以上に早く訪れる事になる。
前々から真栄田さんの専属のマネージャーをやっている人の事だ。この人実に優秀で、五人分の仕事を精力的に取ってくるのだ。
私は日々のんべんたらりと配信するだけだが、他の四人はきちんとしたお仕事故、そこそこ多忙となる。
そうもなると、東条さんの仕事も大変だろうと想像が付く。
土曜日の喫茶店で、疲れた顔の彼女を見掛ける事になる。
「大丈夫です?」
私が尋ねると、「大丈夫、なんとかなってる」と誤魔化そうとする。
「無理してない?」
の問いかけにも、一瞬の間があってから「大丈夫」と言うので、これは大丈夫ではないなと印象しかなかった。
早速「あの子病み上がりなんだから、もう少し気を遣わないと」と、事務所の面々に苦情を入れた。
そうしていると、真栄田さんに「社長、ちさとちゃんの方が向いているかもね」と言われてしまう程だ。
この人達は……
しかし、東条さんからしたら、一番したいのは私のマネジメントなんだろう。だが、私はあっち側には行きたくないんだよなぁ。
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