0170
我々はMC-130J特殊作戦機にて中東某国に向かっている。
搭乗しているのは、一等軍曹の私と上官のG中尉、そして十二、三歳の少女二人だ。
この二人についてはあとで触れるとして、作戦の説明がある。
「大統領と法学者との対立が退っ引きならないところに来た。
国内軍が大統領を監禁して、クーデターと同時に戦争を始めようとしている。
我々は、大統領であるアブドル・アルハズラットを助け、クーデターを阻止する」
私が「クソ、あの独裁者をかよ」と言うと、少女の一人が「他人の国を上手く統治できるなら独裁者の方が都合よくない?」と言うのだ。
もう一人が、「嶺桜、アメリカ人の気持ちを代弁しなくていいから」と笑う。
中尉も一緒に笑っている。なんだ、こいつら……
私が中尉に尋ねると、深く聞かずとも答える。
「ああ見えて、二人とも私よりも年上だ。
詳しくは軍事機密だが、一人一人で我々が束になって掛かっても勝てないぞ」
ここに来て冗談という事はないだろうが、それは俄に信じられない。
降下する時が来た。
真夜中だ。
「静かな夜ね。希望」
嶺桜と呼ばれた女の子が呟く。
そして、希望と呼ばれた子が答える。
「こういう夜に飛ぶのが好きだったよ」
それから二人は揃って飛び立っていった――高高度降下だ。
地面に辿り着くと、手際よく展開する。確かに素人でもただの少女でもなさそうだ。
嶺桜がMK20 SSRを持ち、希望がSCAR-HのSTDを持つ。
夜が明ける前に潜入しなくてはならない。
嶺桜は我々と離れて、狙撃ポイントへと移動する。
「大丈夫なんですかね?」
小声で尋ねると、希望には聞こえていたようで、「嶺桜ちゃん、麻薬戦争の時、二千五百メートルの狙撃してたんだよね」と言うと、私の顔をみて微笑んだ。
砂漠を歩き、小さな軍事施設に辿り着く。
フェンスを切断し、進入する。
近付く巡回警備兵は狙撃で排除されていく。
それは見事な早業で、最後の一人が叫ぶ間もなく、全員が倒れるのだ。
NSAの情報から、建物の目星はついている。
なるべく見つからないルートで移動する。
近くの見張り台の上の兵士が倒れる――と、嶺桜から連絡が入る。
「私撃ってないのが死んでる。多分、同じ事考えている奴がいる。気をつけて」
あそこの見張り台が邪魔なところで、我々と違うルートと言う事は……黙って考えていると、希望は我々にここを動くなと言う指示をした。そして、今、陰にしている建屋をぐるりと回り始めた。
三十秒後、カツンカツンと言う、サイレンサー付きの拳銃の音がする。
それが止むと、また三十秒後に希望が現われた。
目的の建物に張り付く。
鉤縄を投げて、屋上へ。
ロープを下ろし、アプローチ。
タイミングは嶺桜の狙撃。
降下。
待機の兵士を銃殺する。
小型の爆薬でドアを破壊。
大統領を助ける。
流石に慌ただしくなる。
嶺桜はトラップを仕掛ける。
我々は大統領を抱えながら下まで降りる。
嶺桜が援護射撃を行う。
基地の外まで一直線だ。
嶺桜の射撃は正確で無駄がない。
「一人だけ違うゲームをしてる」
私が叫ぶが、嶺桜は黙ったまま仕事を続ける。
正面からSUVが突っ込んで来る。
「希望、ベストタイミング!」
嶺桜がきゃっきゃしながら銃を撃ち続ける。
SUVは、潜入工作員が用意しておいた装甲仕様だ。
嶺桜が牽制しつつ全員乗り込む。
助かった。
「まだかもよ?」
希望が笑う。
大統領はなにやら騒いでいるが、車は銃撃に曝されるので、頭を伏せるばかりだ。
重機関銃やロケランで狙われるが、それらを巧みに避けていく。
嶺桜は身を乗り出して反撃する。
私もやろうとしたら、「軍曹、私の身体を支えていてくれない?」と笑う。
硝雲弾雨に怯まず反撃していくと、追っ手は一台、また一台と減っていく。
最後の装甲車は、RPGを撃ち込んで終わりとなる。
「第一軍でいいんだよね?」
希望が現地語で大統領に尋ねる。
第一軍の軍団長は大統領と古くからの友人だ。
大統領に携帯電話を渡す。
それからは一気にたたみ掛けられる。
国内軍は権力こそ大きいもの規模は小さい――独裁とはそういうものだが――ここに第一軍が大統領を保護するとなると、国内軍だけでは敵うものではない。
各軍や参謀本部に連絡を入れる。
陸軍第二軍、第十師団、空軍、海軍も寝返る。
国軍の指示を得て、荒野に向かう。
そこには、ヘリで待機している第一師団長と統合参謀がいた。
それから、我々は国軍の護衛付きで国境まで向かう。
その頃にはクーデター失敗がニュースになっているだろう。
大統領を救出したのは、国軍の特殊部隊と言う事になる筈だ。
我々は隣国にある米軍基地に移動し、そこから帰路に就く。
沖縄へと向かう途上、色々質問してみるが、秘密だらけであまり回答にならない。
「君たちは一体……」
「ただの中学生ってことになってる筈だけど」
希望が焦らすように言うと、嶺桜が「中学生でしょ、私達」と笑う。
「そこまで言っちゃっていいのかなぁ」
などと話している所を見ると、こんな少女は他にもいるのだろう。
「あと、最後に。あの時、我々の邪魔をしようとしたのは?」
「外交を通じて、それは黙っておくように言われてるけど……大体察しはついているでしょ? あそこで大統領助けて得になるのが誰かって」
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