0169
今日は三年生が卒業した。
歌を歌い、演台から送辞を話す。冬休みが明けてからかかりきりだったので、ちょっと自信があった。
式が終わると、卒業生は名残惜しそうに学校を去っていった。
知り合いから「送辞感動した」と言うメッセージが入ってくる。
そんなメッセージを読みながら、暇になった午後、家でゴロゴロする。
カナちゃんも凛ちゃん暇だと言うから家に集まっているけど、何をすると言う気も起こらなかった。
それは怠惰というよりも、卒業式の感動にあてられていたのだ。
「どうしよう?」
漫然と出た質問に、カナちゃんが「楓ちゃんちに行こうか?」と答えた。
「ダメダメ、あそこ、卒業式らしい卒業式ないから、通常運転なんだよ」
私が答えると、カナちゃんは、「でも、会いに行くなら今日だよ」となおも言うのだ。
何故か尋ねると、「だって、楓ちゃん達と同い年で遊べるの、来年までだよ?」と、思いもしなかった――否、考えようとしなかった事を突っ込まれた。
「受験だから、忙しくなるし……」
凛ちゃんが寂しそうな声を上げる。
私的にはちょっと足を踏み入れたくない家ではあるが、二人はあそこの常連だし、楓ちゃんに懐いているので、私の反論など無意味だろう。
「じゃぁ、帰って来た頃に行こうか?」
私の同意に二人は諸手を挙げて喜んだ。
尤も、一番喜んだのは、カナちゃんからの連絡を貰った楓ちゃんだろう。
瞬時に「今すぐ帰る」とメッセージが入り――そのあと怒られたのだろう、「なるべく急いで帰る」と訂正された。
進路に関しては、私だけあやふやだ。
凛ちゃんは、最近急速に力を付けてきている。推薦で入って奨学金が欲しいらしい。街の学校に条件に見合うところがあるそうで、そこと地元の公立を滑り止めにするそうだ。
奇しくもこの学校、カナも狙っている所らしい。
「もし、プロ雀士になれたら、通学の面で有利だから」
と言う事らしい。
「えー、じゃぁ、私もそこでいいかな?」
私が適当な事を言うと、二人ともなんとも言えない反応であった。そりゃぁそうだよね、二人は真剣に考えて学校を選んでいるんだから。
私は窮地に立たされる。
「で、でも、もし、私も合格したら、三人で下宿とかできるし!」
苦肉の策である――と言うか、こういう時に実家のパワーを頼るのはどうなんだ? と思う所はある。けれど、二人には楽して貰いたいし、そうなると、こういう願いも悪くないのだと思うのだ。
とは言え、二人は戸惑いを含んだ微笑みで返事をした。
そんな話をしていると、そろそろいい時間である。
二人は喜びながら楓ちゃんの家へと歩む。
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