第一回の配信の後、イラストレーターのJoeさんがファンアートを上げた事もあって、知名度が更に高まってしまった。
何を隠そうJoeさんは、転生者のみのりちゃんのことなのだ。
そして、アバターのデザインも彼女のものであったから、真生ルイやJoeと交友関係にあるって、どういう人物なのだと、私の事も詮索され始めたのだ。
世の性の如く、VTuberの中の人を詳しく調べようとする人が出てくる。当然のことだが、学校に関して言えば情報は鉄壁なので、誰一人としてそれに近づくことはない。
私が、真生ルイと一緒で全く謎の存在である。その事は、何だかんだで妙な憶測も生んでしまう。
どっかの金持ちの娘が、金にモノを言わせただの、関係者の近親者と言うだけでゲタを履かせて貰っただのというものだ。
失礼なコメントをコテンパンにした事から、根強いアンチを作ってしまったようだった。
こういう動きに対して、他のVTuberの反応は概ね静観である。
真生ルイの関係性を考えるとコラボしたい人は多いようだが、しかし初回放送の飛ばし具合を見ると、遠慮したい気持ちもあるだろうか。
それに、私は彼女らの事務所の所属ではなく、個人としてやっているからと言うのもある。
楓さんからやれと言われたし、続けなくちゃいけないなと思いつつ、どうやっていけばいいかよく分からないでいる。
榛名ちゃんやみのりちゃんは「そんなの素でやればいいじゃない」と言うけれど、何が素なのか本人が一番分からないものである。
悩んだ末にルチルちゃんに相談してみたのだ。
「私がリードするから、一緒に配信しよ!」
即決だった。
そういう訳で、第二回配信は、いきなりルチルちゃんと一緒にやることになったのだ。
「そんなわけで、先輩、よろしくお願いします!」
私が言うと、気を良くして「よしよし、じゃぁ、先ず、ゲーム配信をしよう」と言う。
言われるがまま、一緒に対戦ゲームをする事になる。
とはいえ、私がゲームに弱いと言うのと、それに加えて初見プレイと言う事もあり、ボロ負けしてしまう。
そうしていると、「ちさとちゃん泣かないで!」とか「頑張って!」と励まされるのだ。しかもスパチャ付きで。
一方、ルチルちゃんは完全に悪役になって「もう少しこう、何というか、手心というか」とか「初心者相手に恥ずかしいと思わないのか!」とかボッコボコに言われた。
ルチルちゃんは、まさかここまで言われるとも思っていなかったようで、ノリの範疇ではあるけれど、はっきりと凹んでいた。
「ざっとこんな感じだから」
配信が終わった後のルチルちゃんは、ちょっぴりお姉さんぶっていた。見た目の年齢を考えればそれが正しいのだけれど。
ルチルちゃん自体がテンパっている感じが見受けられたので、何か突っ込むのは不味いなと思い、感謝の言葉だけを述べて終わる。
この流れで行くと、より他の人に気を遣わせる結果になるなと想像が付くので、迂闊なことは言えない。
彼女は彼女で、私に気を遣ってくれているのだから。
世の中、"気を遣う水準"を合わせるというのは大切な事だけど、その精度をミスると不幸しかない。
同僚に"コーヒーを飲むか"と尋ねられた時、どのように断るのが正解なのかと言う話がある。無神経な返事ではダメだと言うのだ。
しかし、ここで"コーヒーを飲むか"と聞く時に、"相手が回答に困らないように、どうコーヒーを勧めるのか?"と言う問題を認識出来ないと、本当の気遣いと言うのは達成しないだろう。
一方、単に「コーヒー飲む?」「別にいい」だけで終わる平和な世界を考えると、何が人間の幸せなのか、フレームの一つ大きな問題に踏み込むことになるのだ。
ルチルちゃんは、私の事を年配者だと気遣ってくれているけれど、その前提が消え去った時、私の気遣いがどの次元で適合しているのかは正直怖い話だ。
私は"私の世界に対する、慣れ親しみ"が余りにも過ぎているのではないか? と思うと、世間一般に配信されるこのお仕事の怖さを感じてしまうのである。
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