深夜の部室、私と睦都美で駄弁りつつ待機していると、羊子と陽、そして姫がやってきた。
「貴方達、なんでこんな時間に学校にいるの?」
睦都美が三人に問い質すと「リモートで会議だよ。アメリカ人とね」疲れたような顔をして陽が答える。
「仮眠室なら空いてるよ?」
私が答えると、「それよりも腹が減っちゃってさー」と陽が言うと、三人して笑っていた。
「賞味期限切れ近い保存食ってまだ余ってるよね?」
学校には食料の備蓄がかなりあるので、ローテーションして、黒服や職員に配ったり、部室や警備室に置いたりして常に消費状態にしてあるのだ。
「一番切れそうなヤツは、そこのカップ焼きそばだね。あと、来週までの野菜ジュースが冷蔵庫に詰まってるよ」
私が答えると、「汐~、助かったよ~」と姫がカップ麺に吸い寄せられていった。
三人とも容器にかやくとお湯を入れて、大人しくしている。
「ちゃんと片付けなさいよ」
睦都美が注意していると、「大丈夫ですよ。まとめて捨てるから」と羊子が答えた。
「分別!」
睦都美が言うと、「真面目だなぁ」と姫にまで笑われる。
「でもさ、姫がカップ焼きそばってなんかミスマッチ感あっていいよね」
私が笑うと、お湯を切る背中が笑いで震えていた。
「私だって餃子食べながらビール飲んだりするよ?」
その光景はその光景でちょっと見てみたい気がする。
「姫はみんなの姫だから、パブリックイメージ大切にしなきゃ」
陽が笑うと、すかさず睦都美がツッコミを入れる。
「冷静に考えて、三人ともカップ麺啜ってるキャラじゃないでしょ」
確かに世の政治家や官僚どもに見せられない姿であろう。
「いいじゃない、そういうのも含めてキャラクターでしょ?」
姫が開き直ると、睦都美は言いたい事を上手く言えないような顔をしているのだった。
「大切な時はちゃんとするから大丈夫だよ」
陽もそう言うので、その話はそこまでとなった。
それからわいわいと話をしながら、三人は野菜ジュースを飲んで仮眠室へと引っ込む。
入れ替わるように渚と瑠華が入ってきた。
「やっぱり、あそこ固着してるからハンマーでぶっ叩くしかないよね」
「サンプル勿体ないけど、諦めるしかないかぁ」
二人が仕事の話をしているので、「残業お疲れ様~」と挨拶すると「待機お疲れ~」と返事が来た。
「お腹空いたなら、そこのカップ焼きそばから食べてね」
私が言うと、「気が利くねぇ」と渚が笑う。
「多分もうお湯ないから、自分で汲みなさいね」
睦都美が言うと「気が利かないなぁ」とまた渚が笑った。
睦都美はむすっとして「気に入らないなら食べなくっていいんだけど?」と言う。
「悪い、悪い」
瑠華も平身低頭の格好でポットへと向かった。
「忙しいのね」
夜食の準備をしている二人に向かって睦都美が問いかける。
「ちょっと今日は面白い所まで行きそうだったんだよ」
瑠華の答えに「へー」と答え、そして「もしあれなら、冷蔵庫の栄養ドリンク飲んで良いからね」と柄にもなく二人を気に掛けた。
「むっちゃんも優しいところあるんだ」
渚が笑いながら冷蔵庫を探る。
「事故られると困るからです!」
また睦都美がむすっとしてしまった。
その後の会話は、二人がなんとかかんとか睦都美を宥め賺したので機嫌を持ち直して、そして、二人は研究棟へと戻っていった。
それから暫くして、巡回警備の黒服が姿を現す。
「お、カズマくん。巡回もするようになったんだね」
私が若い彼に問いかけると「少しでも早く一人前になりたいし」とぶっきらぼうに答える。
「コイツも色々考える事があるんだよ」
ジンがカズマくんのヘルメットを叩くと、「そういうのやめてください」と真面目に返されていた。
カズマくんを眺めると、タクティカルベストがサバゲーっぽく見えたし、PDWも玩具に見えるのだ。
私が黙っていると「ナンなんですか!」とカズマくんが恥ずかしそうにしている。
「そのうち身についてくるよ」
そう言って笑う。ジンも「コイツも努力してるんだよ」とフォローした。
「巡回お疲れ様、異常なしでいいよね?」
睦都美が確認して、二人はまた巡回に戻っていった。
朝が近づいてくると外が騒がしくなる。黒服達の朝の体操とランニングだ。食堂の職員も動き出し、朝食の準備と昼の下ごしらえを始める。購買や食堂への納品のトラックも入って来ている。
一日が少しずつ始まる。まだ空は青色の片鱗もないが。
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