0143 つかさのメイド喫茶に藤田が来る

ページ名:0143 つかさのメイド喫茶に藤田が来る

「お、藤田くーん。またデスクからガキの使いかなぁ?」
 いつものメイド喫茶に、藤田がやってきた。いつぞ説教してやった駆け出しの記者だ。
「そういうのやめてください!」
 怒っている顔が可愛い。
「じゃぁ、少しは考えまとめてから話をしに来たの?」
「いや……」
 なんだかもじもじしている。
「あのさぁ、私から情報買うって事は、これ、何かしらイロのある情報だよ? 少し考えてから来た方がいいよ」
「その……何というか、そういうイロってのが良くないんじゃないかって思うんですけど」
「そう思うなら、私から情報を買わない事だね。頑張って足で稼いで立派な記事を書きなさい」
 付け話すと、流石にそれはマズイと食い下がる。
「いや、どうしたいの? 記事を書きたいの? 書きたくないの?」
「書きたいです。でも、こういうのは良くないなって」
「貴方が、この道三十年ぐらいのフリーのルポライターとかならそう言ってもいいけど、まだ、あなた二年目でしょ? 上手い立ち回りを考えた方がいい。
 あの、ナントカって言う、テレビで出鱈目な解説している人いるでしょ? あの人、テレビに出るようになって○○党の本部にも、××党母体の宗教施設にも顔出せているじゃない? あれ、若い頃に無茶して出禁になってないからだよ」
 私が煽ると、「あんな人と一緒にしないでください!」と腹を立てた。
「お、威勢が良いねぇ」
「もっと真実に真摯であるべきなんですよ」
「それはごもっとも。でも、真実にはお金がかかるし、その上、思ったほど感謝されない。
 冷静に考えて……
 世の中の殆どの人は、芸能人がどうしたとか、コンビニスイーツがどうとか、ファストファッションで何が売れているとか、そんな話題ばかりしか気にしないでしょ? でもなかったら、センセーショナルで軽薄な出鱈目かな。
 その結果、真っ当な取材をしている人が割を食って、真面目な記事を書かなくなる。
 それで、本当は目に見えていた悪事を世の中に訴えられもせず、深化させて世にのさばらせる事になる。
 そういうの嫌でしょ?
 じゃぁ、真面目な記事でもマネタイズ出来るようにしなさいって事でしょ?
 今、メディアに力があるなら、それを今のうちに生き延びさせるようにしないと、あんたの会社もどっかに買われて、金にならん記事を書くなって言われるようになるよ?」
「でも、この件にしても、前の件にしても、それはあなた方の利益に結びついているじゃないですか。それって、コタツ記事と何が違うんですか?」
「この話なら、まだ主導権が君たちにある。書きたいように記事を書けばいい。ソースはあるんだから、そこらのお気持ちで内容を捏造するような記事よりずっとマシだ。
 それも気に入らないっていうなら、記事にしなくてもいい。
 マスコミは報道しない自由もあるからね。
 でも、あなたは、きっとこの件、記事にする。
 今回のTOBは確かに剣菱銀行の損になる話だね。でも、企業再生の専門家でもない連中が買収して何の特になるだろう?
 多分、本社工場の土地をデベロッパーに売却して、自分たちだけ黒字で会社畳むだけじゃないかな?
 剣菱銀行がどれぐらい上手くやってくれるかは分からないけれど、今回の買収相手よりはずっといい判断をしてくれると思うよ。
 信じられないなら、もう少し社内の空気を取材した方がいい」
「それって……」
 私の説教に怯えている藤田がいる。
「あんたの仕事する余地はまだあるって事でしょ。
 記者ならあっちこっち首突っ込んで話を聞きなさい。
 公正な記事を書こうと思うならね」

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