0140 ちさとが店長の子をからかう⑤

ページ名:0140 ちさとが店長の子をからかう⑤

 喫茶店の仕事中。今日は久しぶりに長男が顔を出した。
 何か少しは優しい言葉を掛けてやるべきだなと思っていた。
 前に三惠子ちゃんに相談した時も、「学校でなにかあったのかも知れませんね」と言っていた。ここで突き放したらいけないだろう……

 と、思っていたのだけど、今回もふっかけられたネタは、政府関連の陰謀論だ。
 陰謀なら、我が校だけにしてくれよと思った。
 証拠は沢山あるといって、あれやこれやあやふやな話を並べるばかりだ。

「あのね、多角的に判断するって、『自分の結論に至る証拠をどこからでも集める』ってことじゃない。
 自分で考える事は大切だけど、検証のために丁寧に調べる能力がないとしんどいよ。
 陰謀論は、結局、自分が馬鹿でクズでどうしようもないって事を認められない人間が、『他人には理解できないことを理解している俺はそれだけで凄い』と自分に言い聞かせる事のできる便利なツールなんだよ。
 自分の気に入らないこと、不都合なことの原因に、第三者の悪意を認めるのは、本当に人間終わったようなものだからやめなさい」

 と、ついつい口を突いて出てしまった。
 無言で立ち去ろうとする長男に、「ちょっと待って!」と声を掛けた。
「なんだよ」
「何か悩みとかない?」
「ないよ」
 静かに立ち去っていった。
 またやってしまった……

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