0134 文化祭カズマ編

ページ名:0134 文化祭カズマ編

「今日は、沢山人が来るからね、身体検査が大変なんだよ。お前も手伝え」
 今日は文化祭だ。文化祭と言っても、転生者が好き勝手遊ぶ祭りなので、我々職員サイドには負担でしかない。"お小遣い"は出るらしいけど。
 尤も、ここらの人はそれなりの仕事をしている人ばかりだから、お小遣いは名目でしかない。それでも楽しみにしている人は大勢いるようではある。
 影で、女子生徒総選挙と言うのが開かれていて、「君ら、あいつらの正体知っててやるか!」と言う気分にさせる。

 さて、仕事は入国審査みたいなものである。
 招待状の真贋を確かめて、身分証明書と照合、電子機器の提出を求め、指紋の採取、金属探知機と、ミリ波イメージング装置の通過を経て、入構章の発行を行う。
 厳重なのは仕方ないとして、それで、好きに歩かせていいのかよ? とは思う。
 だが、校内はカメラと対人センサーが蜘蛛の巣のように張り巡らされているので、仮に怪しい行動があれば、即座に黒服が出動と言うわけである。
 勿論、いざとなれば生徒の方が出てくる。半分酔っ払ったような連中にシバかれたら、まぁ、タダでは済まないだろう。

 俺が表に立つのは、些かマズイので、基本裏方であれこれやる。
 基本的には午前中にわらわらと来るので、それを過ぎたら解放されて、遊びに行っていいらしい。
 そんなわけで、特に期待する事はないけれど、仕事だけは一所懸命頑張った訳だけど……校庭に出てみると、本当に何も期待できるものはないな……

 縁日のような屋台や、キッチンカーが沢山並んでいて、それはそれで華々しいのだけど、どこもかしこも酒を売ってやがる。
 なるほど、生徒はタダの未成年ではなかったな、などと感慨に耽る事は出来る。
 あんな気まずい思いをしなくても、自然にバラされることじゃねぇか。と、妙に腹が立ってくる。

 うろうろしていても目に毒だ。鯛焼きでも買って、部屋に引きこもるか。
 そんなわけで、夕方まで兵舎でだらだらしていた。
 黙々とゲームをして、イライラを抑えるしかなかったのだ。
 昼飯を鯛焼きで済ませてしまった事もあって、夕食時には早いが腹が減ってきた。
 お好み焼きとか色々あったな……
 そう考えて、ふらふらと表に出てきたのだ。

 屋台の方に歩いて行くと、御堂さん、神内さん、楚山さんに、あと知らないオバサンが酒盛りをしている所に遭遇した。
 不味いなと思ったが、酔っ払った神内さんに「どーした少年! 切ない顔しちゃってさ?」と引き留められた。なんだよ、そのテンション……

 「俺は飲みませんよ」と先制攻撃したら、楚山さんに「当たり前でしょ」とカウンターを当てられた。
「私達が年取らないってので勝手に傷ついてるんでしょ?
 大体、あの子も不器用なんだよ。そんなの笑って済ませることでしょう?」
 と、自分の中の触って欲しくない話題にズバリと切り込んできたのだ。
 オバサンは、それに対して「真生ちゃん、正直私は傷ついたよ」と寄りかかって言うし、もう、いろいろグダグダだった。
 仕舞いには、比較的冷静に思えた御堂さんまで、
「カズマくん。単刀直入に言うけど、勇結ちゃんのこと、ちょっと好きだったりするんでしょ?」
 と言ってくる始末だ。
「もし、好きなら早いうちに告白した方がいいんじゃない? 十年したら、もう、私達と貴方じゃ、付き合えないんだからね」

 お節介な事を言われてしまった。
 もう、そこからは頭の中をいろんなものがぐるぐるするばかりだ。
 夜も夜で忙しくなるので、また応援に出かけていって、気を紛らわした。
 しかし、就寝時刻になると、またしんどい問題がのしかかってくる。


 翌日も朝は大忙しで、昼過ぎに解放される。
 先に買う物だけ買って、引きこもろう。
 そう決めて、兵舎に戻ると、ジンさんと鉢合わせになる。
「なんだ、カズマ、やけ食いか?」
 両手に抱えた食い物は、一食分と考えると、かなりの量であった。
「晩飯の分もですよ」
 不機嫌に答えると、「悩みがあるなら、兄さんが聞いてやるぜ」と笑った。
「いらんお世話です」
 立ち去ろうとすると、「その様子なら、誰か気になる子がいるな?」とまた嫌なことを言われる。
「違いますよ!」
「恋するオトコノコはいつだって不器用なもんだ。
 いっちょ、そこんところ、兄さんに聞かせてみ?」
「しつこいですねぇ」
 流石にイライラしてくる。
「おいおい、ここで何も相談できないと、お前、他に相談できる奴いるのかよ?
 いるとしたら、やっぱりちさとちゃんだな。あの子は良い子だからな……お前にその度胸があるかだがな」
「やめろ!」
 叫ぶと、袋から唐揚げが一つこぼれた。
 ジンさんはそれをキャッチして、ニヒヒと笑って口の中に放り込んだ。
 俺が睨み付けると、「どーせ落ちる運命だろ?」と笑う。
「カズマ、お前もな、どーせ落ちる運命なんだ。転生者の魅力には抗えない。お前の歳ならな」
 得意げな顔をしている。
「仮にそうなったとして、大丈夫なんですか? その後」
 そう言うと、にんまりした顔つきで返事をする。
「おお、最後までは付き合えないが、そこそこ甘い生活をした奴がいるな……誰とは言わないがな。
 なぁに、初恋の相手と結婚しなきゃいけない法はない。
 お前の人生の前哨戦だよ」

 ジンさんが去ったあとも、随分とうじうじしてたと思う。
 しかし、多分、これは自分が乗り越えなければならない一つなんだなと言う気がしてきた。
 むしろ、これを避けていたら、この学校に一生馴染めないだろうなと言う危機感まで湧いてくるのだ。
「中本さん。ちょっと話したいことがあります」
 メッセージで澄まそうとしなかった俺は偉いと思う。
 否、ネットにはその手の失敗が大量に転がっていて、それを本能的に避けたのかも知れない。


「ど、どうしたの? 話って。仕事のことなら、よっぽどじゃないと動く気ないからね。今日は土曜日だし、祭りだし……で、でも、よっぽどの事だったら仕方ないよね」
 中本はどぎまぎしながらも、話を紛らわそうとしていた。
「な、なんていうか……その……あの……中本さんのこと、気になっていて……」
 自分自身でも声が震えているのが分かる。
「や、やめて、それ以上はやめて!
 あんた、何言ってるか分かってるの?」
 叱るような言い方だ。
「分かってる。どうなるかも分かってる」
「ちょっと考えさせて」
 中本は苦渋の表情をしていた。
 そして、俺はその場を立ち去った。

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