「お、噂の美人さんだね?」
只見唯、二十八歳。元扶桑会議のメンバー。留学中に怪しい人脈をあちこちで作っていたようで、兎に角きな臭い。一方、その行動に一切の思想性が見いだされない。統一性がないのだ。
MI6やCIA、SVRも一通り調べてはいるそうだが、知り合いに尋ねる限り「ただのワナビじゃね?」と言う事らしい。そうであればいいんだけど。
「あなたは?」
水主と一緒にいるとき以外は、いつもフラットな表情をしている。悪意は感じられないけれど、好意も伝わらないと言う感じだ。
「私、踵繋。繋って呼んでくれればいいよ」
「繋ちゃんね? 私も唯でいいよ」
一瞬だけ顔が明るくなった。
「唯ちゃん、あまりまどろっこしい事は嫌いだから、単刀直入に言うけど、本当に水主が好きだから来ただけ?
いや、私もこんな仕事してるからね、ウラがあるならそれでもいいんだ。
それならそれで、フェアに仕事が出来ると思ってるしね。なんなら協力だって出来るかも知れない」
言いたい事を伝えると、考えつつ話す彼女がいた。
「うーん。私がここで、ウラがないよって言っても、私の評価はグレーにしかならないでしょ?」
「悪いけど、そうなるね」
彼女はそのフラットな顔のまま続きを言う。
「それでもいいよ。私、ここに来られただけで。
ここで暮らせるなら、売店でも食堂でも働けると思うよ」
「それはよい心がけだね。でも、流石にその能力があって使わない訳にはいかない。君もそれをアピールしてきたわけだしね」
これに対して、答えは一つだけだった。
「身勝手な人」
やたらと大人びた顔をしている。
「我々はいつも身勝手だよ。生存が懸かってるからね」
「私、転生者のそういう余裕のないところ好きよ」
しっとりとした表情が続く。
「お褒めいただき光栄ですね。
ポリシーがないのは、仕事には便利だ。だけど、紐帯はない。
我々の懸念は理解できるよね?」
そこまで言うと、彼女の表情は晴れやかだが必死になる。
「私、水主ちゃんに生かされているの。水主ちゃんがいなかったら私、死んでなくても死んでた。
水主ちゃんに追いつく為なら何でもした。
私が望むのは、水主ちゃんと共に歩むこと。そのためなら何でもするし、正直にもなれる。
だからお願い!」
「大丈夫、水主もそれを望んでいる。達者で暮らすといいよ。
仕事はそんなに危険なのは回さないようにするよ。
どのみち、君は命を狙われる身だしね」
話が決着すると、「繋ちゃん、本当にありがとう!」と満面の笑みをしていた。
なんだかなぁ。
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